第14話  コンビ

 私は旅行と読書と文筆以外に特に趣味はない。酒もたばこもしない。だから海外旅行道楽の方に金を投資できるんだろうなと思うし、渡航先でも派手なトラブルに見舞われないのだろう。女が一人旅でトラブルに遭うのは酒の席が多いと聞く。女が羽目を外す時間帯は、宿で爆睡していることが多い私。治安に波がある国を旅するたびに、このような体質で良かったと安堵することもある。

 私は自分の意思に基づいて欲を満たしたいと思うタイプだから一人旅に適しているのだが、カップルの旅も大切だとも思う。旅って性格が出るんだよ。特に同棲の前段階に最適。こいつと同棲できるかな、と言うジャッジをするにはもってこいだ。

 オールドバガン地区を巡っている時も、これは同棲しない方がいいなと言うバカップルもよく見かけた。(もしかしたら既に結婚していたかもしれないが…)

男が一生懸命バイクを運転しているのに、女ばずっと後ろで携帯をいじっている。要は関心事や目的がかみ合っていないのだ。同棲には向かないなと感じたカップルは一様に、女が退屈そうな表情を浮かべていた。

 ピュー族によって建てられたブーパヤーの目の前には、エーヤワディー川が広がる。この川のほとりもカップルを多く見かけた。決してきれいな川ではないが、多くの遊覧船が出ていた。あの中にも、はす向かいカップルはいるのだろうか。

 ミャンマーは最先端の景色を楽しむ場所ではなく、古来から大切に保存されてきた空気感を楽しむ国だと思う。価値観の一致を図るには最適な場所かもしれないが、合わんな…と初日で気付いた場合、後の旅程はカウントダウンでしかない。

 2か所目、タビィニュ寺院そして3か所目、黄金王宮と王宮考古博物館と順調にバイクは走る。バガン王朝時代の建物を再現したものだと言うが、修繕費用とスキルがない国だから、王宮は安っぽい建物に見える。2008年にできたばかりで、まだ新しく建物はきれいだが、見どころはない。レセプションホールにカッとなって作ったであろうバカでかいチェスのような置物があり、ここでも微妙な距離のカップルが体を冷やしながら、残りの時間を数えていた。

 次に、ここに行かずしてバガンに来た、と言うなと言われている場所、アーナンダ寺院へ向かう。外観は少し西アジアのイスラム風な建物で仏教らしさは感じられない。

 外観を撮影していると、日本人カップルに声をかけられた。新婚旅行だと言う。新婚旅行でミャンマーをチョイスするセンスにも驚いたが、それだけウマが合う最高の相方を見つけたということだろう。記念撮影をお互いにしあった後、菩提樹の日陰で体を休めているとき、このコンビを眺めていた。ホント楽しそうで、難しい歴史を熱く語り合っていた。


 9世紀に防備を固めようと築いた城壁の名残の象徴であるタラバ―門をくぐり、お昼にした。スタービーム・ビストロという、アーナンダ寺院の裏手にあるレストラン。ヤンゴンの高級ホテルで修業したシェフによる料理が振る舞われる場所とあって、リゾートを模した雰囲気があり英語も通じたし、トイレもちゃんとしていた。

 オーダーしたのはエーヤワディー川で取れる川魚をグリルしたものだったが、何の魚か分からない。ずっと携帯をいじっている店員を呼んで聞いても要領を得ない。衣は分厚く、中の魚だけ食べた。バターソースは美味しかったし、そんな変なものではないと実感は得たものの、なんか釈然としない感触はちゃんと残る。飲み物を含め、7000チャットを支払って店を出た。

 食事と店構えが一緒だ。分厚い衣で覆われているけど、中身は不自然。外側はおしゃれに分厚くコーティングされているけど、中身はその辺の食堂のサービスと同じ。店員の質も一緒。

 なんだかなーと思いながら財布を片付けていると、レストランの前を日本のバスが通り過ぎる。そう言えば、ミャンマーでは日本のバスをよく見かけた。宿の人になぜ日本のバスが多いの?って聞いたら、

「限界を超えても走れるから」

と真顔で言っていた。確かに、もうバスも疲れ切っているものが多かった。


 午後の観光開始。語らずとも、青空のクオリティも高い日。絶好のバイク日和。

 あれだな。パコダっていっぱい見ると、どれも一緒に見えてくる。外観はそれぞれ違うから、そこを楽しもうとするも…飽きて来る。中もほぼ…一緒や。仏陀のありがたい顔も同じ表情に見える。KーPOPアイドルがみんな同じ顔に見えてしまう、おっさんの気持ちがよく分かる瞬間だ。

 一緒にパガン観光のパゴダに関する感動も午前中がピークで、午後はバイク走行の方が楽しかった。

 まだまだ観光化されていないミャンマーは道路も土系舗装だらけだ。だからバイク走行はアドベンチャー要素が加わり、気分はドラクエの旅人である。

 颯爽とEバイクを走らせていると、ひょっこり草むらから顔を出す、パコダ。何と言う幻想的な光景だと調子に乗っていると、土にタイヤが取られて転倒する。そんなトラブルもまた楽しい。下手にビルとか建てないで、このままずっといて欲しい。

 

 ミャンマー語だけの表記のよく分からない寺院を通過し、シュエグーヂー寺院に到着。シュエグーヂーとは、偉大なる黄金の洞窟と言う意味。廃墟感があるが、結構しっかりした建物であり、特に扉の彫り物が見ごたえがある。昔は腕の良い職人がいたのだろう。

 今のミャンマーの建造物を見ていると非常に簡素的と言うか、適当感が透けて見えるが、昔のミャンマーの人は、結構手の込んだものを作成していたのだなと思う。

 こちらが熱心に撮影していると、寺院周辺でお土産物屋をしているこの女性が、日本語と英語で話しかけてきて、突然ガイドをし始めた。なかなか勉強熱心で、日本語も毎日勉強していると話す。そして写真撮影をサポートしながら、一生懸命に単語を熱心に繰り出してくる。

 最後に自分の屋台に連れて来て、漆のコースターや製品を見せてきた。横にはつぶらな瞳を持った子供が、私をじっと見つめていた。

 女手一つで育てているのだろうか。息子の姿を見せられると、弱いんだよな。

 ガイド料を含めて3枚、6ドルで購入することにした。土産物にしてはなかなか高額商品だ。

 丁寧に梱包して貰い、手を振って別れる。

 さ、次の寺院へ行こうかと出口を探していたら道に迷ってしまい、ぐるぐるしてしまう。さっきの土産物屋に戻り、ちょっと出口を教えてもらおうと、店に行くと丁度店の女主人が子どもに2ドルを渡していた。

 親子ではなく、名コンビだったのだ。

 つぶらな瞳の男の子は、女店主がスカウトしたのだろうか。

 女主人は金をカバンに片付けると、また観光客を探しに建物の中へ入っていった。すぐに子役は、「売り」の寂しそうな目で店番を始めた。


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