第三話 能力
「おはよう!」
一晩明けて、翌朝。
昨日は簡単な検査をしただけだったが、今日から本格的に彼の力量を測っていく。
「おはようございます。今日はなにをするんですか?」
「う~ん、実技試験?」
まあ、間違ってはいない。
僕たちはしばらく廊下を歩き、頑丈な扉を何枚もくぐり、やがて大きな実験室にたどり着いた。
その部屋の上部にはガラス窓があり、僕らの様子をいろんな人が見ている。
他にも、何台もの監視カメラが部屋中についている。
そして、部屋の真ん中には大きな檻が置かれている。
「え、あれって……」
真くんが、檻を見て一歩後ずさった。
「やはり、君には見えているんだね」
僕にはさっぱりだ。
というわけで、先輩からもらったゴーグルをかける。
これを使うと、なんかすごい科学技術でぼんやりと見えるらしい。
「おお~、いるね~」
シルエットだけだが、大まかな形はわかる。中にいるのは、ワシのような大型の鳥だ。鋭いくちばしや爪を持っている。
「あ、あれって……?」
「ここの人達が捕まえたものらしいよ、研究用に」
詳しいことはまだ知らない。
てか、新米だから教えてもらえない。
「とりあえず、君はどうやってあいつらを補足しているか教えてくれるかな」
それを知れれば、研究の手がかりにもなる。
「あ、はい……」
さすがに怪物の前だ、緊張している。
むろん僕も。
「僕は……見えるんです」
「見える……」
「えっと、僕は見てわかる通り、うまれつき目が見えないんですけど」
「うん」
「そのおかげで、すごく耳がいいんです」
「なるほど」
よくある話だ。
彼のように五感が欠けている人は、それを補うかのようにどこかが発達すると。
「だから例えば、昨日鈴木さんが握手を求めたじゃないですか?」
「うんうん」
「あれも、僕は鈴木さんの手が動いたことを音で感じたんです」
「へー、すごいね」
「そして、特に……奴らの音は敏感に感じるんです」
真くんは、檻の方を一瞬見た。
「昨日の夜も、家で寝ていると、足音が聞こえたんです」
「足音が? 例えば、どんな?」
今までの報告書には、足音がするなんて一言も書かれていなかった。
これは重大な手がかりになりそうだ。
「う~んと、種類によって違うんですけど、昨日のやつはズンって感じの重い足音でした」
「ほうほう。じゃあ、あいつらに共通していることとかはあるかな?」
これから現れる未知の敵に対応するためにも、知りたいところだ。
「共通していること……うぅっ!」
考え込んでいた彼が、突然頭を抱えた。
「ど、どうした!? 具合が悪いなら……!」
「こ、これです!」
苦しみながら、声を捻り出す少年。
「これ?」
「奴らは、すごく気持ち悪い音を出すんです!」
彼の主張とは裏腹に、室内には彼の叫びだけが響いている。
他にはなんの音も聞こえない。
「僕にはなにも聞こえないけど……」
「はい……みんな聞こえないって言うけど、僕には聞こえるんですよ!」
これはまずいな。
顔色が悪くなってきた。
僕はとりあえず彼を落ち着かせるためにこの部屋を出ることにした。
――――――――――
「おい、鈴木。すごいことがわかったぞ」
彼を部屋に返し、ジュースをおごってからデスクに戻ると、先輩が声をかけてきた。
「なにがですか?」
「あの少年は超音波を聞き取ることができるんだ」
「超音波?」
それって、コウモリやイルカが出してるやつ?
「ほら、彼が化け物の前に行ったとき、自分にしか聞こえない音で苦しんでいただろ?」
「はい」
あれは本当に謎だった。
だって、音なんかまったくしなかったから。
「それで、不思議に思ってあのときの録画映像をいろいろ調べてみたんだ」
「はい」
「すると、あの怪物は超音波を出していることがわかったんだ」
「つまり、彼にはそれが聞こえていたということですね」
聞き慣れない、普通は聞こえない音だから、苦しむことになったのか……。
超音波なら、僕に聞こえなかったのにも納得できる。
「あの子、とんでもない逸材かもしれないぞ」
笑う先輩。
なぜか僕は不安を感じた。
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