ぼくの就職活動記
この度は弊社の新卒採用選考にご応募いただきありがとうございました。
慎重に選考を重ねた結果、誠に残念ながら今回は採用を見送らせていただく結果となりました。
俗に「お祈りメール」と呼ばれるメールがある。就職活動で不採用になったときに企業側から送られてくるメールのことである。不採用通知はどこの企業も同じような定型文で、末尾には決まって「今後のご健闘をお祈り申し上げます」の一言が添えられている。行く宛のない健闘に嫌味を込めて。「お祈りメール」、誰かがそう呼び始めた。
---
大学三年の三月、私も周りと同じように
すごく大変そうに聞こえるかもしれないが、私は割りと楽しんでいた。移動費さえ払えば無料で企業見学できたし、何を聞いても興味のある学生で済まされた。加えて、羽振りの良い企業であれば、美味しい弁当までご馳走してくれた。
私は
そこは葬式を
二次面接は半日を掛けて行われる。十人ほどが一室に集められ、五人ずつ二グループに分けられると、それぞれのチームに対して課題が与えられた。十個近い選択肢の中から企業の成長にとって必要なものを三つ挙げろ、とかそんな内容だったと思う。チーム内の話し合いを通じて発表用のポスターを作り、最終的にチーム全体でプレゼンをした。
グループワークは就職活動を通じて飽きるほどやったので、細かい内容はもう覚えていない。問題は後半の集団面接だった。グループの五人が別室に呼び出され、面接官と質疑応答を繰り返す。
「ではまず、出身大学と氏名、前半のグループワークの感想をお願いします」
「早稲田大学〇〇学部の〇〇です。グループワークではメンバー各々の長所が、各々の短所を上手く補い合い、良いプレゼンが出来ました」
グループワークでリーダーシップを発揮していた女学生は、運動会の選手宣誓のような
「✕✕大学✕✕学部の✕✕です。グループワークでは各自定めた役割に従ってチームワークを発揮できました」
グループワークの開始直後にタイムキーパーに立候補したきり、ほとんど言葉を発さなかった男子学生が言った。
「△△大学△△学部の△△です。グループワークはとても面白かったです。」
私は無難にそう続けた。
残り二人も特筆に値しない自己紹介を終えた。
「ありがとうございます。では次に志望動機をお願いします」
面接官がそう言うと、自己紹介と同じ順番で回答するように指示された。
「自分も遺族に感動を与えたい!」
早稲田出身の女学生は拳を固く握って、熱い眼差しを面接官にぶつけた。
「故人の気持ちに寄り添うというところに共感しました」
名誉タイムキーパーは当たり障りのないことを言った。
やれやれ、軒並み似たような志望動機しか出てきそうにない。私は漫画の噛ませ犬のように鼻で笑う。これでも喰らえ。履歴書に書いた志望動機で
「今の日本は高齢化社会!
今後ますます死人が増え、市場は拡大する!
そんな将来性のある業界で私は仕事をしたい!」
---
二次選考から幾日が経ち、私のもとに一通のメールが届く。
「慎重に選考を重ねた結果、誠に残念ながら今回は採用を見送らせていただく結果となりました。」
最初の一文を読み、私はがっくりと肩を落とした。
しかし、続く文は珍しいことに定型文ではなかった。
「私たちの会社は人に寄り添うことをモットーとしています」
それは確かに業務説明会で何度も聞いた。
「動機から察するに、貴殿は人の心というものが薄いように感じられました」
私は一瞬、相手が何を言っているのか理解できなかったが、徐々に思考が追いついてきた。いくら死人が増える事実があったとしても、それを正直に動機にするのはご
人の心がないのはお前らも一緒じゃボケ。わざわざオリジナリティ
---
以上が私の就職活動記である。就活を頑張っている学生たちの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます