23.知らないまま、終わった後で《お題:君と銀行》

必須要素:フォロワー達が○し合い

***


 ペタリ、と座り込んでしまったらもう終わり。

 私は全く立ち上がることができなくなってしまった。


 鉄の匂いがする。

 どろりとした感触が纏わりつくのがとにかく不快。生暖かったものがあっという間に冷えていく感覚が、湯冷めのようでとにかく不快。

 目の前で横たわる誰かと目が合うのが、とにかく不快。


 友人だったら、家族だったら、恋人だったら。

 もっと感情が揺れ動いて、もっと恐ろしく感じて、そして悲しくて涙も流せるんだろうか。

 けれど、ここで○し合ったのはツイッターのフォロワー達。それも、一度もオフで会ったことのない人ばかり。

 ネットでは誰よりも身近に思えた人たちも、こんな状況で初めて顔を合わせれば、ただの他人だった。


『おめでとーございまーす! 「リリー@筋肉フェチ」さんと「アマンダ」さんが見事生き残ってクリアです!』

 モニタ越しにボロボロのぬいぐるみが手を叩いている。千切れた腕から綿がぼとぼとはみ出している。

『ちなみに最多キル賞は「リリー@筋肉フェチ」さんです! 用意されたトラップを使った見事なクワトロキルでした! 拍手ー!』

 横から乾いた拍手が聞こえ、思わず顔を向ける。

 「アマンダ」さんは何を思ったか、私に拍手を送っていた。

「……いや、アナタ」

『それでは扉を開けますね! 賞金は指定の口座に振り込まれますので確認をお願いします!』

 私が抗議の言葉を口にする前に、アナウンスが流れた。

 扉が勢いよく開き、安っぽいファンファーレが鳴り響く。

『お疲れさまでしたー!』


「……いや、トラップ用意したのアナタですよね? 私が○したみたいにするのやめて貰えませんか?」

 いち早く扉の外に出た「アマンダ」さんは、恐らく朝日と思われる日光を全身に浴びていた。

 その背中がムカつく。

「いえ、私は用意だけして実行も出来なかった腰抜けなので。「リリー」さんにやって貰えて助かりました。ありがとうございます」

 私はわざとらしくため息をついてやった。

「あは、腰抜けとかご冗談を。真っ先に用意してた時点で○意マシマシじゃないですか」

「ですが、「リリー」さんがいなければ成立しませんでした。それは、事実です」


 耐えられなくなって、ヤツの胸ぐらを掴んでやった。

「わざわざ勘に触ること言いたいワケですかね? そういうつもりじゃないなら黙ってて欲しいんですけど?」

「……それは、失礼しました」

 「アマンダ」さんは目を逸らして、掴まれた襟元から私の手をやんわり外した。

 それで私も冷めたので、2人で静かに路地を歩いていく。


「……聞いても、いいですか?」

「どうぞ?」

「貴女は、本当に「リリー」さんですか?」

 苛立って顔を上げたが、「アマンダ」さんの表情を見て言葉に詰まる。

 何の脈絡もない夢を見ているような、虚を見る目をしていた。まるで何もかもが想像の中であったと思い込んでいるような、そんな生気のない顔。

「そっちこそ、本当に「アマンダ」さんなんですか?」

 やるせなくなったので、私もとりあえず聞く。

「そうだ、と主張したいところですが、現実の私を証明することは出来ても、「アマンダ」であることの証明は難しいです」

「奇遇ですねえ、私もそんな感じです」

 ただ笑う。思えばあの空間で○し合った人間の誰も彼もが、フォロワーであったかどうかも定かでないと気づく。


「お金、確認しません?」

 私の言葉に、「アマンダ」さんは頷く。○し合いの賞金はもう振り込まれているはず。残高が増えているかどうかで、今までのが全部夢かどうかを判別してやる魂胆だった。

 2人で路地を歩く。どこまで行っても現実感が湧かず、ずっと夢の中を彷徨っているような心地だ。


「これからも、フォロワーでいましょうね」

 道中、そんなことを言われた。

「お互いもう顔を見せず、でもずっと繋がっていましょう」

 私は返事をしなかった。ただ、銀行へ向かっている。「アマンダ」と名乗る、フォロワーかも分からない他人はずっと隣を歩いていた。

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