第十一話 過去

「今日は君たちにとっては辛いかもしれないが……あの怪物について改めて聞きたい」


 今日のインタビューは、真くんと有栖ちゃんの二人同時に行う。

 昨日の様子を見るに、結構仲良くなってくれたみたいだしやりやすいな。


「まず最初に、あの怪物がいつ頃見え始めたのかな?」


 なにかきっかけがあるのか、それとも生まれつきか。


「僕は……かなり小さい時かな? よく覚えてないです」


「私もですわ」


 ほうほう。

 では、生まれつきかな。

 次の質問。


「あの怪物について、どう思ってるかな?」


「危険だよ。野良猫みたいにそこら中にいるけど、猫なんかよりよっぽど危険だ。噛みつかれただけで済むなんてことないからね」


 そこら中にいる……。

 改めて言われると、背筋が凍るな。

 僕もここに来るまでは、存在さえ知らなかった。


「私は……怖いです。そして、許せない」


 有栖はうつむいている。

 この前話した時もそうだったが、深い傷がありそうだ。


「許せない?」


「私の両親は……あの怪物に食べられたんです」


「え……!」


 初耳だ。

 彼女についてもいろいろ調べたが、そんなことはどこにも書いてなかった。

 たしか、十年前に両親が事故にあい、亡くなったとは記されていたが。


「家族で山にキャンプに行ったとき……私が寝てるときに気配を感じたんです」


「気配?」


「なにかが、横を通る気配が」


 耳が聞こえないが、感じるなにかがあったのだろう。

 真くんは足音を感じられると言っていたし、彼女も獣の動く振動かなにかを察知したのではないか。


「私がテントの中からそっと外を見ると、両親はお酒を飲みながら焚き火を囲んで話していました。けど、そこにあいつらが……」


「……」


「警察は熊に食べられたことにしましたが、違うんです。お母さんとお父さんは、私の目の前で……」


 再び彼女の目に、涙が溜まっている。


「それは……辛かったね」


「有栖さん……」


「それから私はお金持ちの老婦人の養子になりましたわ。あの人達は、私をここまで育ててくれたんです」


「なるほど……。辛いことを聞いてすまなかった」


 研究のためとはいえ、僕も鬼じゃない。

 わざわざ思い出させてしまったことを申し訳なく思う。


「いえ、いいんです。起きてしまったことは、変わらないので」


 この子、しっかりしてるよな。

 逆に心配になるくらい。


「でも、大丈夫だよ。有栖さん」


「え?」


「ここに来たからには、僕たちは怪物を倒すヒーローになれるんだよ」


「ヒーロー?」


 有栖ちゃんは、首をかしげた。


「あー……、有栖ちゃんには言い忘れてたんだがな」


「ちゃん付けはやめてください」


「……わかった、有栖」


 今度から気を付けよう。


「ここはあの怪物を研究するだけじゃなく、対処する機関なんだ」


 まあ、対処ってのはつまり。


「これ以上犠牲者を増やさないためにも、怪物の討伐に協力してくれないかな?」


 さて、彼女の返答は。


「ええ、いいですわよ」


「本当か? よかった……」


 意外とあっさり了承してくれた。

 断られると、なにかと面倒なのでほっとした。


「やったー! 有栖さんも一緒に戦ってくれるんだ!」


 真くんも、仲間が増えて大喜びだ。


「じゃあ、これからよろしくな」


「はい!」


 僕は握手を交わすのだった。

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