ある坊主の怪奇譚

僧職系男子KEIJO

『手形』

日本というのはとても山の多い国ですね。

その山の上に道を作る、なんてことは無茶苦茶極まりないのは私みたいな門外漢でもわかります。

 だから、国中そこらにトンネルが掘られることになったのは、皆さんもお分かりの事でしょう。


 一応、この話は地元のお寺の人から『どこやと言わんでくれ』と口止めされてるんで、“ある場所”と言わせてもらいます。

 その“ある場所”。

とても山の多い場所で、その山々を貫いて鉄道が走っております。

 この山間を走る鉄道がひそかに人気でして、紅葉の自分には少し窮屈に乗らねばならんほどになったりもします。


 しかし、友人から聞いた話はそんな風光明媚な話ではありません。

 よくある“心霊話”でした。

 まあ、簡潔にまとめるとこういう話です。


『鉄道を通すためのトンネル工事の際、事故で亡くなった人がいた

 それ以来、

 “始発電車の先頭から三両目”で

 “出発から三つ目のトンネル”を通る時に、

 “窓に手形が付くことがある”という噂が立っていた。

 事故は凄惨で、落盤によって右腕を潰され、そのまま息絶えてしまった。

 だから、見える手形はいつも“左手”なのだそうだ』


 こんな話を聞いて、興味を持ってわざわざ始発に乗りに行ったんですね。

 当時は私も若かったなぁ、と思います。


 友人の寺で一泊させてもらい、明朝五時。

 駅で始発の車両。

 三両目に乗り込み、ゆっくりと発車時刻を待ちます。


 駅員さんの警笛と共に金属が軋み、車両が動き出しました。

 揺られながら待っていると、すぐに一つ目のトンネルです。


 夏の日差しでじりじりと暑い中、山の緑だけが見える。

 そんな車内の様子。


 そして二つ目のトンネル。

 いよいよだな、と思いながら窓の外が明転し、すぐに暗転します。


 すると、少し離れた扉の窓から、ドン!という音。

 近づいてみると、確かに手形が見えるんですよ。


 うわ、ホンマに見えたわ、って。


 そんで、こんなにはっきり見えるなんて、どうなってるんやろなんて考えて恐る恐る触ろうと手を伸ばしてしもたんですよ。


 するとね、ちょっと変なことに気づきまして。

 小さいんですよね。その手形。僕の手形と比べても一回り小さい。

 指も細くて、明らかに女性とかそう言うたぐいの手なんですよ。


 え?なんやこれって、思わず触ったら、


 ぺちゃってなんか手に付いたんですよ。

 黒いものが。


 あ、って思いました。

 これ、左手ちゃう。“車内にある右手の型”やって。


 声も顔もあげれませんでした。

 窓見たら、自分の後ろに何か見えるんちゃうかって、目閉じてしまったんですね。

 そしたら、目に光を感じて、開けたらもうトンネルは抜けてました。

 次の駅で無事に下りることはできたんですけど、果たして、あの手形。


 誰のやったんですかね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある坊主の怪奇譚 僧職系男子KEIJO @gamon1109

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ