第十四話 ひとけなし

 早朝、僕達は研究所を出て、あらかじめ手配していた観光バスに乗り込む。

 もちろん観光が目的ではない。

 一般人に怪しまれないためだ。

 そして、同行するのは同じ研究所に所属している、怪物と戦うのを専門としている人達だ。

 とても観光客には見えない、ものものしい武装をしている。


「どこに行くんだろー!」


「楽しみですわね!」


 みんな黙っでいる静かな車内で、修学旅行みたいな雰囲気の二人。


「何度も言っているが、今から行くところはすごく危険なところだ。気を引き締めるんだぞ」


「はーい」


「わかってますわよ」


 どうだかな。

 ニコニコしやがって。

 あまり浮かれていると、命を落とすかもしれないんだぞ。


――――――――――


「到着です」


 運転手が車を止めた。

 ここは、S県の山奥にある古びた廃坑だ。

 100年くらい前に使われなくなり、放置されている。

 道中はうっすらと道が残っている程度で、本当に目的地に着くのかも半信半疑だった。


「……気味が悪いな」


 高い木々に遮られ、陽の光が入ってこない山の中。

 まだ昼なのに、薄暗い。

 あたりでは、田舎特有のよくわからない鳥が鳴いている。


「おい、着いたぞ」


 あんなにはしゃいでいたのに、長い旅路ですっかり寝てしまっている二人を揺り起こす。

 仲良く肩を寄せ合って寝てやがる。

 このまま置いて行った方が幸せなんじゃないかとも思ったが、命令違反になるので意地でも連れていかなきゃならん。


「ふわぁ……」


「着いた……ですの?」


 目をこする二人を置いて、僕は先にバスを降りた。

 山の冷たい空気が肌を突き刺す。


「あれが……今回潜入する廃坑ですか?」


「ああ、そうだ。あのバカでかい入口から入っていく」


 突入部隊の隊長が、岩肌にぽっかり空いた暗闇を指した。

 こちらからは、中になにがあるかなにも見えない。


「もう知ってると思うが、中にはいくつもの分かれ道がある」


 皆が準備を終えたのを見ると、隊長は全員に聞こえるように、大きな声で説明を始めた。


「わざわざ迷った奴を探しに行く余裕はねぇ。いなくなった奴は化け物に食われたことにするから、しっかりついてこいよ」


 今更かもしれないが、僕は怖い。

 どんな仕事かはわかっているが、怖い。

 とても無事に帰れそうもない……と弱音を吐きそうだ。


「……」


 けど、僕には仕事が、任務がある。

 立ち止まるわけにはいかないし。

 すでに戻れないところまで来ている。


 それよりも。


「申し訳ないな……」


 僕よりも若い少年少女を巻き込んでしまった。

 やはり、彼らはここに連れてくるべきではなかったのではないか。


「なにがですか?」


「えっ……?」


 真くんが隣に並んで僕を見上げた。


「あ、いや……」


「言いたいことがあるんなら言ってくださいませ」


「あれ……?」


 有栖も来ていたのか。


「君たちを……危険な目にあわせてしまうなって……」


「何言ってるんですか!」


「私達は、自分の意思で来てるんですわよ!」


 自分の意思で……か。


「そうだよな」


 彼らの意思を尊重しよう。


「頑張ろうぜ。真くん、有栖」


「「はい!」」

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