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半分だけ倒壊した建物に少女を助けた一人の男と彼に向き合うもう一人の男がその場に立っていた。


「何か用かな?」


少女を助けた男がそう言いと、彼と向き合う男が鼻で笑った。


「惚けるな。俺たち知り合いだろ?違うか、エレラウス?」


男の話し方と声の出し方、そして雰囲気で何かに気付き、エレラウスは目を鋭くし、険しい表情で男を見た。


「ケラ…。姿が変わってるから、しらねぇ奴かと思ったよ」

「それは、失礼」 


その後ケラの表情に笑顔が消えていく。


「茶番は此処までにしてと…。お前、持ってんだろ?」


その問いにエレラウスは少し表情を変えた。


「何をだ?」

「惚けるな。夜を司る神を人間と契約させる為の物をな」


ケラの言葉にエレラウスは内心では驚きを隠せなかった。誰にも知らせずに持っていたのに何故バレているのだと。


「奪わせて貰うぞ。そのブツを!」


ケラはそう言い、エレラウスに目掛けて炎を掌から放った。

エレラウスは咄嗟の判断で炎を空に打ち上げた。

その光景にケラはエレラウスを褒めた。


「さすが大気の神だ」


その言葉には少し悪意が込められていたようにも感じられる。

ケラは素早くエレラウスに近づこうとするが、エレラウスは掌を前に突き出す。

すると、突風が吹きケラを押し返した。その風に少しよろけたケラには、更に地面に向かって吹く突風がケラの頭上から襲いかかる。その突風でケラは地面に膝をついた。


「クッ。お前は所詮大気だ。風神の様に、風を刃の様に飛ばせない。お前が出来るのは、空気を押すだけだ」


ケラはそう言い。炎を推進剤としてエレラウスに突っ込んだ。

エレラウスは先程と同じように突風を発生させるが、押し負ける。

ケラはエレラウスを殴り、建物を数棟貫通した。

エレラウスはすぐさま立ち上がり、至近距離でケラに向かって掌を突き出すが、受け流される。彼らは、お互いの攻撃を受け流しながら隙を見つけようとしていた。

しかし、一瞬ケラが詰まったように見えたエレラウスは今まで放っていた空気の塊を凝縮して、小さくそして強力な一撃を放った。

ケラは避けたが少し掠った。その攻撃の隙にケラはエレラウスに火を纏った蹴りと突きをお見舞いした。

それには流石のエレラウスも怯まずおえなかった。


「お前を殺す気はない。いいから、早く渡せ」


ケラの言い方には警告の意味も込められていたように聞こえた。だが、エレラウスはそれを一切気にしていない。

エレラウスはすぐさまケラに対して先程と同じように凝縮した空気の塊を数発放つ。

ケラは紙一重で歪んでいる空間を見分けて避けている。徐々に近づくが、エレラウスが上に向かって掌を突き上げたのをケラが見ると、彼は急いでその場から離れようとするがもうすでに遅かった。

ケラは宙に打ち上げられる。そして、エレラウスはケラを空中で数回、空気の塊で攻撃する。

そして、エレラウスは大きく飛び上がり、ケラより更に上に跳ぶと両手の掌をケラに向かって突き出し、大きな突風がケラに向かって吹き出す。ケラはそれを真面にくらい地面に叩きつけられる。その衝撃であたりは土埃が舞い上がった。


「はぁ、はぁ」


と、エレラウスは大きく息をしていた。かなり体力を消耗した様にも感じられる。


「息が切れてるのか?」


と、ケラの声が聞こえた途端に土埃の向こう側が黄色く光っていた。

エレラウスは手を横に薙ぎ払うと土埃は風によって何処かに飛ばされ、全身に炎を纏ったケラが居た。


「いい加減諦めろ」


その言葉にエレラウスは息を整えて、


「これは使命だ。自分にしか出来ない使命を諦める訳にはいかない」


と言った。


「なら、死ね!」


ケラはそう言い、再びエレラウスと戦闘に入った。


  ●●●


私は友達の紅葉を横抱きしながら全力で走った。出来る限りずっとね。でも、先程から後ろの方で轟音が鳴り止まない。凄く怖い…。いつ、その轟音の元凶が自分の所にやってくるのが分からない恐怖心が私を不安にさせる。

出来る事なら今にでも、耳を塞ぎたい。その音を聞きたくない。


「なんで…こんな事に…っ」


混乱して泣きたくなる。いや、もう泣いてるよ。更にずっと走ってるから体のあちこちから悲鳴が聞こえて来る。今にでも倒れそうだけど、友達を見捨てる訳には行かない。


「うぅ…」


すると、友達が少し唸り微かに目を開けていた。


「さくぅ……?」


友達が私の名前を小さな声で呟いた。


「紅葉、大丈夫だから!あと少し辛抱してね!」


私は震える声で友達を励ました。

あとはこの曲がり角を曲がれば駅が見えるはず、そうすれば沢山の人がいる。そこに行けばきっと助かる。

曲がり角を曲って前を見ると確かに駅の前に人溜りが出来ていた。その時やっと走るのを止めた。

私と紅葉を見て駅から男の人が二人走ってきて、心配してくれている。


「大丈夫か??怪我は?」

「私より、彼女の方が……」


友達は私を庇って下半身が瓦礫に一度埋もれたんだ。だから、かなり痛いはず。

すると、友達が私に向かって


「さくぅ………私は大丈夫だよ。だから歩かせて………」


と、言ってきた。

少し戸惑った。明らかに怪我をしているのに、なんでそこまで無理をするんだ。


「誰かに支えながらなら行ける……からさ…」


友達の提案に私は嫌ながら応じた。友達を降すと、エレラウスの施していた不思議な力が消えた。そして、友達は私ともう一人の男に支えられながら歩いて行った。

しかし、現実は無慈悲だ。突然、轟音が近づいてきた。

私は後ろを振り返ると土埃が舞い上がっているのを見ると、足早に駅に向かおうとしたが、どう見ても間に合わないに決まっている。

友達が躓き転けた。私と男の人は急いで立ち上がらせようとする。しかしながら、またあの時と同じように建物が倒壊し始めた。

私は咄嗟に立ち上がった友達を全力で前に押した。

あの時は救ってくれた。だから、今回は私が貴方を救う番…。


  ●●●


朔空が犠牲となって紅葉を庇った。その時紅葉の瞳には涙を目に浮かべながら、笑っていた彼女が焼き付いている。

あたり一面がひと段落が着くと、紅葉は急いで朔空の所に四つん這いで駆け寄った。朔空を見た紅葉は絶望した。

朔空が仰向けになって下半身が瓦礫に埋もれ、腹には幾つもの鉄筋が刺さっていた。

男の人もそれを見て、悔しがっていた。


「なんで……なんで…うぅ…」


紅葉は膝から崩れ落ち泣いていた。悲しみに暮れる姿を見た朔空は、消えてゆく意識の中で話しかける。


「良いんだ……これで…。私は恩を……返しただけだから………」


それを聞いて尚、紅葉は納得が行かなかった。


「でも!…でも!犠牲にならなくても………」


紅葉は自分に対しての悔しい気持ちと、朔空に対する悲しい気持ちで、心が滅茶苦茶になっている。涙は止まらず、心の中で自分を責めていた。

でも、そんな時間も多くない。ケラとエレラウスの戦闘はまだ続いているようにも伺えるほど、地面が少し揺れていた。それを思った朔空は男の人に今にも閉じてしまいそうなな目を頑張って開けて、視線を送り願いを託した。


「彼女の事……お願い…します………」


それを聞いた男の人は頷き、紅葉をその場から離れさせようとするが彼女はなかなか動いてくれなかった。でも、朔空の涙を見た瞬間彼女は全身の力が抜けた。そして、男の人に従いその場から離れたのだ。


(これで良いよね?私は頑張ったよね?悔いが残らないように助けたつもりだけど、まさか死ぬなんてね。紅葉には申し訳ない…でも頑張ってこれからも生きてて欲しい…。なんだろうね………死ぬって案外怖くないのかな……………)


朔空の息は段々と小さくなって行く。

彼女が死にゆく時、彼女の近くにある男が空から降ってきた。その男とはエレラウスだった。

ケラとの戦闘でボロボロになっていたのだ。彼は倒れている少女が、朔空だと分かった時に歯を食いしばった。彼は悔しそうな表情を浮かび何かを考えた末、その場に膝を突き懐から石剣を取り出した。


「すまない……俺がもっとケラを抑えていたらこんな事にはならなかった…」


彼は聴こえてるのかすら分からないのに、朔空に悔い改めていた。彼は紅葉が生きている事を見て、彼女が身を挺して守ったのだと理解していた。


「君とは出会ったばかりだが、何故か君に託しても良い気がする…。だから、これで許してくれとは言わない。でも、罪滅ぼしをさせてくれ……」


彼は石剣を両手で握り朔空の胸の上に持っていき、深く息を吸った。


「ナイト……サクを頼んだぞ!!」


彼はそう言い、彼女の胸に石剣を力の限り刺したのだ。


「エレラウス!」


エレラウスは朔空の身体から手を離し、向かって来るケラを待ち受けた。

エレラウスは何もせず、ただケラに胸ぐらを掴まれる。


「さっきはよくも瓦礫の中に埋めたな!」


ケラは血塗れの少女が倒れているのを見て、エレラウスを煽る。


「さっさとモノを渡せばこうはならなかったさ!」

「そうだな……。でも残念ながら、それはもう無い。お前に絶対、渡すわけねぇ!」 


その言葉にイラついたケラはエレラウスの胸を炎を纏った手刀で貫通させた。


「なら、死体から無理やり取るだけだ」


彼はそう言いエレラウスを地面に投げ捨てる。

エレラウスは起きようとするが傷が深すぎたのだ。彼は吐血しながらも、朔空の胸から石剣が消えている事を確認してその場に倒れ伏せた。


「お?諦めたか?」


ケラはエレラウスに近寄ろうとしたが、後ろから何やら凄まじい魔力を感じ取り振り返ると、そこには死ぬ筈の朔空の身体が闇に包まれていた。

彼女は瓦礫を押し退け立ち上がった。それから、刺さっていた鉄筋を抜き取ってその場に捨て、振り返ってケラと目が合った。


「あ?まさか……」


ケラは近くの鉄筋を持って朔空に投げると、彼女はそれを少ない動きで避けたのだ。


「…………………ケラか?」


その言葉の雰囲気は朔空とはかけ離れていた。威圧感があった。

すると、彼女は突然夜空を見上げた。


「今日は…満月か………」


彼女はそう言い、ケラと睨み合いを始めた。ケラが突然、朔空目掛けて炎を纏った拳で殴ろうとするが、何処から出てきたのか分からない刀で受け止められていた。


「ナイト………」


ケラは朔空をそう呼んだ。そう。今の朔空は身体は彼女だが、中身が違っていた。

ナイトは拳を跳ね返し距離を取った。ナイトはボロボロになった服を破り捨て、タンクトップだけになった。


「これで少しは動きやすくなるだろう……」


彼はそう言い、ケラを斬りつけようとするが炎の攻撃で阻止される。

すると、ナイトは刀を消し薙刀を生み出しケラに追撃をする。今度は薙刀に切り替えたおかげで近づいてきた為、今度は剣に切り替えている。

ナイトはその場の状況で臨機応変に剣、刀、薙刀などを切り換えて、達人と言っても見紛うほどの腕前である。


「な…っ」


ケラは圧倒されていた。的確な防御と回避、些細な事でさえ転機にする攻撃と圧倒的な技量に。

ケラの体にかすり傷がつき始める。それでも、ナイトは攻撃を辞めなかった。いや、辞めるつもり元から無かった。

そして遂に、ケラがカウンターを狙って炎の攻撃を放とうとした時、ナイトの刃に胸を貫かれた。


「はっ………やっぱり」


ケラはそう言い、全力でナイトを突き放した。


「お前にはこの地に降り立って欲しく無かったのさ…」

「俺が来て、何か悪い事でもあるのか?」


ナイトの質問にケラは軽く鼻で笑って答えた。


「ああ、困るのさ…………」


彼はそう言い、倒れた。その後、彼の体は光の粒子となり何処か旅立った。


「ケラ………お前は堕ちたのだな…」


ナイトはそう言い、エレラウスのいる筈の所を見たが彼はもう既に死んで光の粒子へとなった様だ。それを裏付けるかの様に、彼が倒れていた地面に少しだけ光っているものがあったからだ。彼はそれに向かって手を合わせ終えると、夜空を再度見上げて深呼吸をした。


「また、会ったな夜空よ…。ウグッ」


彼は突然、身を屈め苦しそうに咳をした。口を覆っていた手には血が付いていたのだ。それから、鼻に違和感があると思い触ると鼻血を流していた。


「いきなり、やりすぎた……」


彼はそう言い失神し、その場に倒れる。


  ●●●


私は目が覚めると、見慣れない天井があった。でも、死んだ筈なのでは?

私は、自分の頬をつねった。痛い。

体を起こすと、隣に私の左手を両手で握って寝ている紅葉がいた。その時、私は悟った誰かが私を救ってくれた、救われたんだと。

自然に涙が目が溢れて来て、泣いていた。


「起きたか………」


私はびっくりして、声がした方向を見ると窓の近くにある椅子に腰掛けている人を見た。

その人は黒く紫かかった夜空の様な色をした瞳と、黒いけど美しい髪が生えていた。


「貴方は……?」


私は彼に訊いた。何故訊いたのか…それは、彼が私を救ったのかも知れないから。もしそうならお礼を言いたい。ただそれだけ。

すると、彼は言った。「ナイト」と。




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もし、よければ感想とアドバイスお願いします。

読んで頂きありがとうございました。


続きを描くかどうかは気分次第です。


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