第10話 タレント家族

 ランチを取った後、一旦宿に戻り、屋上に干していた洗濯物を取り込んだ。強い日差しで、衣類は薄焼きせんべいのようにパリパリになっていた。

 パガンは本当に日差しが暴力的だ。ミャンマーの旅では様々な都市を訪れたが、パガンが一番こんがりと焼けた。 

 午後はホテルの近所にあるパコダ巡りからスタート。2016年にバガンは地震に遭い、崩れているものも相当多かった。もちろん経年劣化のものもある。そのまま放置されているのは、御多分に漏れず、国に修復費用がないからだ。

 一番印象に残ったのは、形がヨーロッパの教会っぽい、ティーローミィンロー寺院。メインストリート沿いの中では一番大きな寺院なのですぐに分かる。観光バスもよく停まっていた。

 この寺院を見つけた時点で14時頃。外は32度あったこの日。こりゃ修行だわと思いながら必死に自転車を漕いでいた。パコダの中はひんやりしていて、どんな状態になっているのかな?と覗いたら欧米系の観光客が昼寝していて、びっくり。踏まなくて良かった。

 この施設には表情が違う4体の仏像が収められている。少しはにかみながら微笑んでいる仏像が気に入った。

 見学が終わった時点で体力の限界。一旦、宿に戻ることにした。体を休めてからトゥクトゥクチャーターすることにする。15000チャット也。

 街中から離れている、ニャウンウー村から6~7kmほど離れているミンナントゥ村エリアを回ってもらうことにした。

 タンブラ寺院、ナンダマンニャ寺院、そして日本が鎌倉時代だった時に建立されたレイミャナー寺院群と巡る。ここは内部がちょっと黒く汚れている。というのも、第2次世界大戦中、戦禍を逃れて住民がこの中に避難し暮らしていたそうだ。どうもこの中で煮炊きしていたらしい。確かにこのパコダは防空壕には最適なサイズだ。


 ちなみにこのエリアを回ってくれたトゥクトゥク運転手は方向音痴だったようで、よく迷子になった。それぞれのパコダ前でお土産屋を開いている人に道を聞いていた。似たようなパコダが多いから分からなくなるもの理解できる。それに私は地球の歩き方を開き、次はここの寺院へ行って!と振り回すわがままな観光客だしね。

 16時過ぎ、迷ってやっとたどり着いたのがパヤートンズー寺院群。南方上座部仏教が主流のバガンでは珍しく、菩薩などの大乗仏教や密教的なモチーフ。またヒンドゥー教の神々が描かれていて、実に興味深い。

 ただここの寺院、露天商が多くて、ともかくしつこい。ミャンマーでは珍しい部類ではないか。トゥクトゥクに乗り込んでも追っかけて来る様には驚いた。

 さて、このルートのメインは、ミンナントゥ村訪問である。

 私はお宅訪問、大好き。ウルルン滞在記もよく見ていた。

 村に着くと、待っていたかのように20代の若い女の子が近づいてきた。

案内しますからついてきてと手招きをする。要は勝手に回るな、と言うことなのかな、と思い大人しくついていくことにした。

 早速、小さな村の中へ入る。

 ミャンマーには乾季、雨季と冷季と言う3つの季節があると言う。今は冷季と言う時期で一番寒いらしい。昼間は乾季の時と一緒だが、朝晩はきついと笑う。

 そう言いながら、案内人はふきっ晒しの家に手招きする。辛いだろうな。

一番辛いのは、スコールがある、雨季だろうけど。雨漏りし放題だろうなぁ。

 訪れた時は16時半過ぎであり、子どもたちも土間で夕食の準備をしていた。

 案内人は手慣れた様子で、焼け野原時代の日本のような状態の村を案内していく。水浴びだけの風呂、命の水が湧き出る井戸、村人みんなで協力し行う養豚やピーナッツ栽培の様子を、テンポよく分かりやすい英単語を駆使して説明してくれる。

 そして折り曲げても元通りになり、洗ってもOKという、バガン名物サンドアートやミャンマーの民族衣装ロンジーの説明も行い、3000チャットで売りつける余裕すら見せる。

 なかなかしっかりした女性で慣れていた。今まで何百人と相手にしてきたのだろう。そして一生懸命英語も勉強したのだろう。訛りは強いが、私よりは上手だった。

 案内の先々で、出会う村人もカメラに慣れていた。自然にポージングができ、大人しく収まってくれる。自分たちが商品で、見世物であることを自覚しているようで、これは大人だけでなく、子どもの目線からも感じられた。

 最後に案内されたのは、スコールが来ても大丈夫だろうと思わせる、この村の中で一番立派な家の中で、妊婦さんだった。彼女は客に背を向け、横になっていた。案内人は壁は薄い木を編み込んで作られていること、通気性に優れた作りであり、湿気を溜め込まないんだよ、と家の説明に終始していたが私はずっと妊婦を見ていた。

 自宅分娩なんだろうか。この界隈に産婦人科があるとは思えない。

 聞いとけばよかった。

 案内してくれた女性に相場通り、3000チャットを支払って村を後にする。


 この村の後に訪れたのは、バガンビューイングタワーだ。パガンはサンセットが有名である。入場料5ドルであり、タワー横にあるチケット売り場で支払う。

 まず、入ったらすぐに、ウエルカムドリンクを頂く。これが甘すぎるシロップみたいなもので、まずいからみんな一口飲んで残していく。

 今にも止まりそうなおんぼろエレベーターで12階へ向かう。きっと定期点検なんて概念なんかない国だろうから、恐ろしいと思った客は階段で上がっていた。

 2台しか起動してなくて、長い行列ではあったが、残りのHPもわずかだったため、大人しく並び、閉じ込められたくない!早く着け!と祈りながらエレベーターに乗り込んだ。

 ちなみに展望抜群のレストランもあったが、あとで見たら誰も入っていなかった。ウエルカムドリンクのクオリティを知ったら、確かに入る気も失せる。

 必死の思いで12階まで到着したものの、せっかくのガラス張りなのに、ガラスが汚くて、サンセットの方角がきれいに映らないという罰ゲーム状態に出くわした。窓掃除と言う概念もない国なのだろうか。12階では納得のいく風景が拝めないので、外階段方面へ行き、外からの撮影を試みることにした。


おぉ。


 写真であとから見るよりも肉眼でその場で見た方が感動は強い。良い。美しい、浮かび上がってくるパコダ。非常に幻想的で、ありがたい気持ちになってくる風景。

 シャッターを切る手が止まらない。

 3階あたりから撮るのが一番かもしれない。

 そこに大きなバルコニーがあって、結構皆さん夕日を見ながら、幻想的な風景と饒舌に語り合っていた。

 30分ほど眺めていたら目も痛くなってきた。そろそろ帰ろう。タワーの外では、ドライバーさんも待たせている。

 18時前、宿に到着。汗もいっぱい掻いたからすぐシャワーを浴びる。

 この日のディナーは宿左横にあったレストランにした。昼間から多くのお客様で賑わっていたから、けっこう人気があるのかな、と思って訪ねてみた。夜もなかなかの盛況ぶりであり、ガイドブックには書かれていない店だが、穴場のようだった。

 オーダーしたのは、グリーンカレーとマンゴーシェーク。あまり辛くしないで!と伝えたから何とか食べられるレベルの辛さだった。チキンが火が通り過ぎて硬かったけど、おいしかった。デザートにスイカも出てきた。

 ミャンマーではスイカばかり食べていたな。ちょうどシーズンだったのかな。

夕食代8500チャット。ごちそうさまでした。

 では腹もいっぱいになった宿へ戻りましょう。

 すぐに6人部屋のドミトリーのベットで横になり、ブログを更新していたら眠くなり、気づいたら爆睡していた。




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