第十話 親交
「え~と……どれがお茶だったっけ?」
有栖が廊下を歩いていると、自動販売機の前で困っている男の子を見つけた。
「どうかしたんですか?」
スマホにそう入力し、肩を叩……く前に気配に気づいたようで彼は振り向いた。
「あの、すみません。お茶ってどれだかわかりますか?」
しかし、彼女は彼の言葉を聴くことはできない。
焦る彼は早口なので、読唇術もうまくできなかった。
「すみません。私聞こえないので、ここに入力してくださいませんか?」
と、スマホを手渡す。
「え?」
彼は困惑しながら受け取った。
なぜだか、まだ状況が呑み込めないようだ。
それもそのはず、盲目なのだから。
「そうだ……」
彼はスマホを持ったまま考えを巡らせ、一つの名案が浮かんだ。
あまりスマホは使わないが、どうしてもこれで連絡を取るときに使う技があった。
彼は、以前練習した時を思い出しながら、スマホのある機能を使った。
「すみません。私聞こえないので、ここに入力してくださいませんか?」
そんな機械的な声がスマホから聞こえた。
音声読み上げだ。
これなら目が見えなくとも、文字が読める。
「そっか。君は聞こえないんだね。それじゃあ」
今度は画面のマイクのところをタップする。
「僕は目が見えないので、お茶のボタンを押してくれませんか?」
と、音声入力して持ち主に返した。
スマホが返って来た彼女は、画面を見てはっとした。
まさか目の前の彼が、目が見えないとは考えもしていなかったからだ。
改めて見ると、白杖を持っているではないか。
自分の配慮のなさに反省して、彼女は謝罪の言葉を入力する。
……今度は読み上げをセットで。
「すみません。気づきませんでしたわ……」
少年は、少しも嫌な顔をせず、むしろ笑顔で答えた。
「いいんだよ。僕は、君が助けようとしてくれただけでも嬉しいんだ」
彼の言葉が、画面上に続々と現れる。
「世界中の人が、こんな風に助け合えるといいなって思わない?」
「はい! 本当ですわね!」
――――――――――
「うへ~、あんなにいっぱい書類があるなんてな~」
この仕事は大変だぜ。
まだ危険な怪物を調査しに現地に行く方が楽しいまである。
「とりあえず、休憩~」
コーヒーでも買いに行こう~。
「ん?」
あそこにいるのは、真くんと有栖ちゃんか。
自販機の隣のベンチに座って、楽しそうに話してるな。
「なるほど」
よく観察すると、スマホを巧みに使って会話を成立させているんだ。
「すごいな……」
実は、あの二人にはいずれ会ってもらう予定だったんだ。
改めて怪物についてインタビューをしたいし、怪物を感じられる二人だからこその共通点があると思って。
けど、彼らがうまく会話できるかが不安で会わせるのをためらっていたんだが……。
「余計な心配だったみたいだな」
真くんが僕に気づいたのか、手を振る。
「鈴木さーん! 一緒に休憩しません〜?」
「おっ、いいぜ〜」
殺伐とした研究所に、和やかな空気が流れるのだった。
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