第2話 願うことすら

 ある日、黒づくめの男たちが我が家にやってきた。


 政府の人間だそうだ。


 彼らは淡々と「おめでとうございます。ミア・クリプト様が次のマザーに選ばれました」と告げてきた。


 意味がわからなかった。


 呆気にとられていると、男たちは土足で我が家に入ってきてあっという間にミアを連れて行った。


 ミアは去り際に「じゃあね、兄ちゃん」と寂し気に呟いた。


 俺は玄関に立ち尽くしたまま、妹の悲しそうな笑顔を見送った。


 独りぼっちのリビングで網膜にインプラントしたデバイスを起動する。


 目の前の空間に口座が表示された。


 先日まで十万円しかなかった我が家の口座には三億円が振り込まれていた。


 俺は両手で顔を覆い、うなだれた。


「お前がいなきゃ……意味がないだろう……」


 金はあっても、虚しいだけだった。


 俺はその日、人生を奪われた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る