第11話 元の世界


 その昔。世界には人間と魔物と、それはそれは綺麗な女神様が仲良く暮らしていました。


 緑豊かな大地には、動植物が繁栄し。青く広い海には、魚介類が縦横無尽に泳ぎ。どこまでも高い空には、鳥や虫が優雅に飛んでいました。


 人間と魔物は、争う事無く、平和を広め、その行く末を女神は、微笑ましく見守っていました。


 しかし、生物は進化する者。それは、人間と魔物も例外ではありません。


 平和に飽きた人間と魔物は、次第に自堕落と化してその様子に困った女神様は、魔物には、魔力を。人間には、優れた知力を与えたのです。


 そこから人間と魔物は、以前より活気に溢れ出したのです。


 喜ぶ女神様に人間と魔物は互いに協力して魔法や、召喚術生み出しては、披露をしていました。


 魔法と知力で更に豊かになった平和でしたが、その魔法は、どれも強大で、平和に過ごす為の力を大きく凌駕りょうがしていました。


 心配に思った女神様は、人間と魔物にこれ以上の開発を止める様に命令しました。


 女神様を心配させてしまった事に、後悔した人間と魔物は、すぐに開発を止めました。


 しかし、全員がその言葉に従った訳ではありませんでした。


 一人の男は、言いました。


「我々を止められる者は、存在しない。女神は、この世界を創った。だが、今の我々なら神を超えられる。次の神は、我々だ」


 女神様の目を盗み、魔術の更なる開発を試みた人間と魔物でしたが、ある事故が起こってしまったのです。


 女神様を倒すための最上魔術を誤って唱えてしまったのです。

 まだ未完成の術でしたが、ソレは人間と魔物の想像を遥かに超える危険な物でした。


 太陽と月から放たれた閃光は、一瞬にして世界を覆い尽くしたのです。


 危険を察した女神様は、世界中を焦がさんばかりの光をすぐに鎮めて事無きを得ました。


「もう、2度と愚かな行為はしません」


 人間と魔物は、気を病む程に反省し女神様に泣きながら謝罪をしました。

 しかし、裏で自分を倒そうとしていた人間と魔物を女神様は、信じる事が出来ませんでした。


 怒った女神様は、人間と魔物を食らい。逃げ惑う人間と魔物を次から次へと、炭や醜い姿に変えて行きました。


 そして、女神様を恐れた人間と魔物は、本格的に手を組み、女神様と戦争を始めました。


 幾年にも及んだ戦火は、人間と魔物が開発した反射魔法によって女神様が倒されるという結果に終わりました。


 反射魔法によって女神様は、綺麗な女性の姿から誰もが目を背けたくなる程の醜い化け物に変えられてしまったのです。


 トドメに人間と魔物は、完成した最上魔術を唱え。女神様は、呆気なく光に飲み込まれてしまいました。

 身が朽ち消え行く最中、女神様は、人間と魔物に最後の罰を与えたのです。


 その罰により世界は2つに分かれ、人間と魔物は、離れ離れになってしまったのです。そして、女神様は、復活する道標みちしるべとして、残った体の一部を犠牲に鏡と水晶玉に変化させました。


 道標を頼りに女神様は、必ず現世に復活をしては、現世と魔界が繋がらない様に見守っていたのです。


 それでも、人間は、魔物から教わった魔法を使い、現世と魔界を繋ぐ架け橋として教会を建てると同時に、鐘の音に女神様の前世の記憶が消える術を掛けました。


 そして、誰でも女神様が倒せる様に、その名前すら魔術にしてしまったのです。


 その名前は────「国王陛下。御呼びですか?」


「はっ…!」


 バン!


 突然の声にルドンは、驚きながら本を閉じて顔を上げると、扉の前に一人のメイドが立っていた。


「あ、あぁすまない。気が付かなかったよ。えーっと…来てもらって悪いのだが。私は誰も読んだ覚えは無いのだが…」


「あら?そうでしたか。それは大変失礼致しました。…ところで、何をお読みになられてたのですか?」


 メイドは、淡々とそう言いながらルドンの傍に遠慮を知らない様子で近付いた。

 隣に寄り添うメイドの様子にルドンは、違和感を感じていたが、そこまで気にする事も無く視線を本に落とした。


「この本はだね…」


 その瞬間を狙っていたかの様にメイドは、瞬時に口を肩まで裂けさけて、大きく開くと、体が千切れそうな程に体を伸ばしてルドンを頭から飲み込もうとした。その瞬間。


 ガラォーン!ガラォーン!


「おぉっ!?」


 教会の鐘の音が鳴り響いた。その音に驚いたルドンは、思わず声を上げて本から手を離した。その音は、いつも聞く音とは違って、何かの警告の様な不吉な音に聞こえたのだ。


 上げた手が当たったんじゃないかとすぐにルドンは「すまない!」と言いながら振り返った。


 しかし、そこには誰も居なかった。それどころかルドンは、そこに何があったのかすら分からなくなっていた。


 ただ、悪寒が心臓の鼓動と共に全身を駆け巡っていた。


 ドンドン!


「ルドン王!そこに居るか!? アタシと遊ぼうではないか!」


「え、ちょっ!ママルマ様ぁ!?さっきお誘いの作法をお教えしたでしょぉ!?」


 ノックの音に再び驚いたルドンだが、途端に聞こえて来たママルマの無邪気な声と困り果てるモーリの声に肩を撫で下ろした。


「今出るよ」


 ガチャ


 扉を開けると、貴重品を取り扱う様に慎重にママルマを押さえる困り顔のモーリと、その横にはギーが立っていた。


「…国王陛下? 顔色が悪いでげすよ? お疲れであれば、お休みになられても…」


「大丈夫だ、ギー大臣。ところで、さっきの…いや、気分転換に出歩きたいと思っていたんだ。ママルマ様?遊びは、散歩の後でも良いかな?」


   ◆


 場内をモーリとママルマ、ギーを連れて歩くルドンは、窓から庭の兵団の訓練風景を眺めれば、シモシとジトが手合わせをしてるのが見えた。


 その様子を眺めながらルドンは、思いふける様にここ数日の事を思い返していた。


“あの日。突然、大砲の様な突風と共にやって来た風切り盗賊団…思えば引っ掛かつ事ばかりだ。いくら彼ら3人が認めてるとは言え、あそこまでの破壊を行う必要が本当にあったのだろうか…それも城と教会を繋ぐ様に一直線に。城では無く、教会を半壊とは…人間にしては、力を持ち過ぎてる。まぁ、その甲斐もあって、魔界と繋がりを持てたのは良い事だが…”


「こらぁ!!ララさん!それを返しなさい!!」


 廊下の向こうから聞こえて来るメイド長の怒鳴り声に振り向くとメイド姿のララが「いーやーだーっすよー!」と言いながら持ち武器の銃を抱えながら執事と召使いの魔物を避けて、雑巾を片手に走るメイド長から逃げていた。


「あっ!王様じゃん!ちーっす!そんじゃね~! ぅうわ!デッケー!」「こらーっ!!」


 ルドンの目の前まで来た笑顔のララは、敬礼の様な格好と取りながらモーリを避ける様に壁を蹴り走って疾風の如く一瞬にして通り過ぎて行った。

 ララを追い駆けるメイド長は「国王陛下!申し訳ございません!モーリ様失礼致します!」と深々と頭を下げると持っていた雑巾でララの靴跡を拭きながらモーリの脇を擦りぬける様に通り過ぎた。


「お前本当に足早いなぁ!風切り盗賊団の弟子にならないか!」「いい加減にしなさい!!」


 背後からの楽しそうなララの声が響く中。ギーは「全く、賑やかでげすなぁ」と溜め息混じりに微笑んだ。ルドンも「全くだ。しかし、出歩いて良かった」と頬を緩めた。


   ◆


「国王陛下!」


 城の扉前まで来たルドン達。吹き抜け渡る声に立ち止まり振り返るとそこには、執事姿のパンが立っていた。


「先程は、ララが失礼しました。コレは、ララが盗んだ物です」


 パンは、そう言ってポケットからハンカチに包まれたペンダントをルドンに差し出した。


「なんと…!油断も隙もない…。今日もララさんのデザートは抜きでげすな」


 呆れ口調のギーは、ルドンの代わりにペンダントを受け取り、その様子を見届けたパンは、深々と頭を下げてその場を立ち去った。


「ギー大臣。ソレは、持って置いてくれ。彼女が立派なメイドになった時に渡してほしい」


「全く…貴方ならそう言うと思っていたでげすよ」


「あっぱれ!流石はルドン国王陛下殿!ギー大臣殿も! なんて寛大な御心をお持ちでしょうか!! これぞまさに王の器! 改めて感動致しました!!」


 2人の会話に尊むモーリの言葉にママルマは「そうだろ!そうだろ!」とまるで自分の事かの様に照れながら言った。


「さぁ、皆さん。参りましょう」


 モーリが扉を開けて広がる街は、晴天の下で人間と魔物達の活気に溢れていた。


「…ママルマ様。改めて礼を言わせて欲しい。ありがとう」


「アタシからもな! ルドン王!皆一緒だ!」

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