第58話 待ちかねた主 Remember You

 俺たちは再びオートラルス、国立図書館前に来ていた。

 俺たち、というのは、俺、ルシア、ジュール、リーシュ、そして未だに気絶した状態の謎の男。


 勿論だが、キリハは元の町に置いてきている。俺たちの金のことについてはとにかく水に流し、ルシアにも事情は説明した。


 ようやくだ、大陸を4分の1回って、ケインが以前に言っていた秘密が分かる。


「国立図書館、『国と蛙と王様と』という本を探せ」


 あの時、そこらの、一般人を行かせも見つけられなかったこの本に、きっと秘密があるに違いない。


「さて、内容はさっき説明した通りだ。俺たち勇者は図書館に入れなかったのは司書に止められるからだ、だから、2人には司書をどこか遠くに飛ばしてもらう」


「なかなかに無理矢理ね・・・・・・」


「力だけの俺たちが司書を追い出そうとしても、町の人達に止められて終わりだ。だが今回は違う、瞬間移動で人が消せるなんて、まさに完全犯罪だぜ」


「僕の能力は悪いことに使わないよ」


 物腰の柔らかいイメージがあったジュールが、珍しく口をとがらせる。


「言葉のあやだ。勿論俺たちはキッチリ魔王を倒そうと努力しているさ」


「え? 君たちも魔王を倒そうとしてるの?」


「ジュール、気づかなかったの? この2人は勇者よ、何故か1名欠員みたいだけど」


 1名? ケインはカウントしないのか。まあ既に脱退しているからな、おかしい話でもない。


「そうかぁ、君たちも僕たちと目的は同じなんだね! なんだか嬉しいや!」


 そういうと俺の手を取りぶんぶんと振り回す。喜びを表現しているんだろうが、俺には少し鬱陶しいかな。


「それじゃあ、お願いします!」


「分かった、それで、司書の転移先はどこにしよう?」


「アジトは壊されたし、そうね、サウスドレシアの最下層でいいんじゃない?」


 サウスドレシアの最下層って・・・・・・。殺す気かよ。ってか! そんなところまでも瞬間移動出来るのか!?

 まあ、恐らく大丈夫だろう、この2人も正義感のある、勇者なんだからな。


「了解、じゃ、作戦開始だね」


 そう言うと、先に2人が入っていく、するとすぐに出てきて俺たちを、手招きする。

 誘われるままに図書館に入ると、なるほど、確かに司書がいない。


「これで探し放題だね、じゃ、手分けして探そうか。僕と君で組んで、リーシュはルシアさんと組んで」


 どうやら俺はジュールとペアらしい。


「じゃ、探そうか」


「「「おーー!」」」


「ふんっ、くだらない」


・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・。


「リーシュさんって、指輪付けてますよね、もしかして、ジュールさんと婚約してるんですか?」


 私はずっと気になっていた事を聞いた。


「婚約って、そんなわけないじゃないの」


「ご、ごめんなさい!」


 じゃあ、一体?


「これはね、眷属の指輪。呪いみたいなものよ」


「呪いって?」


「さっきの戦いを見て既に気づいてると思うけれど、ジュールがワープしたら私も同時にワープしているでしょう? あれはこの指輪の能力。どこにいても、運命を共にする、一種の呪いね」


「そ、そんな能力が・・・・・・」


「ちなみに、外せないわ。これ」


「えっ!? そうなんですか!?」


「だから呪いって言ってるのよ。そうね、同意の上とはいえ、私も後悔してるかもしれないわ」


 ずっと付けてるのかぁ、それは大変だな、ジュールさんが瞬間移動する度に呼び寄せられるなんて。でも・・・・・・。


「でも、ジュールに指輪をはめられたときは、その、少し嬉しかったわ」


「やっぱりプロポーズなんじゃないですか? それって〜」


「断じて違うわ、これはね、あくまで戦いを有利にするためなの」


「そうなんですか?」


「2人で動く時、いちいち私に触れないと一緒にワープ出来ないってのは、それこそ厄介だったのよ。それで一度危険な目にあってね、ジュールが私を守るためにって言って、共にこの契約を交わしたの」


 いいなぁ、私だって、どっかの誰かさんに守られたいな・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・。


「ぶえっくしょい」


「大丈夫?」


「風邪ひいたかもしんねぇな」


「かぜ?」


「そんなことより、本を探す手を動かせ、手を」


「そうだね、魔王討伐のためなら、頑張らないとね」


 そう言うと、手の動きが速くなる。単純なやつだな、そう思った。


「うーん、見つからないなぁ」


「全くだな、どこにあるんだか・・・・・・ってぇ! あったぁっ!」


 俺は半ば作業的に動かした手を止めた。沢山ある本を取り出したり、指で傾けながら見ていると、そこの裏にだけ窪みがあり、そこに一冊の本が置いてあったのだった。


「どうよそっちは、見つかった?」


「リーシュ! ちょうどいいタイミングだ! 見つかったんだよ!」


「え!? ホント!?」


「あぁ、俺の手柄だぜ? この大量にある本の裏に一冊だけ・・・・・・」


「早速中を開いて。前置きはいらないわ」


「あ、はい」


 俺は言われた通りに本を開いた。すると、本が光りだした。


「うわぁぁっっ!!」


 そして光が収まると、そこには俺一人しかいなかった。

 命を感じない、そんな場所。周りの景色は神殿のようだ。


 ドドドドドドドド・・・・・・。


 いきなり地響きが鳴った。


 すると、目の前にあった巨大な2つの石像が動き出した。

 おいおい、まさかあれと戦うってんじゃないだろうな。

 しかし、どうやら嫌な予感は的中したらしく、その石像は俺めがけて石像の身長と変わらないほどに巨大な剣を振り下ろす。


 おいおい夢であってくれよ。そう思うも、振り下ろした剣の風圧が肌に感じる。

 どうやら夢ではないらしい。これを倒さない事にはどうにもならないらしい。


「クソっ! どうしろってんだよ!」


 俺はすぐに剣を構える。そして石像の足元めがけて走り、愛剣レイズソードを大きく一振りする。

 しかし、地面に叩きつけるのと変わらない。全く手応えがないどころか、振動で俺の腕が痺れる。


 なら、どこかに弱点があるんじゃないか? 俺は急いでヤツらの姿を凝視する。すると、額に宝石がはめられていることに気づいた。恐らく、あそこだ。だが、あんな所にどうやって攻撃を?


 攻撃について考えていると、再び剣が振り下ろされた。まずい、気を取られていて気づかなかった、避けられない!

 俺は反射的に剣で攻撃を防いだ。鍛えていたおかげで、なんとかダメージはない。


 しかし、ダメージを受けるのは、俺に限った話ではなかった。


 再びレイズソードを構えた途端に。


 バリッ!・・・・・・。


 ヒビが入ったかと思うと、その剣先はバラバラになり、カケラが地面に落ちる。


 カーンカンカン・・・・・・。


「お、折れた、だと」


 なんてことだ、長年の愛剣が・・・・・・。そして、唯一ヤツらに対抗できる術が。


 もう、おしまいだ。俺はその場にへたり込んだ。周りを見渡しても、状況を変えるものなんて・・・・・・。


 何かが落ちていた。ヤツらの攻撃をかいくぐり、急いでその場に走る。

 落ちていたのは錆びついた塊。


 これは、ヴェルの母さんにもらった・・・・・・。お守りか?

 そう、それは巨人との戦いのときに落として以来行方の分からなくなっていたものの1つだった。なぜこんなところに?

 だが、結局のところ、状況を変えるようなものではなかった。石像はこちらに向きを変え、歩みを進める。


 俺は、最後に一人で死ぬのか。


ーおいっ! 諦めるんじゃない!ー


 この声は、確か巨人と戦っていた時の・・・・・・。


 そうか、そうだな、諦める訳には、いかない。

 俺はなんとか立ち上がる。


 再び、2体の石像の剣が振り下ろされ、危機一髪、その瞬間に。


 俺は、答えが見えた。


『『『   修繕   』』』


 口にその言葉を出した瞬間、石像の剣が弾かれた。そして、"それ"は。俺の手元に収まる。


 レイズソードのような両刃の剣ではなく、片方にのみ鋭さをもった武器。太刀だ。

 何故か俺は、全てを理解したような気がした。いや、実際に、俺は全てを理解していた。


 その太刀は俺の手元からするると離れると、石像の額にある宝石を2つとも砕いた。

 俺の見た目通りだった。石像は轟音を立ててその場に倒れる。


 太刀が再び俺の手元に戻った時、再びそれは錆びついてしまった。


「はっはっは! ブラボー! ブラボーだねー」


「誰だ!」


「試練達成おめでとう。ずーっと君のことを待ってたんだ」


 すると2体の石像がいた壁が歪む。


「そこからこっちに来てくれ。安心しな、罠じゃないからさ」


 その壁に手を触れると、手が吸い込まれるような感覚に陥った。勇気を出して、そこに飛び込む。


 すると、出た先は研究所のような場所だった。そして、そこには2人の人物がいた。


「ケ、ケイン!」


「ふっ、遅かったな」


 そしてもう一人、こっちが先程の声の主だろう。


「待ってたよ、フラワーフラグメンツリーダー、レイズ」


 小柄な少年は、手をたたきながら、俺を歓迎した。



第五部 Story of a boring encounter 完



 数日前、花畑を探す2人。


「スレイさん、ここだけの話なんですけどね?」


「ん、なんだ?」


「レイがいないから、聞くんですけど、私、昔は仲間がいたはずなんです」


「仲間?」


 仲間がいたという発言にも驚きだが、それより気になるのは、"いたはず"と表現したことだ。


「はい、私も、詳しいことは忘れちゃったんですけど、私とあと三人のパーティーでした」


「で、その三人は」


「それが、私も、どんな人だったかを思い出すだけで精一杯で・・・・・・。なんでしょうか、思い出そうとすると頭が痛くなるんです」


「なら、その人たちの特徴だけでも。なにか役に立てるかもしれない」


「はい、まず一人が猫型の獣人、そしてもう一人はシスター」


 っ!? 俺は、それに近い2人を知っている、そして、あと1人は。


「そして、変わった口調の女の人でした、恐らく」


 間違いない。


 これは、偶然なんかじゃない。


「で、その三人を探しているんです。なんでもいいんです、少しでも情報があったら、教えてくださいね?」


 言うべきか否か。


 いや、ここは早まらないのが吉だ、一体どんな真相が眠っているのかは分からない以上、誤った情報で話が拗れることもあるだろう。


「いや、今は何も。もし何か分かればこの魔石で連絡する」


 そう言って、連絡魔石を手渡した。


「ありがとうございます! すごく助かります!」


 と、俺の連絡魔石の方に連絡が。


「あ、スレイぃ? お花畑ぇ見つかったよぉ! 早く! 大きな大樹が目印だからねぇ!」


 大きな大樹は二重表現だ。なんて思っていると、確かに大きい木が見えた。


「えっ!? 花畑が見つかったんですか!? 凄いですよ!!」


 ロゼさんも喜んでいる。

 早速向かおう。


「あの、自分から積極的に真相を探そうとしないでくださいね? それは私の役目ですから。スレイさんには自然に情報が舞い込んできた時に教えていただくだけで大丈夫です」


「なぜだ? 水くさいぞ」


「私、真相の裏には、ものすごく大きな力があると思うんです、それも魔王とかじゃなくて、身近な誰かにも手が差し迫っているような。そんなことに、あまり首を突っ込み過ぎると」


 ロゼの目には、見たものを凍りつくような力があった。俺は、背筋が固まる。


「殺されるかもしれません」


 殺される。思わせぶりなその言葉からは、きっと魔王にではなく、同じ人間に、ということだろう。


「なので、くれぐれも無理はしないでください。それじゃ、行きましょうか!」


「分かった」


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 そして、今に至る。

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最強勇者、追放しました   北根英二 @y2759147873y

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