第十五話 暗闇

 何十年も静寂を貫いてきた廃坑に、数多の足音が響き渡る。

 とりわけ白杖をつく鋭い音が目立つ。


「真くん、大丈夫かい? 歩きにくいだろ?」


 目が見えない彼に凸凹道は過酷なはずだ。

 僕は彼の肩に手を添えた。


「気遣いありがとうございます」


 突入部隊の人達は悪路に慣れているようだが、ほぼ一般人の僕達はついていくのがやっとだ。


「よーし、ここらで少し休憩するか!」


 先頭を歩いていた隊長は、振り向いて僕達のペースが落ちてきていることに気づいてくれたのか、休憩を挟んでくれた。

 水を飲み、息を整える。

 湿っぽい空気が肺を満たした。


「あれ……?」


 真くんが眉をひそめた。


「どうしたんだい?」


「なにか……来てます」


 前方、僕達の進行方向を見つめる彼。


「本当か?」


 僕は耳をすませたが、なにも聞こえない。


「このままだと、僕達が危ないです」


「わかった、報告してこよう」


 僕達は急いで隊長の元へ行く。


「隊長。彼が、前方からなにかが近づいてきていると」


「なに……? そうか、報告ありがとう。至急準備する」


 ありがたいことに、疑いもせずに信じてくれた。

 きっと、生き残るためには少しの危険も見逃すことはできないからだ。


「捕獲隊アルファ、敵が近づいてきている。ネットの準備を」


 隊長がトランシーバーに連絡すると、後方から二人の隊員がバズーカのようなものを携えて来た。


「で、具体的にどこから?」


「私が説明しますわ」


 暗闇に彼女は目を凝らす。

 暗視モードがあるメガネなので、暗闇でも敵の姿がわかるのだ。


「一匹です。大きなコウモリのような姿で、こちらに飛んで向かってきます」


「了解だ。5m……そこの柱のところに来たら「go」と合図してくれ」


「わかりましたわ」


 緊張感漂う。

 しかし、僕はほとんど見えない。

 一応ゴーグル(これも暗視モードつき)はかけてるが、素早く飛んでる奴ははっきりと写せないんだよな……。

 今は有栖だけが頼りだ。


「……」


 いつだ……。

 いつその時が……。


「Go!」


 メガネから出た有栖の声で耳がキーンとする。

 直後、二人の隊員がドンと音を立ててなにかを発射した。

 あれは……網だ。


「キーーーン!」


 一見すると、虚空に向けて放たれたかに見えた網だが、ヘッドホンからは捕まった怪物の叫びが聞こえた。


「どうだ?」


「捕まってますわ」


 取り押さえに行った隊員達がなにも入っていない……ように見える網を抱えてくる。


「とりあえず檻に入れて置いとおけ。帰りに回収する」


 こうして全く休まらない休憩が終わり、再び歩を進めることになった。

 もちろん進むのは怪物が来た、その先。

 なにが待ち受けているかは、言わずもがなだ。

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