三章 「第一次殲滅作戦」

第十三話 開始

「……来てしまったか」


 新米研究員鈴木の上司、高橋は今日も重いため息をつく。

 彼よりもさらに上の立場で、この研究機関を取りまとめる、いわゆる「円卓の騎士」と呼ばれる名前も顔も謎に包まれている人物の一人「X」からとある指令が下ったのだ。


「だから俺は言ったんだ。昇進はするなって」


 この残酷で、厳しい職場で長く勤める彼にも、人の良心は残っている。

 いや、むしろ、ここに長くいるからこそ、無くしてはいけないと保ち続けているのだ。


「大丈夫かな……あいつ」


 今まで、何人もの若い部下を送り出してきた。

 もっとも、それは彼の意思とは関係ない上の指示によってだ。

 ある者は戻ったときにはすでに死亡していて、またある者は死体さえ帰ってこない。ひどいときなんか、怪物共の仲間になってしまうときだって。


「はぁ……」


 彼の苦い記憶などお構いなしに、ことは刻々と進んで行くのであった。


――――――――――


「えーと、今日君達に集まってもらったのは、大事な話をするためだ」


 初めての重要な任務なので、緊張するな。

 二人の顔もこわばっている。


「あ、そうだ。その前にこれを渡さなきゃな」


 僕は手に持っていたメガネケースを有栖に手渡す。

 彼女はそれを受け取って、不思議そうに眺めている。

 それもそうだろうな。

 視力のいい彼女とメガネは無縁なのだから。

 なにか話そうといつものようにスマホに入力し始めた彼女を制す。


「待て待て、とりあえずそれを着けてみろって」


 それがあれば、もうスマホはいらないかもだからな。


「なんですの、これ?」


 透き通るキレイな声が響いた。

 いつものスマホから出る人工的な声ではない。


「おおっ、ちゃんと聞こえるな」


「えっ、有栖さん話せるようになったの!?」


 驚く真くんに僕は説明する。


「いや、正確にはメガネについている小型スピーカーから声が出ている」


「し、しかし、どうして私の考えていることが声になるんですか?」


「う~んとな、あまり言いすぎると企業秘密なんだが、そのメガネには「触れた者の心を読み、声として出す石」が埋め込まれてるんだ。その石が出す音をスピーカーで大きくしているわけだ」


「す、すごいですね……。ここにはそんなものもあるんですね」


「まあ、驚くのはわかる」


 僕もそんな便利なものまであるとは知らなかったし。


「ただ、ここは秘密の研究機関だ。少しばかり不思議なものもあるさ。それに、僕達が戦ってる怪物だって十分やばいだろ? 普通の人間には見えない獣なんだぜ?」


「あの、ここに表示されている文字は……」


 そう、それこそが第二の機能。


「それは僕たちの声を拾って文字としてレンズに表示しているんだ。これでコミュニケーションが円滑にできるってわけだ」


 いくぶんか戦いやすくなったはずだ。


「それで、大事な話ってなんですか?」


「おっと、そうだった。本題に戻ろう」


 僕はファイルに挟んだ一枚の紙を見ながら、告げる。


「今日から、殲滅作戦が始まる」

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