やがて雨になる

帆多 丁

 彼の者の指先から零れた水は蒼いたまとなって、永遠とも思える時間を落ちていきます。

 永い時の中で珠に雲が生まれ、雲からは雨が注ぎ、珠に命が生まれ、生と死の繰り返しはやがておかとなり、命はそれぞれに繁栄を繰り返しました。

 珠の落下にもいずれは終わりが来るのでしょうが、珠に生きる彼らにとってはあずかり知らぬことであります。

 やがて命は光を作ることを学び、珠の上には無数の光が生まれるようになりました。そのひとつに包まれて、言葉を交わす命がありました。

「例えば君の髪から落ちる雫のひとつひとつにさ」

 と話す声。

 その間にも、あまたの雫が髪と言わず腕と言わずこぼれていきます。

 この命にとって、雫が落ちるまでの時間は取るに足らないものと思えた事でしょう。しかし、小さな雫にとっては永遠と思える落下であり、その一つ一つにあたった光は熱となってやがて雲を生じ、さらに小さな命を生みます。

 大きな命にとって、小さな命が放つ光はあまりに弱く、短く、些細なものでありました。

 しかしどの命も、各々が拠って立つ青い珠がやがて落ち切り、他の雫と共に流れを作るその時までは、永遠とも思える時間を過ごすのでありました。

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やがて雨になる 帆多 丁 @T_Jota

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