第12話 シアラ


 その昔。世界には、美麗な女神と人間と魔物が存在していた。


 魔力を活かす魔物と知力を活かす人間は、徐々にその力を確かな物としていきました。


 緑豊かな大地には、動物が蔓延り。青く広い海には、魚が縦横無尽に泳ぎ。どこまでも高い空には、鳥が優雅に羽ばたき。


 人間と魔物は、争う事無く、平和を広めて行きました。

 そんな世界の行く末を女神は、微笑ましく眺めていました。


 全ての生き物から慕われていた女神でしたが、ある日。女神は、人間と魔物を生み出しました。


 その二つの存在が現れた事により、世界は、大きく変化をしました。


 人間達は、女神から生きるための知識を。魔物達は、女神から進化するための魔力を。それぞれ授かりました。


 人間と魔物は、見る見ると世界に繁栄をもたらしていきました。


 しかし、人間と魔物は、その平和で満足する事は無く、遂には、独自で女神が教えてない魔法や召喚術までも作ってしまいました。


 その魔法は、どれも強大で、平和に過ごす力を大きく凌駕りょうがしていました。


 心配となった女神は、魔物と人間に魔法のしようと、その研究を止める様に命令しました。


 人間と魔物は直ぐに研究を止めて、無事に不穏な平和は、終わりました。しかし、人間と魔物は、女神の目を盗み研究は続けられていたのです。


 そして、ある事故が起こりました。いつもの様に女神の目を盗み魔術の試験を試みた魔物と人間でした。


“我々が神を超え、新たな世界を作るのだ。神の力を研究してその力を超える術式が完成した。神の居るこの世界を作り変える希望だ。……最大禁術。月下神・阿駕陀羅”


 演唱によって召喚された月の化神は、魔物と人間の想像を超える危険な物でした。

 危険を察した女神は、月の化神をあっという間に退ける事に成功しました。


 人間と魔物は、反省し泣いて女神に謝罪をしました。


 しかし、既に女神は、魔物と人間を信じる事が出来なくなっていました。怒った女神は、人間と魔物を次から次へと、卵だったり醜い化け物に変えて行きました。


 女神は、生命を殺す術と方法を持っていませんでした。その代わり、退行や、別の形に変化させて人間と魔物を無力化していきました。


 女神を恐れた魔物と人間は、手を組んで女神と戦争を始める事にしました。


 幾年にも及んだ戦火は、魔物と人間が開発した反射魔法によって女神が倒されるという結果に終わりました。


 反射魔法によって女神は、綺麗な女性の姿から醜い化け物に変えられてしまった上で、呼び出された月の化神に飲み込まれてしまいました。


 身が朽ちて消える最後の最後に女神は、生命と世界の分断の術を唱えた事によって魔物と人間は、離れ離れになりました。


 消失した女神は、残った自らの遺体を復活する道標、鏡と水晶玉二つに変化させました。


 それから、女神は、人間の姿に化けて魔界と現世が繋がらない様に見守って行きました。


“女神を殺す事は出来ない。しかし、封印する事なら可能だ。教会を造れ。現世を魔界に。人間に化けた女神は、教会を壊しに来るだろうが、魔界と現世に教会を造るのだ。教会は、現世と魔界を繋ぐ懸け橋となり、女神を寄せ付けない強力な結界となる。女神は、自分を神だと気付いてない。神は、名前呪文を呼ばれれば、その体を維持できなくなり消滅する。その呪文は……”


 ◆


「───国王陛下?」「……っ!?」パン!!


 背後からの声にルドンは、本を閉じて振り返った。そこには、赤毛の少女が立っていた。


「マルルちゃんと遊びましょ?」


「おぉ……おやおや。君は確か、教会の……。そう言えば、君の名前は、何と言ったかな?」


「シアル! 自分で付けたんだ!」少女は、目を細めて口が裂けんばかりに歯を見せながら笑った。


 ボタッボタッ。


 シアラは、大粒の涎を床に垂らしながらルドンを睨みつけて、手を伸ばした。しかし、ルドンは、気にする事無かった。


「シアラ、良い名前だな」


 ルドンは、そう言ってシアラの手を掴んだ。


 シアラに手を引かれるままに王室に戻れば、ギーからママルマを引き剥がそうとしていた。


「ありがとう。……?」ルドンは、振り返ったが、そこには誰も居なかった。


「あれ? 私は、何をしていたんだったか……?」


「あー!ルドン!!怪獣・モーリが来るぞぉ!!」


 翼をバタつかして無邪気な笑顔でママルマは、ルドンに飛び付いた。


“まぁ、今は分からなくて良いか”


「はははは!あまり走ると怪我しますよ!」


ルドンは、ママルマの笑顔につられて笑いながらママルマを受け止めた。

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勇者失格・化けの皮 丫uhta @huuten

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