インスタントフィクション 蜜の味

宇山一博

蜜の味

甘く甘く甘く、照りつけるほど甘く、盲目になる程に甘く、狂おしい程に甘く、皆が賛美する程に甘い。


 そんなものがこの世にはあるかと言われると概念だけは存在する。決して目には見えず、しかし、嘲笑うかのように立ち塞いでいる。


 男は、壁のようなものかと問う。


 彼は答えた、壁ではあらぬ。


 男は、では、何故見えぬのだと問う。


 彼は答えた、それは罪なのだ。触れてはならぬようにと神がそうなされたのだ。


 男は、神が言うのであれば触れてはならぬのか、聞いといてよかったぞ、と言った。


 彼は答えた、しかし、もう触れてしまったのだ。皆その味を知っている。お前も昨日の売女を抱いた時に味わったではないか。


 男は絶望する。


 男は言った、私は神に背いたのか。


 彼は答えた、背いてなどない、私たちはもともと罪人ではないか。神はとうに呆れ立てているのだよ。


 そういうと、男は安堵した。


 彼は立ち去り舌なめずりをする。口の中は甘さで満ち溢れていたからだ。

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