だから僕は漫画の乱読を辞めた
漫画・アニメ・ゲームというのが、古のオタク業界における三種の神器みたいな趣味だと思っている(そこに、ライトノベルが加わることもある)。これらはお互いに親和性が高く、人気の漫画作品はアニメ化、ゲーム化されるし、アニメオリジナル作品だって、たいていの場合コミカライズされる。まあ、漫画版とアニメ版でそれぞれのファンが対立している場合や、原作は人気なのにもう一方はすこぶる評判が悪いような例も沢山あるけれど。
子供のころから、それなりに漫画を読む方ではあったけれど、例えば「親が漫画好きで、家の本棚は全部漫画で埋まっていた」みたいな漫画エリートには到底及ばない。人並みに、小学生時代に少年ジャンプに掲載されていた作品なら大体わかるけれど、全巻揃えたのは『幽遊白書』と『封神演義』くらいだ。さらに致命的なことに、漫画としての『ドラゴンボール』を履修していない。アニメ版で引き延ばされた戦いを眺めていた印象が強い。まあ、漫画好きの普通の子供、といったところか。
僕が漫画を一番読んでいたのは、だいぶ後、2010年代前半のことである。近所のTSUTAYAで、漫画のレンタルサービスが行われていたことが大きい。最新作が借りられるようになるまではラグがあったが、話題作のほとんどを借りることが出来たので、『進撃の巨人』も『ワールド・トリガー』も『外天楼』も『海月姫』も『俺物語!』も『宝石の国』も、借りて読んだ。後に全巻揃えることになる『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い』にもTSUTAYAで出会った。本来の自分だったら絶対に購入することのないジャンルの作品に目を通すことが出来るというのは、得難い経験だ。人間としての幅も、さぞ広がったことと思う。
そんな漫画との蜜月期の終わりは、あっさりとしていた。引っ越しによって、漫画レンタルサービスのあるTSUTAYAが近くになくなった。それだけである。当時読んでいて、まだ完結していなかった漫画作品の続きを、僕はほとんど知らない。別に、本気を出せば、いくらでも読む方法はあるのだ。インターネットを介した漫画レンタルサービスだってあるし、漫画読み放題のサブスクリプションサービスだってあるし、漫画喫茶だってあるし、社会人でお金もあるのだから電子書籍や単行本を買って揃えたって良い。でも、何故だかそれをやれずにいる。この現象は、よく見る。僕だけでないはずだ。いつでも出来る、やろうと思えば出来る、と考えている物事は、大抵、いつまで経ってもやらずじまいになる。個人的に、安部公房の『砂の女』はこのことに警鐘を鳴らすために書かれた作品だと思っている。
実のところ、別に、乱読は辞めたが、漫画を読むこと自体を辞めたわけではない。自分の好きな作品や気になる作品は未だに個別に買っている。『彼方のアストラ』を急に買ってみたりする。鬼頭莫宏と土塚理弘の作品は作者買いする。『HUNTER×HUNTER』の新刊を待ち続けている。物理的にスペースをとらない電子書籍を買うことが増えた。本棚に並ぶお気に入りの漫画の顔ぶれは、ここ数年変わらない。
当時読んでいた作品の中に、今どうなっているのか気になって調べたら長期休載中だったというものがあった。「続きを知らないのは僕だけじゃない」という事実は、歪んだ僕を少しだけ安心させる。「連載再開したら、また追いかけよう」と考えているはずなのに、ちょっとしたことで追えなくなる僕みたいな人間もきっと出てくるだろう。まあ、そんなこともあるさ。深く気にすることはない、漫画を読むことは別に義務でないのだから、好きな作品を好きなように読めば良い。
とりあえず、僕の当面の目標は、「話題になっている漫画作品のあらすじだけ読んで、何となく話題になっている理由をわかった気になる」という悪癖を辞めて、本当に読んだ作品についてだけ語るようにすることである。語りえぬものについては沈黙しなければならない。……今や、語りえぬものが増えすぎたのだ。
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