第2話 貴妃、不遇を託(かこ)つ
(しかも、演目は《
《
(愚かというなら、このふたりもだけど)
視界の端に映る同輩の貴妃たちを横目で窺って、仙娥は心中嘲った。
今日の席は、先日、各
芝居なら何でも良い、と言いたげににこやかにしている
(
謹厳な
(我が家の者が
興徳王は、まだ仙娥の甥を
(沈貴妃はもっと疑われると思ったのに。もっと、見苦しく泣き喚いて
舞台の脇では、
上手く行かない、は後宮に入って以来、常に仙娥に纏わりつく思いだった。
数多の
けれど、皇帝は仙娥の横を素通りして、香雪を選んだ。あの女の清楚な美貌や教養高さ、控えめながら洗練された立ち居振る舞いが称賛されるのを漏れ聞く度に、仙娥は歯噛みしたものだ。そんな美点はすべて、彼女だって持っているのに。先に皇帝の目に留まったのがどちらか、というだけでこうも明暗が分かれるのは、承服しがたい不公正というものだった。
(《
万が一を考えて、偽皇子に
仙娥が唇を噛んだ時──《
(……聞くに堪えない。恥ずかしくないのかしら)
明婉のか細い声は柳の綿のように力なく頼りなく、伴奏の楽の音に負けてどこまでもふわふわと漂うようだった。詞も
仙娥がようやく気を緩めることができたのは、
《
抱えの
(あの娘は、
秘華園の
まあ、
(あの女が罪に問われれば良い。貴妃の位も陛下の寵愛も失えば良い……!)
梨燦珠の
(でも、少なくとも
(わたくしは──当然の意見を述べただけよ。何も悪いことはしていない。梨燦珠の
だから、仙娥は失うものはないはずだ。恐れ、焦る必要はない。ただ、それでも少しでも香雪の傷が深くなって欲しい。できることなら、あの女に肩入れする
(あの女が失脚しますように……!)
もう何度目か、心に強く念じた時──拍手の音がして、仙娥は我に返った。舞台では、明婉と姸玉が並んで観客に笑顔を見せている。性を偽った女駙馬の罪は許され、公主と姉妹の契りを結ぶ──《
「
卒なく見え透いた世辞を述べる華麟は白々しいことこの上ないし、大きく頷く鶯佳はたぶん何も考えていない。
(長公主様に
呆れ果て、心中で嗤いながら、仙娥は賢い発言を考えようとした。興徳王や皇帝の耳にこの茶番が届いた時、わたくしは諫めたのですけれど、と言えそうなことを。目の前の無邪気で愚かな姫君よりも、その父君や兄君の機嫌のほうがよほど大事なのだから。
でも──仙娥が気の利いた表現を思いつくよりも、明婉が弾んだ声を上げるほうが早かった。
「本当に? では、わたくしも
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