第十七話 遭遇

「だんだん……大きくなっていくんです」


 真くんは慎重に歩きながらそう告げた。


「近づいてるんだよな……」


 しかし、依然としてゴーグルにはなにも映らないし、ヘッドホンから声が聞こえることもない。

 というか、真くんは怪物の鳴き声とは言っていない。

 それなら、僕でも聞こえるはずなんだがな……。


「有栖はなにか見えないか?」


 近くにいるのなら、彼女の視力で見えるはずだが。


「特になにも……あら?」


「どうした?」


「また、大きな扉がありますわ」


 彼女が報告してくれたように、二枚目の扉が現れた。

 それは先ほどの開けたものよりも、分厚い鉄の扉だ。


 ……なぜ厚いことがわかるのかって?


「開いてる……」


 より正確に言うならば、こじあけられている。

 向こう側から、大きくて重いものが衝突したかのような凹みがいくつもできている。

 それが原因で、扉は歪み、僅かな隙間ができていた。


「パンドラの箱は、もう開いちまってるみたいだな」


 隊長は、扉に刻まれた鋭い傷を丁寧になでている。


 はたして災いは、外に放たれたのか。

 それとも、まだ中に居座っているか。

 僕の予想では。


「真くん、音はこの中からする?」


「……はい。この扉の向こうから、はっきりと聞こえます」


 厚い鉄の扉をも貫通する声を出すなにかはまだ、残っているようだ。

 それは希望か、絶望か。


――――――――――


「待って……ください……」


 有栖が急に立ち止まった。


「どうした?」


「すごく、まずいかもしれませんわ」


 彼女の顔色は真っ青になっている。


「なんだ、なんでもいいから言ってみろ」


 僕は震える彼女の手を握って落ち着かせる。


「私達がいるここ……この床が……少し温かいんです」


 温かい?


「つまり……どういうことだ?」


 地熱があるとでも?


「おそらく、今私達は怪物の上を歩いています……」


「なっ……!?」


 この……床が、怪物だと……!?


「真くん、なにか感じるかな!?」


 彼の聞いていた音はどうなったんだ。

 気づいたはずでは!?


「実は、さっきから進んでも音との距離があまり縮まらなかったんです。だから、この近くにいるのかなと思っていましたけど……」


 報告してくれればよかったのに……。

 なんて、彼を責めても仕方がない。

 まずは安全を確保しなければ。


「総員、退却だ!」


 隊長の指示で、急いで、だけど刺激しないように気を付けて戻る。


「……」


 皆が100メートルほど走ったときだ。


 ゴゴゴゴゴ。


 地響きがし始めた。

 洞窟が揺れ、パラパラと石が振ってくる。


「やっぱり……動いていますわ」


「地面が……か?」


「えぇ……さきほど進んだところが、盛り上がってきて……」


「キーーーーーー!!!」


「うわっ!」


 鋭い音が耳を刺した。

 それは、はっきりとは聞こえないけれど頭が痛くなるほどだった。


「どうやら……目覚めたみたい……です……」


 真くんが苦痛に顔を歪ませながら声を絞り出す。


「なんだ……あれ……」


 ついに、僕達は遭遇したのだ。

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