ふりかえる

@tonari0407

探しにいく

 振り向くとそこには誰もいなかった。


 落胆と共に、ため息は白く濁って散った。


(何ガッカリしてるんだ? )

 頭の中で自問自答する俺の背中に、視線が刺さる。


 あの目だ。やはり俺は見られている。


 再度後ろを振り向くが、そこには冷ややかな暗闇が待っているだけだった。


 止めてくれる友達も、俺を置いていったあいつもここにはいない。


 身体だけでなく、心も冷えきっていく。

 カチカチと歯が喧嘩する。


(早く、早く暖をとらなければ)


 頬を伝って流れた涙は、辛うじて生きている身体のお陰で凍らなかった。


 その瞬間、俺を見つめる視線が温かいものになった気がしたのは、気のせいだろうか?

 3度目の正直で振り向いたが、それは杞憂に終わった。


 辛い作業を続ける身体は悲鳴をあげるが、心は喜んで弾む。


 思えば俺の人生は冷たく、干上がったようなものだった。


 酒癖の悪い父親、その暴力に怯える母親。

 何もかも余裕がなく、心が温かく満たされるような感覚を持ったことがなかった。

 誰も俺を見てくれなかった。


 俺は求めていたんだ。

 俺と向き合ってくれる存在を。


 父親譲りの大きな身体と力に、ひれ伏して笑う友達モドキではなく、

 表面上は正論の、心ない言葉を吐く教師でもなく、

 憎悪の感情でも、俺自身を見てくれたあいつを欲していたんだ。


 あいつが俺から逃げたときは、心にポッカリ穴が空いた気分だった。

 オセロのように180度態度を変えた取り巻きなんて、どうでも良かった。


 俺は唯一の生きる意味を失ったんだ。


 だから、これからあいつを探しにいく。


 ( 嬉しいか? 悲しいか?

 いじめっ子の俺が追ってくるぞ )


 誰もいない深夜の教室に、全てを浄化してくれる液体を撒き終わる。


 勿論、一番汚れた俺にもたっぷりと。


 そこに、小さな光のタバコを1本。

 それは、すぐに消えた。


 ( ああ、 温かい )


 燃え尽きろ。跡形も無くなれ。


 この醜い魂も、感情の渦で混沌とした教室ももういらない。


 俺の人生最後の冬は、カラカラに乾いて何も感じなくなった心と同じ空気を持っていた。



 この冬の残暑は酷かった。

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