第9話 観光発展途上国ミャンマー

 私はドラゴンクエスト世代である。だから何かと旅とドラクエをよく重ねてしまう節がある。何かトラブルや難問にぶつかるとクエストだなと思ったり、奇妙な洞窟や塔を見ると、ドラクエっぽいなと感じたり。以前、ウィーンのシェンブルン宮殿を見学した時もその栄光の品々を見て、

「鳥山明はこちらを取材したのではないか。」

と勝手に分析し、一人悦に入ってしまったこともあった。それくらい宮殿の品とドラクエに登場する剣や楯、鎧が纏っている風が一緒だった。

 ドラゴンクエストⅢの中にノアニールの村と言うものがある。初めてノアニールの村に来た時点では、村人のほとんどが眠っているため、店も宿屋も利用できない。唯一話ができるのが村の南西にいる老人で、村人の眠りを覚ますには、「ゆめみるルビー」をエルフに返す必要があることが分かるというストーリーだ。

 今回訪れたニャウンウー村は、その村を彷彿とさせる静けさを持ち合わせていた。

 ともかく眠っているのかと思うくらい人がいない。と言うより人の気配すらしない。12月23日だから警察も学校も営業中だろうが、休日のように静まり返ってい 

る。時間が早いからだろうかと思ったがそんなことはない。朝8時を過ぎている。

 ようやく人の気配を感じたのは市場が視界に入ってきてからだった。が、市場を取り巻く人々の表情が乏しい。定職についていない人なのか、単なる暇人なのか、何をしたらいいか分からない人たちなのか分からないが、職業身分不詳の人々をこの界隈でよく見かけた。でもさすが仏教国、人間が大人しい。観光客にちょっかいはかけない。

ずーっと、宙を見つめている。

 当然活気なし。そして買うもんもない。もちろん交渉制であり、個人的に値段の書かれていないものを手に取ることに抵抗があるというのもある。

 バガンにはスーパーも見当たらなかったし、コンビニも見つけられなかった。そのため水は毎度、宿で購入していた。50円程度だった。

 緑の中をゆっくり走る自転車。

 多少、人の呼吸を感じられるようになったのは、路地に入ってからだった。私は庶民の生活が垣間見える路地が大好きだ。そこには終戦直後のような風景が広がっていた。そして町民が集まる広場には、必ず小さなパコダがある。

※パゴダと言うのは、イギリス読みで寺のこと。もともとイギリスの植民地なんで。


 ただこれはミャンマー全体がまだまだ観光発展途上国であるから仕方がないのだが、英語の看板がほとんどない。半分以上がミャンマー語表記であり、なんて書いてあるか分からない。当たり前だが地図もない。施設1つとっても看板もない、何と言う名称か分からないパコダなのか、単なる洞穴なのか分からない?がいっぱい点在していた。

 その何か分からないものを取り囲むように、学校に行っているのか通えていないのか分からない子どもたちがボール遊びをしていた。

 迷子になり、脇道に紛れ込むも、これはこれで楽しい。人々は優しくて、よく道案内をしてくれた。ただ英語は通じないから、なお迷子になってしまった。

 バガンは変に発展しないで欲しい街だなぁ。このまま時間が止まったままの街でいて欲しい・・・と願うのは観光客のエゴだろうか。

 ではバガン最大の見どころ、シュエズイーゴォンパヤーへ参ろう。

※3代目の国王チャンシッターによって建立され、後に建立されたビルマ式パゴダ(仏塔)の原形となった。「シュエ」はビルマ語で「金」、ズィーゴンは「砂の河岸」、もしくはパーリ語で「祝福された土地」を意味する。


 村の中心に位置するこちらには丁寧に参道があり、そのわきに自転車を停めた。

長い屋根のついた参道の途中でサンダルを脱ぐ。その指示は英語看板が立っていて分かりやすい。預かってもらう場合は、お金を要求されるため、私はリュックに入れていたエコバックの中にそそくさと入れた。

 自然に裸足になり歩いている自分に驚く。もちろん裸足で参拝する国ばかり渡航してきて慣れたというのもあるが、元来、裸足が好きなんだろうなとも思う。仕事から帰ったらまず靴下を脱ぐし。

 裸足で道をてくてく歩いていると、お土産屋さんストリートにぶつかる。

何年前から陳列しているのだと突っ込みたくなる草臥れたものまである。お土産屋の頭上には、ブッダの一生や仏教の教えの書かれた絵画が描かれていた。非常に生々しく、思わず目を反らしたくなる絵もあったため、早歩きになってしまった。

 歩くこと10分弱でゲートに到着。

 仏塔だけでなく、様々なパコダ、施設が観光客の方を向いている。

 まずはゲート近くの鐘を鳴らしに行く。地上から140cmくらいの高さに鐘が設置されているため、子どもたちもせっせと鳴らしていた。

 メインの仏塔は晴天に映える素晴らしい金で覆われている。今どきの言葉で言うならインスタ映え施設ということになるのだろうか。ただ歴史とデザインのスマートさを鑑みると、いささかその表現は安っぽさがにじみ出て使いたくない。

 このメインはやはり観光客も多く、いろんな角度からの撮影に皆さん挑戦していた。

 もちろん仏陀の像もあり、日陰の涼しい所で瞑想されていた。私も心を静めて手を合わせる。この旅が無事に進行しますように…。

 建物自体はそんなに広くないから30分程度の滞在で見物は終了できる。地元の人は、日陰で座って、皆さんだべっておられた。何を話していたのだろう。

 シュエズイーゴォンパヤーの周辺には、チャンスィッター窟院や、名もなきパコダ跡が点在している。同時期に建てられた建物らしいが、街の象徴と比べてあまり丁寧に管理されていないようで、かわいそうになってくる。観光客も訪れていなかった。

 11時前にメインストリートに戻ってきた。朝食が少なかったから、腹が減っている。早めのお昼にしよう。

 今回のお昼は、シュエズイーゴォンパヤーの向かいにあるレストラン、シャーキーズに入った。中は広くて非常に開放的な作りであり、明らかに観光客を意識している。11時台はガラガラで、貸し切り状態だめ、一番景色の良い席に通された。

 地球の歩き方に書かれていたクラッシックバーガーを素直にオーダする。そしてコーラで流し込む。評判通り旨い。

 さて、午後からはどう回ろうか。





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