アシタカ(閲覧注意)

 ※注意:攻撃性の高い話のため閲覧注意。子供はみちゃダメ。

  女性の閲覧も基本NGです。(食事の場で話すとめちゃくちゃ評判が悪いので)



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 物語序盤にかけられた呪いにより、主人公が苦しみ続ける、なんて物語は多い。そう、タタリ神の呪いに苦しむアシタカのように。


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 実は自分にも幼少期にかけられてからずっと解けない呪いがある。


 幼稚園ないし小学生になりたての小さい頃、男児は皆こぞって戦隊ヒーローシリーズを見ていた。自分も見ていた。色とりどりの戦士たちが、世界征服を目論む悪の怪人たちをビシバシとなぎ倒して行く。怪人たちの暴力を、ヒーローたちが暴力で解決する、血で血を洗う物語である。


 特に目を引く設定もないオーソドックスな戦隊モノだったと思う。

 この作品が幼い私に、強烈な呪いを刻むことになる。


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 休日の朝、私はテレビの前に座って、いつものように番組に釘付けになっていた。その日もヒーローたちがたむろする待合室に、「怪人が暴れている」と一報が入る。ヒーローが現場へ向かうと、そこには手当たり次第に街や民間人を攻撃する、怪人の姿が。


 最初はお馴染みの流れ。怪人が街中でビームを放つ。人々の悲鳴が上がる。倒れこんだ人々の姿が映し出される。ヒーローたちは一応焦りの表情を浮かべているが、内心は分からない。何せ毎週変わらぬ展開である。



 ただ、この週に限って言えば、怪人のビームが少々特殊だった。怪人のビームに当たった人々は、体型がふくよかになり、身動きが取れなくなっているのである。


 世界征服を目論む怪人たちがどういった事業計画を練っていたのかは分からない。世界中の人々を肥満にさせて、活動を鈍らせて、地球を占領する。 極めて長期的な計画になりそうだが、 やっていることはマクドナルドと同じである。



 怪人の暴挙を止めるべく、スーツに着替えたヒーローたちの戦闘シーンが始まった。興醒きょうざめなことを言ってしまえば、 戦隊モノにおいて地上戦は前哨戦ぜんしょうせん。どうせ最後はロボットでケリをつけるので油断していた。


 怪人は目の前に対峙たいじするヒーローたちに、「邪魔をするな」とビームを放つ。黄色や青色の戦隊ヒーローが攻撃をまともにくらい、動けなくなった。調子を良くした怪人は、高らかに笑い声を上げ、手当たり次第にビームを連射していく。



 やがて、まばゆい光線がピンク色の女性戦隊戦士をとらえた。



 画面上にエフェクトが散り、戸惑ったかおの戦隊ヒロインが映し出される。瞬く間に腹は膨らみ、ピンクのスーツを内側から押し広げていく。頬を紅潮させるヒロイン。さらに強くなるスーツの締め付け。溶けいるような小さなうめき声と一緒に、身体からだを留めていたファスナーが宙を舞った。



 車に引かれそうになる直前など、極限まで集中力が高まると、人はスローモーションに感じることがあるという。──ゾーン。これがその状態か。



 感受性の衰えた大人が共感できるかは分からない。幼少期の男児には刺激が強すぎた。男の戦隊ヒーローたちがどうなったのか、どうやって怪人を倒したのか、その後の展開は一切覚えていないが、トクと胸打つ動悸だけを未だに覚えている。



 ***



 時は経ち、思春期を迎えたときに気が付く。「異性が急激に太っていく姿」という超ニッチなジャンルだけが自分を興奮させることに。


 もののけ姫のラストシーン、アシタカの右腕に呪いのあざが残っていたように、 私もこの呪いとともに、これからを生きてゆく。


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