本当にあった怖い話
夏になるとフジテレビで「本当にあった怖い話」という番組が放映される。本当にはなかった作り話を流す番組で、夏の蒸し暑さを吹き飛ばすには丁度良いのだが、初夏には少し肌寒い。
ということで、これから私は実際に身の回りで起きた『本当の「本当にあった怖い話」』をしたい。今の季節にはノンフィクションぐらいが良い
---
小学生のころ、父の転勤に伴い引っ越しをすることになった。押入れから荷物を引っ張り出してきては、「新居に持っていくもの」と「新居に持っていかないもの」を分けていく。ついつい懐かしいものが出てきて、手が止まる、なんてことはよくあることで、子供部屋でもそれは同じだった。
子供部屋の押入れには私と幼稚園に通う妹のおもちゃが一緒に保管されていた。
私の場合は、ドアの千切れた整備不良のミニカー、LEGOの印字がないパチモンのブロック。妹の場合は、バービー人形が居候しているリカちゃんハウス、歴戦の傷跡を残す知育玩具ポポちゃん。
子供ながらに懐古しては、おもちゃを手に取り、引っ越しの仕分け作業に
そんななか、一匹の懐かしいぬいぐるみが出てくる。長い耳と長い鼻を持つクリーム色の象のぬいぐるみ。名前をパオちゃんと言った。
当時、すでに放映が終了していた「おジャ魔女どれみ」という女児向けアニメがある。セーラームーンやプリキュアの
なぜ私が興味もない女児向けアニメの
このぬいぐるみ、喋るのである。腹に内蔵されたボタンを押すと、可愛らしい声で挨拶をするのだ。
「わたしパオちゃん、よろしくね♪」
と何度も自己紹介のセリフを聴いたせいで脳に刻まれてしまった。
この象には二つの特徴があった。一つは先述の通り喋ること。指で下腹部を押し込むとおもちゃが感応して、何通りかの発話をした。
もう一つは奇特な方法で占いができること。パオちゃんが「うんちするパオ♪」と発声すると、子供は尻尾の
これだけのインパクトのあるぬいぐるみ。押入れからパオちゃんが出てきたとき、妹は嬉しそうな声を上げた。
「わあ、パオちゃんだあ」
妹は慣れた手付きでぬいぐるみを手繰り寄せると、再会のハグをする。続いて声を聴くため、パオちゃんの腹にぐっと親指をめり込ませると、久々の挨拶に耳を傾けた。
妹からしてみれば旧友と再会するようなものだろう。まさに感動の再会。しかしそれは、あくまで人間にとっての話。パオちゃんにとっては違ったのだ。
表舞台でいつもお喋りをしていたパオちゃんも、人間の飽きとともに第一線から
パオちゃんは最期の力を振り絞って、言葉にならない
「…ぁ゛た゛……は゛お゛……………ん、 よ゛…………く゛……」
かつては陽気な楽器隊のように愛嬌を振りまいていたパオちゃんが、地を這うような
パオちゃんの怨念がぬいぐるみの身体に宿ったと言いたいところだが、実のところ長い監禁生活で電池切れになっていたらしい。泣きやまない妹を見て、両親は笑っていた。原因が分かったあとも不安げな様子の妹を横目に、私と両親は荷詰めを再開し、数日後、私達一家は引っ越しを終えた。
──以降、私が再びパオちゃんの姿を見ることはなかった。
---
先日、妹と話す機会があったので、パオちゃんについてそれとなく聞いてみた。
「おジャ魔女どれみ世代じゃないから知らない」
彼女の声は冷たかった。
クリーム色の象の気持ちを代弁して言いたい。
人間が一番怖い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます