第57話 高台の決闘 Quiet World

「助けてっ! レイズ! 早く来て!」


 寝ぼけ眼を擦りながら、ドルクお手製の通信傍聴機からの声を聞いた。


 突然のことで頭が上手く回らないが、ルシアの様子がおかしい、何かしらの危機に瀕しているのか?

 一体何があったのかは分からないが、急いで出発しなくては。


「もしこの通信が聞こえていたら、今すぐ町で一番高い建物に来て! その中にいる! きゃぁぁああーっっ!!」


「ルシアッ!!」 


 向こうに声は届かない、だが、その名前を叫ばずにはいられなかった。


「やめて! スレイッ!!」


 ス、スレイだって!?


 スレイの名前が出た事に驚きを隠せない、本当にルシアの身に何が起こったというのだろうか。

 まさか、あのキリハとか言うガキがなにか吹き込んで、俺をおびき出そうとしているのか? それとも、本当にスレイがあの場にいるというのか?


 そんなこと、考えていたって無駄だ、急いで出発しなくては。


「もう出発するのかい? せっかく帰ってきてくれたと思ったのに」


「俺の相棒の片割れが大ピンチなんだ、今すぐ助けにいかなきゃならねぇ。ドルク達に挨拶する時間も惜しい、すまないが俺が出ていったことを伝えておいてくれ」


「ちょっと待った、なら僕も手伝わせてくれないか?」


 手伝う?


「それは心強いが、どうやって?」


「とにかく、そのためにはここの扉を開けてもらう必要がある」


 今まで、扉を開けないのはコイツの意思かと思っていた。しかし、どうやらそれは違うらしい。

 しかし、今は急いでいる、あまり時間を割きたくないのだが。


「じゃあどうすればいい、言っておくが、俺に時間はないぞ、1分1秒を争う事態ってやつだ」


「いや、申し訳ないが、やっぱり今回の件は忘れてくれ、僕が頼もうとしていたのはドルクへのスニーキングミッションだ。よく考えたら丸一日ほどかかるだろうから」


 そんなに時間を無駄に使うわけにはいかない、ここは自分一人で行く他ないだろう。


「なら、その手伝うってのがどういうことかだけ教えてくれないか? お前を部屋から出さないと出来ないことなのか?」


「いや、正直に言うと、どさくさにまぎれて部屋から出してもらおうとしただけだったんだ。緊急事態なら仕方ない、僕に出来ることはさせてもらうよ」


 部屋から出してもらおうと、という言葉に少し引っかかった。まさか、ドルクに監禁させられているのか? しかし、それなら何故ゲストルームを隣接させたのだろうか。

 沢山の疑問が浮かび上がってくる。しかし、再三言うが、今はルシアを助ける事が優先だ、そしてスレイも今回の件に絡んでいるらしい、急がなければ。


「あぁ、頼む」


「僕の友人に連絡をとる。そして君と同行してもらえるように伝えるよ。移動もその二人と共にしてくれ。それなら一瞬で目的地に辿り着けるだろう」


「友人? で、連絡はいつ頃出来るんだ?」


 聞き返したその瞬間、背後から声がした。


「全く、人使いが荒い」


「まあまあ、そう怒らないでさぁ」


 そこにいたのは男女二人組、全く気づかないうちに俺の部屋に入ってきていた。まさかこの2人が、アイツの言っていた古い友人?


「さぁ、急いでるんでしょ? 細かいことは後にして、目的地を教えて」


「も、目的地はレイクダイヤ、その中の一番高い建物らしい。俺も詳しくは分からない」


「了解」


 そう言うと、その男が俺の肩に触れた。そして次の瞬間に、目の前の景色が見慣れないものに切り替わった。

 そして、目の前には拘束され、目隠しをされたルシア、キリハ。そして・・・・・・。


 スレイ、本当にその姿があった。


「あの男が緊急事態とやらの原因か?」


「レ、レイズ! どうやって来たの!? いや、そんなことより、スレイがおかしいの!」


 スレイがおかしい?


「どうした、俺は全くおかしくないぞ? いつも通りの俺だ」


「スレイがいきなり私とキリハちゃんをいきなり捕まえて、ここに連れてきたの!」


「うわーんっ! キリハ穢されちゃう〜!」


「ちょっと待てよ、そんなことより長い間どこに行ってたってんだよ! そして今は何をやってんだ! それにギーチェだって! 一緒にいたんじゃなかったのか!?」


「とりあえず、落ち着いて話そう、リーダー・・・・・・」


 そう言うと、俺の方にゆっくりと歩いてきた。その歩く姿はどこかが気持ち悪い。


「・・・・・・お前、誰だ?」


 俺はスレイに向かって言った。いや、それがスレイではないと、そう判断しての言葉だった。


「何を言ってるんだ? 俺はいつも通りの俺だ」


「いいや、違うね。スレイは、そんなことはしない」


 俺は偽スレイの足元を指さして言った。


「スレイはな、お前みたいに、ほんっの小さな虫だって潰したりしない」


 偽スレイが足を上げて確認する素振りを見せる、そこには潰された小さなクモがいた。


「はっはっは、こんな小さなことで、俺を偽物扱いするなんて、どうしてしまったんだリーダー」


「いや、スレイはそんな小さな事を気にするヤツだ。俺以上にな」


「・・・・・・」


「ッ! ジュール! コイツ能力者よ!」


 の、能力者!?


「えっ!? く、くっそー。まだいたのか・・・・・・」


 どういうことだ、全く理解が追いつかないんだが?


「クソっ! バレちまったら仕方ねぇな!」


 そう言うと、偽スレイは、そのふくよかな体から一変し、痩せ細った男に姿を変えた。


「リーシュ! とにかく距離を詰める! 身構えて!」


「了解っ!」


「へっ! 変身せずとも、俺にはコイツがある!」


 そう言うと、懐から弓矢を取り出す。


「まずはお前だ!」


 そう言うと、男はジュールに矢を飛ばす。


「こんなの当たらないよ!」


 次の瞬間、ジュールの姿が消えた。周りを見渡すと、既にヤツの背後に回り込んでいる。それはリーシュも同じだった。


「けっ、なら!」


 するとヤツは矢を直接握ってジュールに突き刺そうとする、しかし、ジュールは再び瞬間移動のようなもので躱す。

 しかし、その時から、異変は起こっていたのだった。


 ジュールが口をパクパクさせている。


「なによ、聞こえないわよ!」


 それでもなお、声を発さずに口をひたすら動かしている。


「へっ! 教えてやろう。この弓矢には特殊能力がある! この矢に触れたものは音を発する事も、聞くことも出来なくなるんだ!」


 よく見るとジュールの服が少し破けてている、あの攻撃は完全に避けきれていなかったようだ。つまり、既にあの矢の術中にはまってしまっている。


 そして問題の弓矢、あくまで憶測の域を過ぎないが、きっとこれはギーチェの鎌と同じ、神器だ!


「くそっ、厄介ね。私達のコンビネーションを崩そうってわけ」


「はっ! どうだ! 音が聞こえないだけで、世界はぐっと小さくなるぞ!」


「でも残念、私たちは、そんなやわなコンビじゃないわよ!」


 自信ありげにジュールに、アイコンタクトを送る。そして、ジュールも、それに返すように頷く。


 しかし、2人がそうこうしているうちに、またもや異変が起こった。


「ちょっ、ちょっとぉ? 私が、もう一人いるんですけどぉ!?」


「そこのお兄さん! そっちがあのおっさんだから! さっさとやっつけちゃってよ!」


 キリハが気づかないうちに2人になっていた。姿では全く区別が付かない上、出会ってから日も浅い、中身で判別することも難しいだろうか。


「だめね、全く見分けがつかないわ、両方この高台からおとそうかしら」


 ジュールがそれを聞いて? 首をぷるぷると振る。どうやら先程の宣言はハッタリではなく、実際に言葉ではない何かで繋がれているようだ。


「ルシア! 見てなかったのか!?」


「目隠しされた状態で見れるわけないじゃないのよ!」


「うむぅ・・・・・・」


 2人を見分ける方法を考えるも、くだらない案しか思いつかず、思わず唸ってしまう。流石にこんなことで見分けられないとは思うんだが、一応やってみよう。


「俺のこと、どう思ってる?」


「カッコいいお兄ちゃんっ!」


 向かって右のキリハが答える。


「くっさ〜くてっ、意地汚〜い、ごうまんお兄ちゃんっ!」


 続いて左のキリハが答える。


「よし、リーシュさんとやら、右だ。やれ」


「分かったわ。ジュールッ!」


 ジュールがこくりと頷く。


「な、何故バレたんだ〜っ!?」


 そして2人は、背中側の位置に瞬間移動をした。そしてリーシュがすぐさま蹴りをいれる。


「ぐはっ!」


 蹴りを入れた次の瞬間、今度は腹側に移動し、今度はパンチをお見舞いする。


「げほっ!」


 あとはひたすらそれの繰り返し、もはや敵が可哀想になってくるほどの一方的な攻撃だった。

 そして、しばらく攻勢は続き。男が倒れた後も念入りに攻撃を続け、意識を失った

のを確認して、ようやく戦いは終わった。


「な、慈悲がないんですね・・・・・・」


 ルシアが思わず失礼な口調で洩らす。


「私のおかげで助かったんだから、文句言わないでよね」


「全くだな、感謝してもしきれないぜ」


 もし俺一人で乗り込んでいれば、完全に敵の思惑通りだっただろう。2人には感謝しかない。


「にしても、せっかく能力者を全て倒したと思ったら、最近また湧き出してきたわね」


「ホントだよ、平和は長く続かないのかなぁ」


 と、久しぶりにジュールの言葉が聞こえた。


「ジュール、もう能力の影響はないの?」


「うん、そうらしいね。もうみんなの声がしっかり聞こえるし、喋れるみたい」


 2人がそんな話をしている時、俺は1つの提案を思いついた。さっきから一方的お願いばかりだが、仕方ない、なんせ魔王を倒して大陸の平和を守らなきゃいけないんだからな。


「2人にお願いがある」


「ふーん? 何? 言うならさっさと言ってみなさいよ、勿体ぶられるのは嫌いよ」


「俺たちを、とある場所に連れて行って欲しいんだ」

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