第65話 ギルマス飛び越えて国マス(王族)でるヤツじゃん



 ドラな、ドラ子。


 あーしはあの、ドラグリーナ……なー……なんちゃらとかゆー、めちゃクソ長くてまるで意味のわからん言葉の羅列で覚えさせる気が無いとしか思えない名前のドラゴンを——そー呼ぶことにした。

 ——あーしにそう呼ばれた本人は、案の定、ぶつくさ言ってきたケドね。まあ、それはともかく。


 結論からいうと、あーしはドラゴン——ドラ子の“真名まな”を、自力で覚えることが出来なかった……。

 うん、無理。

 いやだってあんなん……ムリやろ。なにマジで、ジュゲムか……? ふざけんなっての。


 そうは言っても、あーしがアレを覚えないことには誓約ギアスは発動しない。

 だけどまあ、最終的には、あーしはちゃんとドラ子とギアスを結ぶことができた。

 今回の依頼の最後の最後に訪れた、あーしの最大の危機を救ってくれたのは……素敵で頼れる夢先案内人の彼女——が残してくれたアイテムである、“夢日記”だった。


 ——自力で覚えるのが不可能と早々に悟ったあーしは、もうこれはなんかに書き記すしかねーわと思ったワケだケド……それにはドラ子が反対してくるし、そもそも、あーしがちゃんと覚えないとギアスは発動しない、って話で……。

 困り果てたあーしは、なんか使えそーなアイテムはないかと——まるでドラがポケットを漁るみたいに——ポーチを漁ってみたところで、この夢日記が目に止まったのだ。

 この夢日記は、夢の世界の出来事を思い出すことができるアイテムだ。つまり、

 だとすれば……真名コレを覚えるのにも、なんとか、使えないんかよ……?!


 そう思ってイロイロ試してみた結果——ビンゴよ。


 この夢日記はマジで素晴らしいアイテムで、誓約を結ぶにあたっての諸々の問題をすべて解決してくれたのだ。


 この夢日記ちゃんは、あーしの記憶と連動してるっぽいから、この日記に書くことはイコールであーしが覚えるのと同じ扱いになるという、まずこれが一つ。

 んでこの日記は、本人しか自分の日記を開けないから(というかそもそも、別人が開くとその人用の日記に代わるので、他人の日記を開く方法自体が存在しないという)、中身を盗み見られる心配がない。これが二つ。

 そして、この日記は、その存在自体が、実のところすごい強いチカラを秘めているアイテムで、なんらかの手段で無理やり中身をあばこうとするようなことはもちろん、物理的に破壊することすら実はほぼ不可能らしく、つまりはそれだけ頑丈がんじょー堅牢けんろーなので、(色々試していた)ドラ子本人ですら、最終的には日記を使うことを認めざるをえなかった。つまり、マジでそれだけすげーアイテムだったワケ。

 ——銀さんはあんなこと言ってたケド、コレそもそも雑に扱ってもダイジョーブなやつじゃんね。……い、いやだからって雑に扱うつもりはねーケド!


 とにかく、そんな日記のおかげで、あーしは無事にドラ子と誓約ギアスを交わすことができたのだった。

 そしてラダオの時と同様に、今度はあーしの左手と、それからドラ子の首にも印がついた。


 

 誓約を済ませたら、後はもう……すべてが順調に進んだってカンジ。


 まず、ビックリするくらいあっさりと、死んだみんなが復活した。全員。

 ドラ子の言ったことに嘘はなく——みんなはコイツの魔法で、一発で完全に蘇生された。

 一人も、一度も失敗することなく……全員を蘇生することが、確かにヤツには可能だった。


 みんなが無事に生き返った後は、当初の目的であったこの場所の調査もちゃんとやっておいた。(まあ、あーしは見てるだけでなんもしてないケド)

 

 ——その調査の時に、チラっと聞いたところによると……ドラ子がトツゼン出てきてあーしらを襲ってきたのも、どーもこの場所が関係していたっぽい。

 ——そもそもドラ子は、この場所にあるなんちゃらゲート(ドラ子はまた別の呼び方をしていたケド)を監視する役割を持っていたとかで、あーしらを襲ったのは、その辺のアレが関係しているとかなんとか。

 ——だから自分は悪くない、とかなんとか本人は抜かしてたケド……いやまず襲う前に警告しろよ。言葉で。喋れんだからよ……と、あーしは思った。


 まあけっきょく、ドラ子が横からぶつくさ言うから、調査もそこそこに、あーしらは帰還する運びとなった。

 

 んで、帰りは一瞬だった。

 

 なんか……ポールさんの持つテレポートのスキルを使ったら、マジで一発で街まで帰れた。

 ——どうもその時に使ったのが、『探索者シーカー』で覚える例のテレポートのスキルらしかった。

 ラダオにもらった足輪でやる“空間跳躍シフト”とはまた別の感覚で、初めての体験にあーしは興奮して、その勢いのまま、ポールさんにスキルの詳細をその場でたずねたのだケド……。

 それで分かったのは——やっぱりというか、どうもこのスキルでは、あーしが日本の我が家に帰るのにはムリなよーだ、ということだった。

 このスキルって、行ったことある場所にしか行けないみたいでね。それも、スキルを覚えてから行ったことある場所限定だった。

 だから、あーしが日本に帰るのには、使えないってカンジ……。


 まあ、そんなワケでサクッと街に帰ってきたあーしらは、ギルドに戻ると、今回の依頼の事後処理をすることになったワケだけど……。

 そこで問題になったのは、トーゼンだけど、ドラ子のことだった。

 いやまあ、コイツの扱い、マジでどーすんの……? ってカンジ。そもそもコイツ、街に入れちゃってよかったのかよって、まずそっから? みたいな?

 

 まあ大前提として、あーしのそばから離れないようにしないといけないってのはある(目を離した隙になんかされたら困るンデ)。だからまあ、ジッサイんトコ、街に入れないワケにもいかないのだケド。

 なのでもう、結論としては、ドラ子についてはあーしが常にそばに置いて制御して見張る、ってことになった。……まあ、そーするしかないワケだけど。

 ——ああ、なるほど……うらないの通りだわ。“最後に同行人が増える”——あれはコイツのことなのか……。いや、まあ、人ってか、ドラゴンなんだケド。

 しっかしまあ……ラダオ以上に厄介そーなヤツが仲間になったなー。そもそもコイツ、どれくらい役に立つのか……いや、確かに強さ的には飛び抜けてっケド、同時に厄介さも飛び抜けてんだよナァ……。


 そんで、今回の依頼の後処理をするにあたっては、とーぜん、ドラ子のこともギルドに報告することになるワケだケド——そこでドラ子が待ったをかけた。

 自分の存在を大勢に知られるのは嫌だとか言って、メンバー全員に口止めしたのだ。

 とーぜん、イスタさんとかは反発して、そんであーしにも助けを求めてきたんだケド……この件に関しては、あーしはドラ子の味方をした。

 

 や、だって、ゼッテーめんどーなコトになんじゃん?

 こん時の話を聞いてたら、なんか——このギルドの一番エラい人にとどまらず、国のエラい人にも報告するべきです——ってなカンジのコトまで言ってたし、イスタさん。

 いやいや、国のエラい人って……ゼッテーやばいヤツじゃん。断固拒否だわ、そんなん。

 ……そもそもあーし自身、ちょっと後ろ暗いトコある身の上だし。——指名手配とかされてるカモだし。てか変装逃亡中やし、マジそれな。

 

 てなワケで、ここはあーしもドラ子に加勢して……その結果、上への報告はやめてもらうことになった。(あーしとドラ子のコンビに逆らえる人は、残念ながら、この場にはいなかったノダ……)


 そんで、ここでドラ子は、自分が誓約ギアスで縛られたことへの意趣返しとばかりに、みんなにも自分のことを喋らないという約束を守るという魔法的な契約をするように、とか言い出した。

 で、けっきょく、みんなは秘密を守るという魔法的な誓いを立てるコトになった。

 ちな、その契約を取り仕切ったのはオリビアさん。彼女には例のギアスに関する貸しがあるので、ドラ子にその辺をつつかれてしまえば、彼女は協力せざるをえなかったのである……。

 ただ、この協力だけじゃ、やっぱり対価としてはまだ足りないと(まるで嫌がらせのように)ドラ子が言い出したので、(どうもコイツは、色々と彼女に対して根に持っているらしい)けっきょくは、残りの対価も改めて支払う、ということになった。

 

 改めて、とゆーのは、その辺の話をする際には協力してくれると言っていたイスタさんが、とても忙しくなりそーなのでそんなのは後回しになるから、という意味だ。

 なにせ、ドラ子のコトをギルドに対して秘密にするとなると、今回の件のあらゆる責任や諸々の雑事(報告の偽装工作など)のすべてが、唯一事情を知っているギルド職員であるイスタさんの肩にかかってしまうことになってしまったワケなので、ね……

 ——そのことを理解した時のイスタさんは、とても憔悴しょーすいした様子だった。

 いや、マジで、コレはもう——申し訳ねぇ……としか言えナイっすわ。


 さて、ドラ子のことはひとまずそれでいいとして、そっからようやく、依頼の諸々の精算に入ったワケなんだケド。

 

 ここではあーしは基本的にやることはナイ。フランツさんとか、イスタさんに任せておけばいい。

 イスタさんにはこの時、「ドラゴンのことを秘密にするならば、ドラゴンを制した功績などの諸々もことにされてしまいますので、その分、報酬も少なくなりますけど、本当によろしいんですね……?」てなカンジのことを言われたケド、あーしは迷わず頷いた。

 そりゃとーぜん、厄介ごとが減るなら、その分報酬が減ろーが、かまへん、かまへん。

 

 本来なら、ドラ子を倒した分以外にも、死んだみんなを蘇生した分とかも、あーしが対価を取る権利があるとかゆー話らしーケド……その辺も丸々ことになった。

 でもまあ、その辺を抜きにしたとしても、今回の依頼は元から報酬高いヤツだったし、あーしが倒した魔物モンスターの素材や、解体とか手伝った分とかもあったから……それでもけっこうな額もらえたしね。


 んで報酬の次は、あーしの昇格ランクアップの話になった。

 まー、本来ならドラゴン倒したってコトで、特例でめっちゃ上がってもおかしくないらしーんだケド、それは秘密なのでここでも以下略——。

 ただ、通例にのっとったとしても、やっぱり功績としてはかなりのモノらしーので、あーしのランクは一気に上がった。

 そんなワケで、あーしのランクは一番下の新参者ルーキーから、フランツさんたちと同じランクの中級者ミドルまで、一気に三つ分上がった。

 ——どうやら、ランクが上がるごとに冒険者証ライセンスにそのあかしを取り付けるらしく、あーしのライセンスには新たに三つの装飾が追加されていた。


 んで、ミドルクラスについて軽く説明を受けたんだケド、ミドルともなれば冒険者としてもだいたい一人前とのことで、これからは受けられる依頼の幅も広がるし(例えば護衛依頼など)、ギルドで受けられるサービスも色々と増えるらしい(なんか、お金預けられたりとか)。


 とまあ、そんなこんなで、依頼の事後処理についてはおおよそが終了した。

 だいぶ時間がかかったので、よーやく終わったかーと思いつつ、あーしはさっさと解散したかったんだケド……その後も色々とするハメになった。

 というのも、なんか今回一緒に依頼を受けた人たちが、やたらとあーしに構ってくるのだ。

 中でもグイグイくるのは、ランスリータさんとトランシェさんとオリビアさんの三人だ。


 ランスリータさんは、この後に及んで——このドラゴンを譲って欲しい、みたいなことをまだ言ってくるし(まあ当の本人ドラ子がめっちゃ威嚇イカクして追っ払っていたケド)。

 トランシェさんは、やっぱりあーしに剣を教えて欲しいとか、まずは連絡先を交換しようとか、世話になったお礼がしたいから、なんならこの後一緒に食事でもどうだいとか——だから、途中からナンパになってんだよ……!

 オリビアさんは、例の貸しの件についての話を……していると思いきや、他にもあーしが知ってる術がないかとか、右手の術を使ったのが誰なのかとかイロイロと聞いてくる——いやあーしは術とか知らんし、使った本人ラダオは天に召されたから……。


 けっきょくその場は、イスタさんが——ユメノさんも冒険者なんですから、いずれまた会う機会はありますし、連絡を取りたい場合はギルドを通せば伝わりますから、今は解散しましょう——と取りなしてくれたので、ようやくあーしはその場を去ることができたのだった。


 それからあーしは、取りすがってくる人たちを振り払うよーにそれまでいた部屋を出ると、ギルドの中を移動して別の部屋へと向かった。

 というのも、なにやらあーしに会いに来た人がそこで待ってるとの話で、それを知らせてくれたイスタさんと共に、あーしはその待ち人の元へ行くことになった。

 ちな、その際にはフランツさん達とラナもついてきている。


 なぜ、フランツさん達(+ラナ)がついて来ているかと言うと——


「やあ、ユメノ君! それに、フランツくん達も……! よかった、どうやら依頼は無事に終わったみたいだね! 予定より遅いみたいだったから、ちょっと心配していたよ」


 通された部屋の中で待っていたのは——ついこの間、あーしが護衛の依頼を受けた時の依頼主である商人の——ボンドルドさんだった。


 。

 。

 。


 そう、今回の依頼の事後処理は終わったケド、あーしにはまだ終わっていない事後処理が残っていたのだ。

 それに関係しているから、フランツさん達もついて来ているワケだ。(え、ラナはなんでいるのって? ……や、知らね)

 

 そのやり残しとは、ひとつ前に受けた護衛依頼——の時に倒した魔物モンスターの素材、それの売却金を受け取るというヤツ。

 これ、金額の査定が終わる前に今回の依頼を受けたから、受け取りも後回しになっていたのだ。まあ、後は受け取るだけだから、そこは問題ナイんだケド……。

 問題は別のトコロにある。

 そう、問題があるのだ。残っているのだ、あーしには。


「……それで、ユメノ君。大変な依頼を無事終わらせて帰って来てすぐなのに、ちょっと言いにくいんだけど……実は、以前、君と交わした例の“商売契約トレードコントラクト”について、言わなければいけないことがあってね……。

 その……君たちが依頼を受けている間に、素材の売却額が確定したので、僕はここに確認しに来たんだ。それから、ユメノ君……僕の紹介したところで、君がツケ払いで購入した商品の代金についても、僕は確認したわけなんだけど……。

 ——結論から言おう。ユメノ君、僕も、まさかとは思ったが……君の受け取るべき素材の売却分の金額——これの全額よりも、君があそこで買ったアイテムの代金の方が……多かったんだよ。

 ……いや、ホントに……だって、相当な金額だったんだよ? 例の素材の売却額は。三分の一だけでも、相当の額だった。……だけど、ユメノ君、君が一回の買い物に使った額も、これまた……相当な額だったんだ。いや、本当に……商人の僕でもなかなか見ない額になってたよ……。

 で、その……つまりは、ユメノ君。端的に言って、君は今、僕に借金がある状態なんだが……、それも、そこそこの額の……。

 ……どうかな? は、払えそうかい? ——いや、もちろん、君と僕の仲だから、できる限り融通は効かせるつもりだけどね……ただ、まあ、額が額だから、ね」


 ……さて、と、うん。

 いちおー、ついさっきもらった報酬の金はある、ケド……。


 ……足りんのか?


 ……足りなかったら、そーだな、そん時は——


 ——言い値で売るか、このドラゴンドラ子


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