第6話 平凡女子大生、声優彼女のライブに行く。③

ライブ当日。

無数のライトが舞台を照らす。

パッと光るスポットライトの下でキラキラと彼女は歌い踊る。


今回のライブは、「スターライトサンシャイン」というアイドルアニメのライブだ。アニメのみならず、ゲームやコミカライズも展開される人気コンテンツである。

彼女が担当するキャラクターの名前は優花ちゃんだ。以前そのアニメを見たことがある。

清楚で可愛らしい、いかにもアイドルなキャラクターだ。



スパンコールやラメを散りばめた衣装が光を反射するお陰で、彼女のまわりにはキラキラと粉雪が舞っているようだった。


大勢の人がその輝きに圧倒される。

ステージで歌っているのは琥珀こはくちゃんのはずなのに、そこにはちゃんと優花ちゃんがいた。琥珀ちゃんはしっかりとキャラクターになりきっていた。

2次元と3次元が入り交じる不思議な空間がそこにはあった。


声優さんの凄さってこういう所なんだろうなと思った。


会場を見渡す。無数のサイリウムの光に照らされたお客さんは皆幸せそうな顔をしていた。


こんなに幸せになってくれる人がいるのだ。

琥珀ちゃんが寝る間を惜しんでライブの準備をしていたのも分かる気がする。

彼女の真面目にコツコツと積み上げてきた努力が、声を通して多くの人を幸せにしているのだろう。



===============


ライブが終了した後、関係者席を出た。

関係者席から会場の出口まで行くには楽屋の前を通らなければならない。

もし琥珀ちゃんに会えたら一言「お疲れ様」と言おう。そう決めていた。




「琥珀ちゃーん」

「琥珀さん!」

「こーちゃんっ」

「琥珀~~」


楽屋の前で彼女はたくさんの女性声優さんに囲まれていた。一緒に写真を撮ったり、話したりしていた。


琥珀ちゃんは、優しくて愛嬌がある。だから、男女、年上年下関係なく色んな人に好かれる。そんなことは分かっていた。


しかし、いざ沢山の人に囲まれている彼女を見ると胸がきゅっと締め付けられるような気分になる。


いつも家で彼女の帰りを待っている時はなんとも思わないのに、一歩日常から抜け出すとそこには私の知らない彼女がいる。


それでもいいのだ。私は彼女を束縛したくないし、私も束縛されたくない。


私は冷静になるべく、琥珀ちゃんに声をかけず、そのまま楽屋の前を通りすぎ会場をあとにした。


家に帰ってシャワーを浴び、そのままベッドにダイブした。



私は自分自身に驚いた。少女漫画のような嫉妬を抱く女の子には縁がないと思っていてからだ。


恋とは面白い。

自分の中で絶対にないと思っていた感情がいきなり現れるのだ。

心の中に埋もれていた知らない感情が急にもわんと大きくなり現れる。どうにも制御できない。


枕に顔を埋め、頭を冷やそうとするが、静かになればなるほど、沢山の人が琥珀ちゃんを呼ぶあの声が再生される。


もういっそ頭を冷蔵庫に突っ込んで物理的に頭を冷やそうか。



「ただいまー」


彼女が帰ってきた。


今彼女と会話するとぎこちなくなりそうだし、寝たふりをしよう。

きっと明日になったら私の頭もキンキンに冷えてるはずだ。


「もう寝ちゃったか...」

彼女は、寝室を覗き込み小声でそう言う。


「おやすみって言いたかったなぁ」

とどめの一言が寝室にふりかかる。


ああ琥珀ちゃんは罪な女だ。

そんなことを言われたらもう私の脳内は止められない。

私を琥珀ちゃんでいっぱいにして欲しい。そうからだ中が叫んでいた。



リビングに戻った琥珀ちゃんに寝室からラインをする。



『さみしい』



そう一言ラインをした。


するとすぐにパタパタと足音が寝室に向かってくる。


ドアを勢いよく開けると彼女もベッドにダイブし、私に抱きつく。


そして何も言わずに、猫のようにお互いの頭をすり付ける。彼女はそのまま私の頭を胸に抱き寄せて、優しく撫でる。私はコアラのように密着し彼女にしがみついた。



たったそれだけなのに私の心は落ち着きをみせる。さっきまでモヤモヤしていた心に一気に暖かい空気が流れ込んでくる。

まるで、お母さんの心臓の音を聴いて泣き止む赤ちゃんのようだ。



私の「さみしい」に対しての最適解を彼女は与えてくれる。「どうしたの」とか心配することなく、ただただ包み込んでくれる。

彼女の柔らかな愛情が心地よい。心が通じあっているようで、戸惑う私の心は落ち着きをみせる。



私は顔をあげて彼女に優しく口づけをする。


お互いを見つめ、口元がほころぶ。


これでいいのだ。この日常があればどんなことが起こっても、動じることはない。




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超売れっ子女性声優と平凡な女子大生が付き合っている話 そふぃ @sophie_sss428

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