第8話 世界遺産都市パガン
3日目、27日早朝、5時30分前に世界遺産都市パガンのバスターミナルに到着した。真っ暗闇の至る所から、タクシー運転手が突然湧いて出てきた。そして疲れ切って肩で息をしているバスを、一瞬で取り囲む。
バスターミナルには。タクシーの相場表が書いてある看板が立てかけてあった。予約した宿はオールドパガンエリアに当たると、アドレスを見せたら主張され、結局9500チャットも取られた。
アプリケーションのGRABタクシーは捕まらなかった。ミャンマーでは機能はしていると思われるが、田舎であるパガンの町では、登録しているタクシーの数も少ないのかもしれない。
タクシーで宿に向かう途中、チェックポイントを通り、バカンでの入域料を支払う。25000チャットを提示された。あほみたいな金額を取られ、眠気も一気に冷めた。
6時過ぎ、あらかじめ予約してあった、『BaobaBed Hostel Bagan@Bagan May』と言う宿に到着。ドミトリーの割には、朝食付きで1泊1700円もする。この国の相場からしたら、非常に強気な宿である。
チェックインはできなかったものの、交渉の末シャワーは無料で借りることができ、2日ぶりに汗を流すことができた。シャワーの水圧は弱く、お湯の温度も高くはないが、まだ許せる。というのも、バカンは暑いからだ。
ボディソープは無料でついてきた。あと洗面所にもハンドソープが設置されていた。
屋上スペースのところで洗濯物が干せるので、シャワーの際に、ついでに洗った洗濯物を干した。日差しが強いので半日でパリパリになりそうだ。清潔なプールも完備されており、早朝から楽しんでいる欧米人カップルもいた。このようなクオリティだから1泊1700円もするのだろう。プールの前にルーフトップカフェがあり、明日の朝食はそこで食べるようにと説明があった。
シャワーを浴びて、洗濯物を干してすっきりした後は、顔を作り、夜行バスの中で配られたマフィンなどの軽食を朝食に充てた。カフェラテだけフロント横にあるあるカフェで注文した。2500チャット。
さて、市内観光へ参りましょう、と立ち上がり、カップを返却に行ったとき、フロントスタッフがおもむろに声をかけてきた。
「ねえ、ポッパマウンテンに興味ない?」
ポッパ山?ガイドブックに書いてあった山か。地球の歩き方を見る限り、小ばかにしたような表現がちりばめられていたため、あほ山のように見えたのだが、ご利益はあるのだろうか。
『タウン・カラッ』=ポッパ山は、『精霊ナッ信仰』の総本山のことである。『ナッ信仰』とは、仏教以前からあるミャンマーの土着の民間信仰で、現在は仏教と並存する形で人々に信仰されている。
日本の八百万の神とか、妖怪と同じような感じで、ミャンマーには森とか川とか山とか、いろいろなところに様々な『ナッ神』がいるらしい。
ポッパ山の『ナッ神』は『ミン・マハギリ』という神様のこと。
『ミン・マハギリ』は、かつて鍛冶屋であったが、王の計略によってジャスミンの樹の下で焼き殺されてしまった。(鍛冶屋の姉は王妃として迎えられていたが、後追い自殺した)。焼け残ったのは2人の首だけだったという、悲しい結末がある。その後、そのジャスミンの樹が木陰で休む人々を襲い始めたため、王は2人の首をポッパ山に奉納し供養したという伝説がある。
「1人キャンセルが出たのよ。20ドルで行くことが可能なんだけど、チェックインの時、あなたは1人旅だと聞いたから、明日、特に予定を立てていないのなら、どうかしら?」
20ドルか。明日はぶらぶらパガンの町をうろつこうかと思っていただけだった。見る価値があるのか分からない山ではあるが、20ドルなら、期待外れであってもまだ許せる。私は2つ返事で、承諾した。
フロントスタッフは、さっそく予約を入れてくれ、明日は9時30分くらいにバスが迎えに来るから、それまでにロビーに来てね、とウインクしてきた。
「今日は自転車で街を散策してきたらどう?無料でいいわ。でもデポジットの5000チャットは収めてね。」
と投げるように自転車の鍵をよこしてきた。
パガンの一番の繁華街は、ニャウンウー村というところだという。スタッフの話だと、10分で行けると言う。この繁華街に行く途中に、パガンで一番有名で大きなパゴタ、シュエズイーゴォン・パヤーパコダがあると、私の広げた地図を指さし教えてくれた。
一通りの親切を受け取り、スーツケースなどの荷物を全て預け、リュックだけ担ぎ、早速自転車をまたいだ。
バカンは緑の多い街。暑さを遮ってくれる緑の中を自転車が颯爽と駆け抜けていく。気持ちがいい。朝のサイクリングにはもってこいだ。
田舎町ゆえに車も言うほど多くないから、クラクションもうるさくない。
看板があるから分かる警察や子供の声一つしない学校を通り過ぎて、パコダではなく、先に繁華街をチラ見することにした。
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