第67話 フワッとした関係でいこうぜ



「——ほれ、どうした? 遠慮はいらぬぞ。どれ、なんなりと、おぬしの望みをいうがよいのじゃ」


 なんだか偉そーな態度で(ジッサイにふんぞりかえるよーにしながら)、ドラ子があーしに問うてくる。


「……分かった。んじゃ言うわ。あーしの望みは——」


 イロイロと考えてみたケド、あーしは——とりま一回、ダメ元で試してみるコトにした。

 いや、マジでコイツドラ子チカラで日本に帰れるなら、それに越したことはナイし。

 まずはそれ試して——んで、ムリだったなら、そん時は……そん時だ。

 てか、そん時こそ素直にうらないのとーりに行動すればいいワケだし。


「——あーしの、望みは……」

「……望みは?」

「……故郷日本に、帰ること」

「……ほう? “帰郷”が望みか。——ははっ、それなら簡単じゃ」

「え、簡単……?」

「そうじゃ! たとえ、それがどんな場所であろうとも——どれほどの彼方であろうが、いかなる障害が立ち塞がろうが——ワシに行けぬ所などない。ワシの……真竜ドラゴンの、この翼と比類なき強さがあれば、辿り着けぬ場所などないわ」

「……」

「……それで、おぬしの故郷とは、一体どこにあるのじゃ? おぬしほどの者が帰れぬというくらいじゃ。よっぽど遠いのか、あるいは……。——まあ、よい。それで、どこなんじゃ? どこへ運べばいいんじゃ……?」

「……、それは……」

「ふむ……?」

「……、いや、あーしにも分からん」

「——は?」

「いや、だからさ……場所が分からねーんよ」

「……はぁ?」

「……まあ、そーゆうカンジ、ってゆーか——」

「いや、待て待て、——え? おぬし、“故郷”とうたよな?」

「うん」

「……なんで場所が分からんのじゃ?」

「……知らん」

「はぁ? いやいや、おかしいじゃろ。——こっ、故郷じゃろ? ということは、つまり、以前にそこにいたわけじゃろ?」

「そーだね」

「そして、そこからここまで来たんじゃろ?」

「……まあね」

「……、それで、なんで分からんのじゃ……?」

「……まあ、だから、それは——気がついたら、この辺に来てたってゆーか」

「……はぁ? え、なんじゃ、それ……」


 うーん、まぁ……こーなるのか。

 ……まー、そーだよね。そもそも願いの内容自体がハッキリしなかったら、叶えようもナイ、か。


 さすがのドラ子も、あーしのこんな話を受けては困惑コンワクしている様子だった。


「——やっぱり……ドラ子にも無理か。ま、そーだよね」

「なっ——」

「まあ、元からそんな期待してなかったし。……んじゃ、やっぱうらないのとーりにするしかナイってコトか——」

「お、おい! 待て! 勝手に諦めるでないわ! なんじゃそれは! まるでワシが力不足かなにかのようではないか!」

「まるでもなにも……そーでしょ?」

「ふざけるな! これはワシの問題ではない! おぬしの責任じゃ! だってそりゃ、そうじゃろうが! 願いの内容が自分でも分からないなどと……そんなもん叶えられるわけないじゃろうが!」

「まあ、ドラ子もしょせん、そのレベルってコトか……」

「は、はぁ……?!! なんっ、そんな、だ、誰だって、こんなん無理じゃ——」

「いやぁ? あーしが相談した別の人は、それでも解決策を見つけてくれたしぃ」

「——なんじゃと? ……それは、どういうことじゃ?」

「それはね——うらないだよ」

「は? 占い……?」

「あーしが相談した占い師の人は、あーしが“故郷”に帰る方法はあるって言ってたし、そのための道筋も示してくれたからね」

「占い、じゃと……? なんじゃそれ……。フンッ、そんなもん……胡散臭い、絶対インチキじゃ」

「いやいや、——つーかオマエドラ子とこーして会うことだって、その人は言い当ててたし」

「……なんじゃと?」

「まあ、だからさ——ドラ子の力で一気に解決するのは無理みたいだし——あーしが頼れるのは、もうその占いダケなんだわ。だからよ、あーしはその占いのとーりにやっていくつもりなンデ、オメーもそのつもりで頼むぞ、ドラ子」

「……」


 ドラ子が黙ってしまったところで、フランツさんが会話に加わってきた。


「——占い……? ——そういえば以前にもなんか、そんな感じの事を言っていたっけ……? ——えっと、ユメノ。その占いってのは……?」


 フランツさんがそう聞いてきたので、あーしは例の占い師さんシルバーマムに聞いた占いの内容を、(取り出した紙を見ながら)みんなに説明していった。


「——なるほど。……まあ、『占導師アークディヴァイナー』のジョブ持ちが占ったというなら、あながち眉唾でもない、か」

「でも、“占導師”って……“アーク”ってことは、たぶん、“占術士ディヴァイナー”の上位ジョブよね……? 占い師のジョブの上級職スペリオールなんて、なかなか聞かないけど……。いやでも、だからこそ、実力としてはむしろ、かなりのものって気もするわね……」

「で、次に行くべき場所は迷宮都市ライラドーラってか……。——うーん、こっからだとだいぶ遠いよな……。んで、そこで剣を鑑定してもらう、ねぇ……。じゃあ、とにかく、お前の次の目的地は、とりあえずはこの迷宮都市ってことになるわけか」

「うん、ま、そー言うコトだね」

「迷宮都市……行ったことないですね。どんなところなんでしょう……?」

「——あ、わたし、ライラドーラには行ったことないけど、別の迷宮ダンジョンには行ったことあるわよ」

「あ、そうなんですか?」

「ええ。……まあ、そもそも迷宮都市と名のつく都市自体、いくつもあるしね。——要は、有名な迷宮や、複数の迷宮が集まっている場所に自然にできた都市を、迷宮都市と呼んでるだけだし……」

「へー、なんだ、迷宮都市っていくつもあるん?」

「そういうことよ。そもそも迷宮自体が、あちこちにたくさんあるからね。……ん? でも、だとしたらなんでこの占いは、ライラドーラに限定してるのかしら。鑑定することが目的なら、別に他の迷宮都市でもいいはずだし……腕のいい鑑定士なんて、探せばどこの都市にも居るはず……単に近場でいいなら、ここから近い迷宮都市ならライラドーラの他にもあるし……ううん……?」

「言われてみれば……気になるな。——まあでも、そもそもユメノの目的は特殊みたいだから、その辺りが関係しているということ、なのかな……?」

「まー、とりまあーしは、次にそこ行くつもりなんだケド……フランツさん達は、どーする……?」

「そう、だな……。迷宮か……。——えっと、みんなはどう思う?」

「わたしは別に、全然問題ないわよ。迷宮に挑んだ経験もないわけじゃないし——だからまあ、色々教えてあげることもできるわよ」

「迷宮か……、まあ、冒険者やってりゃ一度は挑みたい場所だよな。——ライラドーラにある迷宮の難易度にもよるけど……ラナも加入した今の俺らなら、まあ、なんとかなるんじゃねーか? いや、それどころか、そこにユメノも追加されようもんなら……ははっ、また荒稼ぎしちまうかもなぁ?」

「迷宮……リターンも大きいけど、リスクもそれだけ大きい——そう言われるような場所ですよね。でも、このメンバーなら……私も、なんとかなるんじゃないかと思います……!」

「……迷宮、か。一度は行ってみたいと思っていた。……いい機会なんじゃないか、フランツ」

「——ああ、分かったよ。それじゃみんな、オレ達『波刃の剣心フランベルジュ』の次の目的地も、ユメノと同じく迷宮都市ライラドーラってことで、いいか……?」


 フランツさんのその言葉に——


「ええ」

「いいぜ」

「はい!」

「……おう

 

 ——みんなはそれぞれ、肯定の意思を示していった。


「……よし、それじゃ、オレ達も次に行くのはライラドーラだ。——というわけだからユメノ、オレ達もライラドーラに一緒に行きたいんだが、どうかな?」

「もちろん、あーしは歓迎——」

「おい、なんでコイツらもついて来ることになるんじゃ」

「——んだよ……まだ言ってんの? オメーさぁ……」

「おぬしが目的を果たすためには、迷宮都市なる場所に行く必要があるということは、理解した。——じゃが、それとこれとは話が別じゃ。コイツらと行動する必要が——いや、コイツらがおぬしの目的の達成のために何かしらの役に立つとは、ワシは思わん」

「はぁ? そんなことは——」

「そもそも、コイツらとは目的が一致しておらん。おぬしはあくまで故郷に帰ることが目的で、そのために迷宮都市に行く必要があり、そこでやる事といえば剣を鑑定すること、なんじゃろう? つまり、に用など無い。……じゃが、コイツらは迷宮に潜ることが目的なんじゃろうが。——ほら、まるで目的が別じゃ」

「……はぁ、う、んん……、んー……?」


 ……アレ、——や、確かにそーなんか……?


「目的を達することを真に優先するならば、余計なことをやっておる暇などない。——余計な連中とつるんでおる必要も、ない。おぬしが本気で故郷に帰るつもりがあるなら……こんな連中とは、この場で縁を切るべきじゃ……!」

「いや、それは流石に言い過ぎダロ……。ってか、けっきょくオマエはみんなのことが気に入らないってダケなんダロ……?」

「はっ! 当たり前じゃろうが。——誰が好きこのんでニンゲンなんぞと一緒に行動などするものか」


 ……そうだった。コイツってのは、そーゆうヤツだったわ。

 気に入らないことをやりたくないからってテキトーな理屈を並べてるだけじゃんよ。——ふぅ、危うく騙されるトコロだったゼ……。


「……えっと、まあ、確かにオレ達とユメノでは、目的が少し違うのかもしれない。それは彼女の言う通りだろう」

「フランツさん……別に、コイツの言うこととか気にしなくていーよ?」

「なっ、貴様……!」

「いやまあ、彼女の言うことにも一理あるからな」

「……ほう?」

「だからまあ、ユメノとは、無理にパーティーを組む必要はないのかもしれないな……」

「なっ、フランツ! アンタなに言って——」

「おい、それじゃ迷宮には行かねぇのか——?」

「そんなっ、ユメノとはここでお別れですか——」

「——ああ、いや、そうじゃない。ライラドーラには行くさ。ユメノとお別れするわけでもない」

「え……? どういうことなのよ?」

「だから、そうだな……、オレ達はオレ達でライラドーラに行って、冒険者として普通に活動するってことさ。ユメノもユメノで、自分の目的のためにライラドーラに行って、やるべきことをやればいい。そして、向こうでなにか協力できることがあればオレ達も協力するし、ユメノにその気があれば一緒に迷宮に潜ってもいい。——まあ、つまりはパーティーがどうとか、そういう形式にとらわれる必要はないってことさ」

「ああ、なんだ、そーゆうことかよ」

「なるほど……そういうことなんですね」

「オレ達もユメノも、お互いに冒険者なんだからな。自分のしたいように、自由にすればいいってわけさ」

「……まあな、それが冒険者ってやつだよな」

「そもそも、ユメノはともかく、そっちの……彼女とは、オレ達はほとんど初対面みたいなものだしな。いきなり仲良くなんて、そりゃあ無理ってもんだ。——お互いに色々と、思うところもあるだろうしな……」

「……フンッ」

「だからまあ、すぐに結論を出すこともない。とりあえず、同じ目的地に別々の目的で向かえばいい。あとはそう、風の向くまま気の向くまま……ってところかな? それで——ユメノ、どうかな? そんな感じで……」

「うん、うん……! まあ、いーんじゃナイ? うんうん、それでいーよ。そーだね、それがいーよネ。んじゃ、そーしよっか?」

「ああ、そうだな……! ——えっと、それで、そっちの……」

「——おい、オマエも、とりまそんな感じならいーだろ? なぁっ?!」

「……ふん、好きにしろ。別にワシは、このニンゲン共が何をしようとも、どうだっていいんじゃからな……」

「……あぁ、はいはい。——そんじゃ、そーゆうコトで」



 つーわけで、あーしはフランツさん達のパーティーに入ることには(今は)ならなかったんだケド、とりま、迷宮都市には一緒に向かうということになった。

 ……まあ、ドラ子のコトを考えたら、それくらいのカンジがワリとベストなんかなー、とは思うワネ。


 パーティーは組まなくても、けっきょくは向こうで会えるんだから、フツーに色々と相談することもできるし。その点はマジで心強いよネ。

 いやマジで、ぶっちゃけさー、あーし一人で知らん土地に行って色々やるとか、考えてみたらナカナカの無謀ムボーなんじゃねーかと思うし。——自分でゆーのもなんだケド、どーも上手くいく未来が見えねぇんだよナ……(わら)。

 いやまあ、一人じゃなくて二人だケド……コイツドラ子はマジで、頼りになりそうな気がしない——どころか、問題を起こしそうな気しかしないし。


 まーとにかく、フランツさん達も来てくれることになったし……そんならもうダイジョーブだナ。


 そんじゃー、いよいよ——


 迷宮都市ライラドーラへ、行きマスカ……!


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ギャルと剣くん 〜なんか異世界に飛ばされたっぽいケド、超イケメンな相棒(剣)が(オートで)無双するので、マジであーししか勝たん〜 空夜風あきら @kaname10

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