第十六話 中心

「そろそろ……目的地だ」


 隊長が地図を眺めた。

 この作戦には、最終目標がある。

 それは、廃坑の奥に眠っているという巨大な怪物を調査することだ。


「……」


 どうだろう。

 あくまで推測だ。

 本当にいるかは、行ってみないとわからない。

 だからこそ、調査に来ているんだ。

 もし本当にいるとしたら、どれだけ危険な存在なのだろうか。

 はたして僕達は無事に……。


「止まれ。ここだ」


 僕の心の準備などお構いなしに、そのときが来たようだ。

 目の前には、大きな鉄の門がそびえている。


「いいか? 開けるぞ。備えろ」


 鬼が出るか蛇が出るか。

 それを真っ先に感じとれるのは、この二人だけだ。


 ギギギギギ。


 錆びついた扉が、廃坑の地面に擦れて不快な音を立てる。

 中からは、変な臭いが漂ってきた。

 あまり敏感ではない僕の鼻でも感じられるくらいの異臭。

 廃坑だから、鉱石とかガスの臭いかな。

 しかし、それも一瞬だった。

 すぐに臭いは消え、入れるようになる。


「よし、行くぞ」


 僕達は、扉の奥の巨大な空間に足を踏み入れた。

 足元にはところどころに水たまりがあり、どこかから水音も聞こえてくる。

 そして、天井が高い。

 というか、上が見えない。

 さっきまで、ジャンプしたら頭を打ちそうなくらい低かったのに。


「気を抜くな」


 みんなであたりを警戒しながら奥に進んで行く。

 これだけの大きな洞窟だ。

 何もいないほうがおかしいまである。


「なんだろう、これ……?」


 真くんが、またなにかに気づいたようだ。


「なにか……いるのか?」


 目的の巨大生物が……?


「空気が……揺れているんです」


「揺れている?」


「あいつらの出す足音とも違う、変な音がするんです」


「それは……どこから?」


「あっちです」


 真くんが指したのは、大きな穴だった。

 壁にいくつも開けられている穴の中でも、とりわけデカい穴。

 しかも、その近くには「キケン」と書かれた看板が立っている。


「とりあえず……隊長に報告してくるね」


――――――――――


 なんの手がかりもない今、真くんの能力に頼るしかない。

 なにかがあるというのなら、無視はできない。

 僕達は、危険を承知で踏み込むことにした。


「なにかあったら、すぐ報告するんだぞ」


 ここからは、隊長と共に先頭を歩くことになった。

 危険だが、すぐに異変を知らせることができる。


「ん?」


 なんだこれ。

 地面になにか落ちている。


「隊長、なにかが落ちています」


 僕はそれを拾う。

 どうやら紙切れのようだ。

 切れ端なので、大きさは手のひらに収まるほど。

 変色して黄色になっている。

 そして、そこにはこう書かれている。


「アノ洞窟ニハ……在リ。決シテ奥ニ……」


 だめだ。

 かすれて読めない。

 いったいなにがあるっていうんだ。


「それはそこの奴にでも渡しといてくれ」


「はい」


 僕は後ろにいる隊員の一人に紙を手渡した。


「……」


 決して奥に……。

 入っちゃ……いけないんだろうなぁ。

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