#5

 庭に出て剣術を教わろうと木剣を持ってきた。昨日もらってから一度も使ってないのでまだ布にくるまれたままだ。


「セオドア様、それは?」


 剣を包む布をほどき、中を見せる。


「これですか?僕の木剣です。まずかったですか?」


「貸してください。」


 そういうイルゼに木剣を手渡す。するとその剣を何回か振ってみている。まだ僕は一度も振ってないのに…


「これはご自分でご用意されたのですか?」


「いえ、これは昨日父様からいただいた剣です。」


「良いお父様ですね。セオドア様の体格にあっています。重さもしっかり調整されているようです。私が体格を見て用意しようかと思いましたが必要なさそうです。」


 流石は父様である。あれで人を試す癖さえなければ尊敬できるんだけどな。

 父様はすぐに人を試すんだ、僕は標的になったことないけど…


「じゃあ剣術の修練を始めましょう。まずは基本がやっぱり一番大切です。素振りからやっていきましょう。」


「師匠、実は素振りは前からやっていました!」


 そうなのである。外で遊ぶだけではそこらへんの子供と全く変わらない一般人に成長してしまう。多少なりとも考えて今後のためになることはやっていたのだ。


「し、ししょう?…え、えーっと、そうなんですか?ならちょっとみせてください。」


 師匠呼びに動揺しているイルゼに今まで父様と母様の目を盗んでやっていた素振りをいつも通りやってみせる。

 何回か素振りを見たイルゼは納得したように、頷づいている


「うん、なるほど。…素振りはなんのためにすると思いますか?」


 素振りをやってて偉いね!的な反応を期待していわけだが予想外の質問がなげかけられた。


 素振りを何故するか?…剣術始めるってなったらみんなやる、プログラミングでいう" Hello World! "みたいなものじゃないの?

 …考えたこともなかった。


「うーん…体を動かす前のウォーミングアップとか、筋トレみたいなものですか?」


「いいえ、それは違います。ただ剣を振ればいいというものではないのです。剣の扱い方、つまり制御の仕方を覚えるためです。頭を使って、剣をしっかり見て振るのが大切です。」


「制御...ですか?」


「そうですね…例えば、よく手合わせの場面で寸止めという手法があります。剣が人に当たる寸前でピタリと止める。あれは剣を完全に制御しているからできているのです。どのタイミングで止めれば刃が寸前で止まるのか、それがわかっているからできる芸当なのです。」


 なるほど、理論的でわかりやすい。

 素振りのお陰で寸止めという常人には無理そうな技術が当然のように試合とかで使われてるということなのか…知らなかった。

 剣術やってる人は寸止めの練習とかしてるのかと思ってたわ。


「誰もが素振りをしている間に、無意識に剣の扱い方を覚えています。剣を扱えるようになったら初めてそこから対人での駆け引きや魔物との間合いの取り方を学ぶのです。」


 素振りをちゃんとやってないと剣術なんて学んでもしょうがないってことか。


「無心で剣を振って体で覚える、というのが一般的な剣術の素振りの教え方です。でも私はそうは教えません。頭を使ってください。考えて身体を動かすことが一番の上達への近道です。」


「わかりました。師匠の教え方は僕向きですね。」


 理屈っぽいともいうが、そういうのこそ僕向きだ。彼女の元なら他の脳筋に教わるより絶対に上達が早いだろう。


「あと…それ…、やめてください。」


 イルゼが少し居心地が悪そうになにかを訴えかけてくる。


「…?それ、というのは何でしょうか?」


「…師匠って呼ぶのをやめていたけないでしょうか。」


「え?どうしてですか?」


「なにかむず痒いのです。師匠って感じの歳でもないですし。...イルゼでいいです。」


「わかりました…じゃあ僕からも。先程も言いましたけど、僕に対して敬語は不要です。」


「しかし…私は貴族の身ではないですし…」


 自己紹介のとき苗字がなかったし予想はしていた。でも僕も特に貴族として転生したけどプライドまで持ち合わせてはいない。


「僕が気にしないと言ってるんですから関係ありません。もし周りの目を気にしているのなら言ってください。僕がそんなやつら叩きのめしてやります!」


「ふふっ…叩きのめすって…。わかった。これからよろしく。セオドア様。」


「はい!」


 当然今の僕に叩きのめすような力はない。そんな僕の冗談に笑うイルゼの姿はとても可愛らしかった。これから仲良くしていきたいな。

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転生しても才能はなかったので妹を最強にしてみせます! めあ @mea_syd

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