第九話 温度

「上、上、下、下、左、右、左、右」


「B、A……なんてね」


 コマンドを打ってるわけじゃない。

 今やってるのは視力検査だ。

 彼女の目になにか特別な能力があると思ったんだが……。


「おお……すごいね」


 メガネをかけなくてもいいほど、目はいいみたいだ。

 ただ、常人より少しいいってレベルかな。


「う〜ん……」


 彼女の目の秘密はなんだ?

 なぜ奴らが見えるのか、視力検査だけじゃさっぱりわからないな。


「ん……!」


 いつのまにかスマホが付きつけられていた。

 えっと?


「鈴木さん、昨日より体温が上がっていますわ。疲れているじゃないんですの?」


「え、そう?」


 僕自身でさえ気づかなかったけど。

 本当なのだろうか。

 せっかくなので、体温計で熱を計ってみる。


「37.0度……」


 微熱だな。

 彼女の言っていることは本当のようだ。


「待てよ……?」


――――――――――


「あのゴーグルはどうやって怪物の姿を探知しているかって?」


「そうだ」


 ここは技術部。

 みんなを支える便利なガジェットを開発している部署だ。

 今回はゴーグルの秘密を訊きに来た。


「ふふふ! よくぞ聞いてくれたね!!」


 白衣を着た目が隠れるほど髪が伸びている彼の名は真土しんど

 そこそこ有名な科学者で、何個も便利な道具を発明している。


「あのゴーグルは、彼らが出す体温を感知して、大まかな位置を映し出す機械だよ!!」


「なるほどな。体温を感じるなんて人間にはできないから、見えないわけだ」


「いえーす!! それこそ蛇のピット器官のようなものでもなければ視認することはできないのさ!!」


「じゃあ……彼女が見えるといったら?」


「……え?」


――――――――――


「グレーーーーーーート!!! すごい! すごいよ彼女は!!」


「うるs……で、なにがわかったんだ?」


 興奮して大声を出すこいつのせいで、耳が痛くなってきた。

 よく有栖ちゃんはあんな近くにいるのに……耳が聞こえないんだった。


「いや、なにもわからないからすごいんだよ!!」


「……は?」


「君の言う通り、彼女は物体の温度を感じることができる目を持っているんだ」


「ほう」


「しかし、目の構造自体は普通の人間となんの違いもないんだ」


 視力も一般的だったもんな。


「彼女のこの小さな瞳に、科学を進歩させるためのヒントが……!!!」


 真土は有栖ちゃんを見ながら、不気味な笑顔を浮かべている。

 そのままジリジリと近づいてくる。


「まてまてまて! 彼女は大事な……手がかりだ! 人類を救うための!」


 解剖なんてされちゃたまったもんじゃない。


「ここでお前が手を出して、特殊な能力を失うわけにはいかないだろ?」


「ふ~む……そうだね。わかった。そんじゃ、バイバイ!」


「おう……元気でな」


 う~ん。

 やはりあいつとは気が合わないな。

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