第八話 視力

「よし! それでは始めようか」


 研究所に戻って来た僕は、彼女と向かい合って座った。

 そして、すぐ側には大きなモニターがある。

 ここには、僕と彼女が打ち込んだ文字が表示されるんだ。

 小さなスマホの画面を見るよりかはまだ見やすくなると思う。


「まず最初に……君の名前を聞かせてもらえるかな?」


「私の名前は、立川有栖たちかわありすです」


「なぜあそこにいたのか教えてくれるかな?」


「あなたを助けに来たからにきまっているでしょ?」


「どうして僕が襲われているってわかったのかな?」


「それは、あそこがあの者どもの住処だと知っていたからですわ」


 なるほど……。

 僕は飛んで火に入る夏の虫だったわけだ。

 これからはもっと気をつけなきゃな。


「あれ?」


 やはり彼女は怪物について前から知っているみたいだな。

 住処だとわかるには、何度か観察する必要があるからな。

 というか、その観察ができているということは。


「有栖さん、あなたはあの怪物が見えるのですか」


 彼女は悩むように俯いて、文字を打つ。


「はい、見えます」


――――――――――


「まったくお前はすごいやつだよ……」


「……」


「その運を宝くじにでも使えば、今頃大金持ちなのになぁ」


 先輩は、僕の報告を聞いて複雑な顔だ。


「ただでさえ彼の世話で大変なのに、二人目を連れてくるなんてな……」


「すみません……」


「いや、謝る必要はない。むしろ、誇れ」


「は、はい……!」


「研究の多大なる進歩に繋がるからな」


 研究の進歩……!

 そう聞くと、なんだかすごいことをした気になる。


「だがな、鈴木。これはお前の寿命を縮めることにもなるかもしれない」


「え?」


 寿命を……縮める?


「お前は近いうちに出世するだろう。だがそれは、地獄へ近づいたことにもなる」


「……」


「世の中には知らないほうがいいこともある。お前が、下っ端のままなら平和に暮らせたのにと後で嘆いてもどうにもできないからな」


 先輩の冷たく、突き刺さるような声が胸に響いた。


――――――――――


「見えるというのは、具体的にはどういう感じなのか説明できるかな?」


 見え方は主観によると思うけど、参考までに聞いておきたい。

 彼女以外の人間は見えないのだから、彼女がなぜ見えているのかが気になる。


「ええと……普通に、他のものと同じように見えますわ」


 つまり、あの怪物の透明化(仮)を無効化できているのか。

 いったいどうやって?

 それが分かれば、人類を救う手がかりになるかもな。


 僕が考えていると、モニターに新しい文が浮かんできた。


「あなた達はどうして見えないんですか?」


 僕は予想外の質問に悩む。

 どうして……かー。

 言われてみれば、そうだな。


「ええと……」


 なんて答えよう。

 悩んでいるうちに、さらに彼女は文字を打っていく。


「あの者共は、私達の日常に潜み、いつも命を狙っていますわ。なのに、誰も気づかずに毎日を過ごしていて、私h」


「あ……」


 彼女のトラウマに触れてしまったようだ。

 入力の途中で彼女は泣きだしてしまった。

 落ち着かせるため、僕は彼女を部屋に送ることにした。

 今日はひとまず休んでもらおう。

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