第4話 燦珠、通じ合う
赤を基調に、黄金の
大仰な移動のし方にまだ慣れないのだろうと、
(何人か減らしても大丈夫なんじゃないかしら?
華麟も香雪も、細身に見えるのに──と、燦珠が余計なことを考えているうちに、二台の
というのも、この
背景の幕を用意するまでもなく、
(いよいよ、なのね……!)
香雪が華麟の申し出を受ける意向を示してから、驚くほど早くことが進んでいる。
今日から、秘華園の
(相手役がいるのも初めてだし、新しく演目を習えるなんて……!)
嬉しいことが続きすぎて、燦珠の心臓は踊り続けて休まる暇がない。夢の中でも唄うか踊るかしているから、いつか弾けてしまうのではないかと思うほど。それくらい、今の彼女は昼も夜もなく浮かれていた。
燦珠の興奮を知ってか知らずか、華麟は軽く指先を動かしたようだった。空気の流れによって、貴妃が纏う良い香りが漂ってくる。
「顔を上げて、楽にしてちょうだい。わたくしたちはいないものと思って、のびのびと練習してちょうだいな」
「はい……!」
言われて顔を上げて初めて、燦珠は華麟の容姿を間近にじっくりと見ることができた。
(ああ……後宮って
楚々とした白菊の美しさの香雪と比べると、華麟の美しさは咲き誇る八重の牡丹といったところだ。
なぜか古風に
古臭さを感じることなんてまったくなくて、むしろ
「あの……もしかして、《
その時代の衣装は、まさに華麟が纏う様式だったはず。燦珠が指摘すると、華麟はぱっちりとした目を嬉しそうに輝かせた。
「そう! 分かるの?」
「もちろんです! 夜光珠掩盖望月、后宮的諸花羡慕──満月よりもなお眩い球の美貌、後宮の花たちが見上げるは!?」
「瞥一眼流墜星星 地上的月亮──眼差しひとつで星さえ落ちる、地上の月~~!」
燦珠が歌詞を唱えれば、華麟も淀みなく続きを吟じてくれる。
立つ者と跪く者、貴妃と
「あの、謝貴妃様……? 燦珠……?」
気付けば、香雪は戸惑うように首を傾げては目を瞬かせていたのだけれど。置いて行かれてしまった彼女に卒なく説明するのは、燦珠と並んで跪いていた星晶だった。
「
「ああ……とてもお綺麗だと思っておりましたが、それで。得心しました」
香雪が微笑んだところで、星晶は恭しく礼をする。
「
「貸す、だなんて……。わたくしは、燦珠に心のままに舞って欲しいだけなのです。貴女の演技も楽しみにしておりますね、星晶」
「光栄でございます」
星晶の爽やかな笑みに、香雪はほんのりを頬を染めていたし、星晶のほうも初対面の
「──それでは、始めようか」
主と
燦珠も星晶も隼瓊も、動きやすい
「まずは燦珠、
「はい、
見せ場とばかりに、燦珠は張り切って手を挙げた。
最後のは、《
「まあ、すごい……!」
「やはりね。わたくしが見込んだ通りよ!」
香雪と華麟の、感嘆や称賛の声が間近に聞こえるからなおのこと、燦珠の筋肉も間接もよくしなりよく動く。
「──どうですか、
「そうだね……」
息を弾ませる燦珠に、隼瓊も満足げな笑みを浮かべて長い指を顎にあてている。些細な仕草のひとつひとつまで、どこまでも格好良い人だ。
隼瓊は、たぶん燦珠にやれる演目を考えていたのだろう。軽く目を伏せると、長い睫毛が影を落とすのを見れば、女の姿をしてもさぞや綺麗なのだろうと思わせる。
燦珠が息を整えながら見蕩れていると──隼瓊はおもむろに口を開いた。
「《
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます