第二話 覚悟
「はぁ~~~~~~~~~」
僕の上司の高橋さんは、頭を抱えてでかいため息をついた。
「あ、あの、僕……」
えっと……なんて言えばいいのかな。
いろいろありすぎて……。
「とんでもないことをしてくれたな……」
下を向いているが、疲れきっているのがわかる。
声も重々しい。
「そうですよね……。貴重な野生の」
「そうじゃない」
あれ、違ったのか。
てっきり、あの怪物を捕まえずに殺したことが問題なのかと思った。
それじゃあ、この人はなにに悩んでいるんだ。
「お前があの子をここに連れてきたこと。それはとても素晴らしいことだ」
「はい……」
「我々の研究も、より進むことになるだろう」
「はい……」
「だが」
「だが……?」
なんとなく、怒られそうな予感がした。
「俺は、まだ新米の……それも、今日出会ったばかりのお前に危険な任務をさせたくなかったんだ!」
ドンっとテーブルを叩く先輩。
かなり熱がこもっている。
「危険を冒すなとは言わん。何事にも犠牲はつきものだ」
それは僕も承知の上。
ここはそういうところだから。
「しかしだな。新米のお前には、まず経験を積んでほしかった」
うっ……。
それはそうかも。
下積みって大事だと思う。
「これから、お前はあの少年の世話を任されるかもしれない」
彼のような特別な者を見つけたとき、その世話は発見者がしなければならないことはここの暗黙の了解だ。
「それくらいなら、危険では……」
「ない。彼に敵意はないしな。問題はだ」
「はい……」
「彼のような怪物を倒すヒーローが現れてしまった以上、遅かれ早かれ上は怪物の
怪物の殲滅……。
たしかに、怪物を野放しにはできないからそうするのはわかる。
けれど、まだ彼は子供だし……。
「そのとき、世話係のお前まで巻き込まれるかもしれんぞ」
「……」
それまで下を向いていた先輩の鋭い目が、突然僕に向けられた。
背筋が凍りつく。
「ま、俺の考えすぎならそれでいいんだ」
先輩はわずかに笑ったが、僕にそんな余裕はなかった。
「とりあえず、お前はあの子にいろいろ聞いてきてくれ」
「は、はい! わかりました!」
そんなこんなで、僕は部屋を出た。
――――――――――
僕は病院のような真っ白な廊下で、あの少年を待つ。
そろそろすぐそこの検査室から出てくるはずだ。
カツーン。
聞き覚えのある音がした。
「やあ、検査お疲れ様」
やはり白杖を持っている彼に、話しかける。
「あ、その声は。僕が助けたお兄さんですね」
彼は、やや口角を上げて笑った。
明るい室内で改めて見ると、彼がまだ子供であることがわかる。
背丈は僕より小さいし、顔に幼さが残っている。
「今日から君のお世話をすることになった、
僕はなにも考えずに、手を出した。
しかし、彼はじっと僕を見つめるだけで、手を出してくれなかった。
「あっ……」
うっかりしていた。
彼は目が見えていないから、握手なんて……。
「鈴木さん、よろしくお願いします」
まるで見えているかのように、僕の手を握った彼。
「それにしても、見えてない人に握手なんて、とんだ無茶ぶりですね」
からかうようにニヤリと笑われた。
「ご、ごめんね! 失礼な事を……」
「いや、いいんです。そういうのは慣れているので」
慣れている……。
彼にもいろんな苦労があったんだろうな。
「じゃ、じゃあ、まずは。僕に付いてきて」
――――――――――
「君の名前を訊かせてくれるかな」
個室で、簡単な質問をする。
「僕の名前は、
「なるほど。歳は?」
「16です」
「高校生か」
「あ~、違います。僕、学校には馴染めなくて行ってないんです」
「そっか……」
「それで、ここからが本題になるんだけどいいかな?」
「はい」
「君には……あの怪物を倒す手伝いをしてほしい」
「手伝い?」
首を傾げられる。
「まぁ……手伝いというか、君自身が戦わされるかもしれない」
「……」
黙っている。
きっと考えてるんだ。
「それが嫌なら……」
「やります!!」
「……え?」
予想外の、勢いがいい返事に驚いた。
「僕、世界を救うヒーローになれるってことですよね!?」
「……そう、だな」
彼は目を輝かせて喜んでいる。
「憧れのヒーローになれるんだ!」
「真くん、よく聞いてくれ」
舞い上がる彼を見ていると、言わなければならない気がした。
「なんですか?」
「これは遊びじゃない。辛いこともたくさんあるだろう。それでも君はやりたいと?」
「……はい」
「わかった」
この子の運命は、今日ここで決まってしまった。
それが吉と出るか凶と出るかは、神のみぞ知る。
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