第66話 ???「さあ、願いを言うがよい。どんな願いでも、ひとつだけ叶えてやろう……」



 結論から言って——ドラ子は売られずに済んだ。


 あーしが、例のお店で爆買いした支払い——そっから以前の護衛依頼の素材の報酬を引いた——その残り、つまりは借金の残額。

 それと、今回の緊急依頼で手に入れた報酬の額——これを比べた結果。


 ……足りなかった。


 あとちょっとが足りなかった。

 いやマジで——足りないんか……?! って、最初は思った。


 でもそこで、救いの手が現れた。

 まあ、フランツさん達が、カンパしてくれてね。

 足りない分を、今回の緊急依頼の報酬とかから出してくれて——その結果、あーしのボンドさんに対する借金は、その場で全額返済された。

 ——これにて、例の“商売契約トレードコントラクト”は、完済され消滅したのだった。


 いやー、まあ、ね。

 フランツさん達は、——色々世話になったから、これくらい払わせてくれ——って言ってたケドさ。

 自分でまいた種だから、最初は断ったよ、あーしも。——ボンドさんも、別にすぐにとは言わないし、いくらでも待つって言ってくれてたし。


 んでも、フランツさん達も——命を救われたんだから、これくらい当然だ——って譲らなかった。

 意外にも、この時に一番強く主張していたのは、ランドさんだった。

 というのも、ランドさんは、以前の護衛依頼の時にもあーしによって命を救われていたので(そーいえばそんなコトもあったよね)、二度も命を救ってくれた恩人が困っているのなら、助けるのは当然だ、ってカンジで。


 あのランドさんにそこまで言われたら……と、あーしも素直に、その好意を受け入れるコトにしたのだ。

 ——まあ、当の本人ランドさんは、「……この程度では到底、恩を返したことにならないが……」ってなコトを言ってたケド。


 そんなこんなで、ボンドさんに対する借金の返済もスッキリと終わらせることが出来て、あーしもよーやく、肩の荷がおりたってカンジ。


 ボンドさんとは、借金の返済以外にも、いくつかのやり取りをした。

 なんか、あーしが買ってまだ引き取ってなかった分の服とかも、受け取って持って来てくれてたから、この場で受け取って。

 後はなんか、今後もなにかあった時には、これで連絡を取り合おうってコトで、なんか連絡に使える道具ってのも渡されたりして。

 テキパキとその辺のことをこなすと、あまり時間をかけることもなく、ボンドさんとはお別れした。——やっぱり商人ってやつは、なにかと忙しい身の上のよーだ。


 

 ボンドさんが立ち去ったら、部屋に残ったのは、あーしとドラ子と、フランツさん達の四人と、あと、ラナだ。(イスタさんに関しては、ちょっと用事を頼んだので抜けてもらっている)


 あーしらだけになった部屋の中で、フランツさんが、その話題を切り出した。


「……それで、ユメノ。君がこれからどうするつもりなのかとか、聞かせてもらっても、いいかな? まあ、それに合わせて、例の件——オレ達のパーティーへの誘いについての話も、しておきたいんだが……」

「あー、うん、そうだね」

「まあ、お前もすでに中級者ミドルクラスで、俺たちと同等だからなぁ……等級ランクとしては、なんの問題もないよな」

「やー、でも、問題とゆーならさ……」

「別に、ランクなんて気にする必要はないでしょ。それを言うなら、わたしなんて、一人だけみんなより三つも上になっちゃうんだから」

「……そーいやラナは、どーすんの? フランツさん達のパーティーに参加するって、もう決めたん?」

「そうね……み、みんなが良ければ……そうしようと思ってる、けど……。——ど、どうかしら?」

「もちろん! 歓迎します! ラナさんが加わってくれたら、百人力ですよ!」

「まあ、断る理由はないよな。熟練者ベテラン上級職スペリオール魔法役メイジとか……むしろ、こっちから参加してくださいって頼まないといけないヤツだろ、フツーは」

「……なにも異論はない、歓迎する」

「……そ、そう。……で、フランツ、リーダーのアンタの、結論は?」

「もちろん、オレとしても大歓迎だ。……ただ——」

「……ただ?」

「——いや、ラナ、君がオレ達のパーティーに参加するのは、てっきりユメノも参加することが条件なのかと思っていたんだが……いいのか? ユメノは、まだ参加するのか分からないけど」

「……まあ、わたしとしても、ユメノにも参加してほしいとは思うけど……ひとまず、それを別にしても、フランツ達のパーティーには参加するつもりだから」

「そうか。それなら、オレから言うことは何もないよ」

「……そう! ——えっと、それでユメノ、アンタはどうなの? フランツ達の——いえ、わたしたちのパーティーに参加するつもりはある……?」

「うーん……まぁ、あーしとしては、どっちかってーと、乗り気なカンジのアレではあるんだケド……」


 そこであーしは、自分の隣にいるに視線を向けた。

 ソイツは——あーしの「黙ってろよ?」という命令により、今までは無理やり口を閉じさせられていたため——さっきからずっと、黙ってコッチを睨みつけてきていた。

 あーしは左手のに意識を向けながら、


「……えっと、——『“とりましゃべっていいケド、変なコトすんなよ? てか喋る以外禁止な”』——、さて……ドラ子、もう喋ってもいー——」

「反対ッ! 反対ッ! 反対じゃッ! ——なんでよりによって、そんな雑魚共と一緒に行動する必要があるんじゃ! ただの足手まといじゃろうが! ——フンッ。おおかた、こやつを仲間に入れることで、連鎖的にワシの力を手に入れようという魂胆じゃろうが——そうはさせんわッ! 断じて! 貴様らのような雑魚ニンゲンに使われるなどッ虫唾が走るッ! 控えろッ、このカスど——」

「お前マジでやっぱちょっと黙れ」あーしは左手の印をする。

「——! ——ンンッ、——ッ!」

「……、——と、まあ、こんなカンジの厄介者が、あーしにはついてるワケだケド……それでも、あーしが参加してもいいん……?」


 すると、その場にいる面々は、なんとも言えない表情をしながら、

 

「…………いや、まあ、その……についても、えーっと、その、確かに、実力については……相当なものがあるわけだし、……まあ、その、な?」

「……そ、そうだな。てか、い、一応は、ちゃんとお前の言うことは聞くわけだろ? それなら、まあ……な?」

「……え、えっと、同年代の女の子(?)が増えるのは、私は、嬉しいです、よ……?」

「…………俺は……皆に、任せる……」

「……ふ、フン……べ、別に、ドラゴンだかなんだか知らないけど、き、気にしないわよ、わ、わたしは……」


 いやまあ、明らかに気にしてるよね。

 そりゃね、気にするなというほーがムリじゃろ。なんせ、目の前にいるのは、自分らを一度、殺した相手なワケだし。(まあ、そっから生き返らせたのもソイツなんだケド)

 そんなヤツと一緒に行動とか、フツーに考えて……ゼッタイ嫌じゃろ。


 そもそも、ドラ子自体が、フランツさん達と一緒に行動するのをめっちゃ嫌がってるし……。

 まあ、なんか自分の力を狙ってるって勘違いしてるみたいだケド。——ドラ子が出てくる前からパーティーの話は出てたんだから、別にドラ子が目当てとかじゃ全然ナイんだケド……まあ、それを言ったところで、コイツはゼッテー信じないんだろーなぁ。

 後は、そう。ドラ子のことを置いておいたとしても、聞いておかなきゃいけないコトもあるし。


「あー、てかさ、フランツさん。ドラ子のコトをいったん抜きにしても、あーしがもしパーティーに入るとしたら、相談しとかなきゃいけないコトがあるんだケド」

「相談? なんだ?」

「いや、あーし実は、どーしても達成したい目標があってさ。そのために、なんか色々と、やんなきゃいけないコトがあったりしそーなんだよね。——なんか、いろんなところに行ったりとか。……だから、パーティーを組むんだとしたら、みんなを色々と付き合わせることになっちゃうカモなんだケド……」

「目標、か。じゃあ、ユメノが冒険者になったのは、その目標を達成するためなのか?」

「うーん、まあ、そーなんかな」

「えっと、その目標の内容については、聞いてもいいのか?」

「いいケド。——いや、でも……」

「あ、いや、別に言いたくないなら、無理には聞かないぞ」

「やー、そーゆうワケじゃないんだケド、なんか、説明が難しいってゆーか……」


 しょーじき、なんて説明のしようもナイんだケド。だって、ねぇ?

 一言で言えば——故郷に帰ることが目標、ってなんだろうケド。でもその故郷ってのがさ……どこにあるのか分からないって、それがまず意味分からないってゆーか。


「……まあ、ユメノの目標がなんであるにせよ、オレとしては、協力できることは協力してやりたいと思ってるよ。なんせ、ユメノには散々世話になったからなぁ」

「だよなぁ。——てかよ、別に、気にすることもないんじゃねーか? 冒険者なんて、そもそも目的もなく適当に活動してるのがほとんどな連中なんだしよ。俺らだって、実際そうだしなぁ。どこに行っても活動出来るのが、冒険者ってヤツだろ? だったらよ、ユメノの行きたいところに行って、そこで冒険者やればいいじゃねーか。俺らは別に、なんか特定の目標とかがあって冒険者やってるわけじゃねーしさ。——ま、強いて言うなら、冒険者として成り上がるってのが、それだが。それにしたって、オマエと一緒にいれば——いや、むしろ、ユメノと一緒の方が、達成できるってもんだろ。だってすでに、その兆候あるしなぁ。なんせ、ベテランクラスの魔法使いなんてすごい仲間が入ることになったし、一連の依頼で得た報酬は破格だったし、おかげで昇格ランクアップもできそうだしなぁ」

「で、ですよね! わ、私も、ユメノがやりたい事があるなら、それに協力してあげたいです。それに……と、友達として、ユメノとは、もっと一緒にいたいですから……」

「……わ、わたしも、別に、目標とか、特にないから、アンタに協力してやってもいいわよ。それに、わたしも、と、ともだ……、——い、いや、そ、そうよ! だって、アンタが参加しないと、前衛と後衛のバランスが悪いじゃない! アンタが入れば、ぴったり三対三でちょうど良くなるんだから!」


 ラナ……素直じゃねーヤツだな、相変わらず。

 でもそれ……一人、ってか一匹? なんか忘れてない?


「……ユメノには、返しきれない恩がある。彼女の目標を何より優先する、俺はそれで構わない。……いや、むしろ、そうするべきだと思う」


 ランドさん……。マジで義理堅いよね、この人は。


 ……さて、みんなはそー言ってくれてるケド——けっきょくのところ、コイツ次第なんだよなー。

 ——あーしは再び左手に意識を向けて、そのかせを外してやった。

 するとドラ子は——


「いーやーじゃ、いーやーじゃ、い〜〜や〜〜じゃ〜〜!!」


 駄々をこねる子供か、オマエは……。


「……おい、オマエさぁ」

「なんじゃ!? だってそうじゃろう? 要らんじゃろ、こんな連中! なんの役に立つんじゃ? ワシに一瞬でやられた有象無象ではないか」

「おい! 不意打ちしてきたオマエがゆーな!」

「あの程度でやられる方が悪いんじゃ! ——いや、そんなことより……なあ、おい、おぬしよ。おぬしの目標というのは、一体なんなんじゃ? 具体的に申してみよ」

「は? いきなり何?」

「いきなりも何も……それが本題じゃろ? ワシとて、いつまでもおぬしに縛られているつもりはないのでな……。——じゃから、取引じゃ」

「はぁ? 取引……?」

「そうじゃ。おぬしの目的がなんであれ……ワシが力を貸せば、達成できぬ事などない——! そうじゃ、全面的に協力してやろうではないか」

「あぁ……?」

「その代わり、じゃ。おぬしが目標とやらを達成したら、その暁には——ワシを解放しろ」


 ……ナルホド、それが狙いね。


 ……いや、でも、どーなんだ?

 じっさいのところ、コイツってかなりヤバい力持ってっし、マジで、あーしを日本に帰すことすら出来たりとか……する可能性ある、んか?

 日本に帰れるなら、その後コイツがどーなろうが、あーしはどうでもいいし。てかむしろ、日本に帰るなら、こんなヤベェヤツなんて邪魔なだけだし、いなくなってくれる方がむしろ助かる。

 ……しかし、……うーん、……でもなぁ……、……


「——おい、何を悩むことがある? このワシが——偉大なる力を持つ、この真竜ドラゴンが、協力してやるといっておるのだぞ? たとえ、おぬしの望みがなんであろうとも……このドラゴンの力をもってすれば、成せぬ事などありはせぬ。——そら、さっさと言うがよい、おぬしの望みを。なんだって叶えてやる。どんな願いだって、のう」


 ……まるで神龍シェンロンみたいなこと言うな、コイツ……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る