マンションのエントランス、最近の小学生
田舎出身の人の多くは、帰省中のふとした瞬間に地域の温もりを感じるのではないだろうか。
***
新幹線を乗り継ぎ、在来線に揺られること数時間。何度か山を越えた先に小さな街がある。どこにでもあるような田舎の中都市、ここが私の地元である。
キャリーケースを片手に駅を降りると、ジャージ姿の女子高生たちが目に入る。夕暮れに照らされ、一列にはしゃぐ姿はカラスさながら。私は華麗なステップで彼女たちを
商店街とはいうものの、
マンションのエントランスに入り、インターフォンで実家の番号を呼び出したが、一向に反応はない。携帯で母にメッセージを送ると、もう少しで帰宅する、と返信がきた。時間をつぶそうにも商店街は時計宝石店くらいしかやっていない。母が到着するまでエントランスで待つことにした。
エントランスに留まること十数分。子供のころ、学校帰りに母の迎えを待っていたときはどうやって暇を潰していたんだろう。私はインターフォン横の壁にもたれかかりながら、死んだ魚の目をして外の景色を
すると突然、外側の自動ドアが開いた。小学校低学年くらいだろうか。大きなランドセルを
予期せぬ相手に混乱しながら、私は状況を整理した。まずは自分が怪しいものではないことを証明しなければ。うつむきがちに少年に
沢蟹の物真似をしながら、大移動を終えると、私は前髪越しに少年を覗き込んだ。
じっとこちらを見つめる少年と目があった。
私の行動を終始、その澄んだ瞳で観察していたのかもしれない。若干の緊張感に押し黙っていると、
「こんにちは!」
私は突然の出来事に目を丸くして、まじまじと少年を見つめてしまった。最近の小学生のなんと礼儀正しいことか。見ず知らずの人間にも挨拶ができる。それも、進んで、自分から。地域の未来はなんと明るいのだろう。私も嬉しくなって挨拶を返した。
「こ、こんにちは」
***
その後、母が帰宅し、私は無事に実家への
「不審者を見かけたら挨拶するように、最近は学校で言われてるんだって」
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