第5話 平凡女子大生、声優彼女のライブに行く。②
ベッドに入り一時間くらいたった頃。
夜中の1時くらいだろうか。
トイレに行ったのかなと思ったが、なかなか寝室に戻ってこないので、何事かと私も起き上がりリビングに向かう。
琥珀ちゃんは、小さな間接照明をつけてダイニングテーブルに座っていた。
明日のライブの進行スケジュールが書かれた書類に目を通している。
「眠れないの?」
私は、背後から琥珀ちゃんに声をかける。
「あっ、ごめん起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫。ただなかなか戻ってこないなぁと思って」
「うん、なんか緊張とか不安とか楽しみって気持ちが色々入り交じって眠れなくなっちゃった」
「そうなんだ」
分かる気がする。大きなイベントがある前日の妙な高揚感。心が波立ち騒いで落ち着かなくなる。心臓が宙に浮いているようにそわそわする。
遠足とか修学旅行でさえ眠れなくなるのに、ライブだったら尚更だ。
それでも寝ないとライブ中倒れてしまうかもしれない。
私は何とか安眠できる方法はないかと考え、冷蔵庫を開けた。
中身を確認して、ちょうどグラタンを作るため買っていた牛乳を取り出した。
それを、2つのマグカップに注ぐ。
琥珀ちゃんとお揃いで買ったクリーム色のマグカップだ。北欧の有名なメーカーのもので、シンプルなマグカップである。
少し重みがあり、持ちやすい。
このマグカップで飲むと2人だけの温かみを感じて幸せな気分になる。
注いだ牛乳をレンジで温める。
そこに黄金色のはちみつをポトンと落とす。
スプーンでかき混ぜると、はちみつミルクの完成だ。
昔、牛乳とはちみつには、気分を落ち着かせる成分が含まれていると聞いたことがあった。
「琥珀ちゃん、はちみつミルクだよ」
「うわーありがとう......はぁ」
琥珀ちゃんは、一口飲むと大きなため息をついた。
「優しい味がするね......菜々ちゃん、付き合わせちゃってごめんね」
「ううん、大丈夫。謝らないでいいよー次私が眠れない日があったら琥珀ちゃんが付き合ってね」
「うん、ありがとう...」
私たちは、はちみつミルクを飲み干すともう一度ベッドに横たわった。
「琥珀ちゃん、手貸して」
私は、琥珀ちゃんのふっくらした愛らしい手をマッサージする。手のひらから指の先まで優しく揉む。
喘息が酷くて眠れなかった弟によくしていた安眠方法である。
琥珀ちゃんは、目を閉じて気持ち良さそうな顔をしていた。
「菜々ちゃん好きだよ...」
微笑みながらそう言う彼女の顔は、安心した様子だった。
「うん、私も好きだよ」
私は、手を優しく包みながら応えた。
10分ほどマッサージしていると、すぴーすぴーと寝息が聞こえてきた。
私は、手のマッサージをやめ、冷えないように毛布をかける。
スヤスヤと眠る彼女の前髪を指で
明日幸せな日になりますように、とおまじないをかけながら。
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