第六話 才能
「今日から戦闘訓練を始める」
「はい!」
僕たちは、学校の体育館のように広い部屋に来た。
ここは、この研究機関で管理されている数多の危険物のデータを基に、そのホログラムを映し出して実際に戦うことができる場所だ。
天井にいくつも付いているプロジェクターから映像が映し出される。
さらに、高性能なスピーカーが壁や床に埋め込まれているので、映像が動いた際の音も再現できる。
彼は目が見えないから、ホログラムの怪物が迫ってきてもわからないのではないだろうかとも思ったが、そこは音でカバーできる……だろうか。
やってみないとわからないな。
「これはあくまで映像なので触れることはできないが、君が怪物に触れると現実同様音がなる。逆も然りだ」
「……」
「致命傷を受けた場合は、一旦終了となる。わかったかな?」
「はい!」
「それじゃあ、ヘッドホンをつけて?」
言わずもがな、奴らの出す超音波も再現できる。
だから、これはヘッドホンのテストでもある。
彼と……僕もヘッドホンを着けた。
「慣れない環境だとは思うが、ぜひがんばってくれ」
「はい!」
「それでは、準備はいいかな?」
「……」
真くんが無言で僕の方を向いて頷いた。
改めて思うが、よく僕がどこにいるのか正確にわかるな。
「スタート!」
僕は赤いボタンを押す。
すると、部屋の隅に怪物の姿が映し出された。
今回のは、犬みたいなやつだ。
……頭が二つあるけど。
「……!」
真くんが、素早くそいつの方へ向き直った。
あれ、おかしいな。
なぜわかるんだ?
気になった僕は、設定画面を見た。
なるほど。
僕には聞こえないが、そいつはわずかな呼吸音を出しているらしい。
そのわずかな音が聞こえるんだ。
「キーーーン!」
おっと、すごいなこれは。
僕のつけているヘッドホンから、不快な音がした。
その正体は、あの化物が出している、おそらく真くんにも聞こえているであろう音の再現だ。
わざわざ今日のために、真くんだけでなく僕にも特注のヘッドホンを用意してくれたのは、先輩の優しさだ。
同じ音を聞いて、少しでも彼に寄り添いたかった。
「っ……!」
真くんが、ぶつかる寸前で避けた。
僕が考え事をしている間に、もうこんなところまで迫っていたのか。
となると、さっきの声は攻撃の合図だったのかな?
怪物は、くるりと方向転換して再び突進する。
「来いよ」
不敵に笑う真くん。
なんだか楽しそうだ。
久しぶりに彼の明るい顔を見れて、ほっとしたよ。
「くらえっ!」
あの日のように、頭を狙い白杖を突き出す。
その瞬間、鈍い音がした。
しかし。
「ピピピピピ! 終了です」
一番盛り上がってるところだったのに、終わってしまった。
なぜかって?
「惜しかったね」
「頭が二つあること、忘れてました……」
「まあ、初めはそんなもんさ」
期待のヒーローの一撃は、たしかに命中した。
それも、頭のど真ん中にだ。
けど、残ったもう一つの頭に噛みつかれてしまったのだ。
首に致命傷を受け、ゲームセットだ。
「そういえばどうかな? この設備は本当は目が見える人向けに作られているんだけど……」
「大丈夫ですよ! すごくリアルな音が出ているので、本物みたいです」
「よかった」
問題なく訓練ができそうだ。
「では、第二回戦もやるかい?」
「もちろん!」
こうして僕たちの修行が始まった。
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