第112話 女子会っぽい何か


 私は中央にあるランベルトの家でヴィルヘルミナが淹れてくれたお茶を優雅に飲んでいる。

 ここには私とヴィルヘルミナの他にミサとエルナもいた。

 ミサは私が出してあげたキャラメルマキアートを飲み、エルナはリンゴジュースを飲んでいる。


「ねえ、ヒミコ様、ご主人様って、やっぱり男の方が好きなんですかね?」


 ヴィルヘルミナがまったく興味がわかない話題を振ってきた。


「……なんでそう思うの?」

「昨晩、夜に寝室に行って、お疲れのようだったのでマッサージしますって言ったら疲れてるからって断られました」

「あんたの格好は?」

「メイド服です」


 おや、てっきりエロい格好だと思ったんだけどな。


「本当に疲れてたんじゃない? あいつ、忙しいでしょ」

「ええ、ですから癒そうと思って」


 癒し(意味深)


「もういっそ、直接言えば?」

「何て言えばいいんですか?」


 私に聞かれても……


「ミサ、あんた、得意でしょ」


 私はミサに振る。


「なんで得意と思うんですかね……?」

「あんた、小説とか書いてんじゃん」

「エロ小説は書きませんって」


 ミサはダメか……

 

「もう抱いてくださいでいいんじゃね?」

「チープですねー。それに向こうから襲ってくれないと、責任を取ってくれのコンボができません」


 このクソエルフ……!


「エルナ、あんたはイルとミルカをくっつけた実績があったでしょ。アドバイスしてあげて」


 見た目はロリっ子だが、詳しいかもしれない。


「んー? まず、自分から行くのはないよ。女から行くと後で冷遇される。男が行くように仕向けないといけないよー」


 ロリのくせにしたたかなことを言っている……


「ですよね! 師匠も追わずに追われて金を手に入れろって言ってました!」


 師匠って、ヨハンナか……

 ロクなのがいないな。


「そうそう。お金云々は置いておくとしても、女は許されるよりも許すだよ。求められる女になりな」

「さすがは神様です!」


 私も神よ?

 おい、こっちを見ろ!


「――ただいま戻りました」

「ただいまー」


 私が腹黒エルフの髪を引っ張ろうとしていると、ノゾミとトウコさんが戻ってきた。


「おかえり」

「ヴィルヘルミナさんとエルナ様は何をしているんです?」


 ノゾミが2人を見ながら聞いてくる。


「あ、陽キャだ。陽キャ、ちょっとヴィルヘルミナの話を聞いてあげて」

「陽キャ? 私?」


 トウコさんが自分の顔を指差すが、あんたは陽キャじゃない。

 行動力のある陰キャだ。


「あんたじゃないわよ。ミス陽キャのノゾミよ」

「あのー、変なあだ名はやめてもらえません?」


 ノゾミが嫌そうな顔で訴えてくる。


「そんなにスカートを短くしておいて、何言ってんのよ」


 走ったらパンツが見えるわよ。


「あ、それは私も思いました。ノゾミさんってスカート短すぎません? 皆さんが着ているその服はかわいいとは思いますが、皆さん、短すぎです。特にノゾミさんは短い」

「ボクも思った。そんなに足を出して恥ずかしくないの?」


 この世界にミニスカートの概念はないからなー。

 ドレスもロングだし。


「い、いいじゃないですか……! って、先輩、短くしようとしないでください。この場で折るな!」


 ノゾミの横でトウコさんが負けじとスカートを折りだしていた。


「ノゾミ、お前は陽キャです。だからヴィルヘルミナの話を聞いてあげなさい」

「いや、何度も聞きましたよ! 王妃様になりたいんでしょ! 私に聞かれても困るわ! こちとら彼氏もいたことないわ!」


 ノゾミ、そんなんなのに彼氏いないの?

 あ、結城君…………


「で、でも、告白されたことはあるでしょ?」

「そら、ヒミコ様だってあるでしょ」


 ないこともない……


「ヴィルヘルミナ、ここには男っ気のない憐れな女しかいません」

「えー……」


 無念……


「ねえねえ、なんで私に聞かないの?」


 トウコさんはMなのかな?


「じゃあ、あんたは?」


 まあ、一応、聞いてあげよう。


「乙女ゲーくらーい!」


 適当人間め!

 時間を返せ!


「お前はミスズさんと百合の世界にでも行け…………あれ? ミスズさんは?」


 一緒に出たはずなんだが……


「本当に受験勉強を始めちゃった」

「マジ?」

「マジ。夢のキャンパスライフを楽しむんだって」


 あの人、そんな人なんだ。

 きっと、大学に行ったら髪を染めるぞ。


「……まあいいです。で? どうだったの?」


 私はくだらない話題をやめ、本題に入る。


「ノゾミン、どうぞー!」


 適当人間がノゾミに振った。


「ノゾミ」

「はい。エルナ様が言っていた通りです。確かに神殺しと呼ばれるスキルを確認しました」


 神殺しか……


「ほらねー! 言ったとおりでしょ。あのアテナが簡単にくたばるわけがない。絶対に何かをすると思ったよ!」


 私も何かがあるとは思っていた。

 アテナの気配が急に消えたのだが、女神教の残党はまだいる。

 あのアテナが自ら消滅を選ぶわけがない。


「さすがは力の神ですね。ただでは死にませんか……エルナ、神殺しとは?」

「うーん、詳細は知らないけど、名前から想像がつくよね。君を殺すためのスキルだよ」


 文字通り、神を殺すスキルか。


「あんたもでしょ」

「まあ、ボクも死ぬとは思うけど、そう何度も使えるスキルじゃないと思う」

「その心は?」

「使えるなら最初から使っているよ。それに昔話になるんだけど、以前もあったんだよね。まだ信者が残っているのに急に神が死ぬっていうことがね。多分、アテナのスキルだ」


 私の時も昔もそんなスキルがあるなら最初から使うわな。

 使えない理由があったんだ。


「神を殺すなんて大層なものですからね。頻繁には使えないと見ていいですね」

「だと思うよ。多分、アテナが消滅したのはそのスキルを授けたからだろう。スキルの強さが自分の生命力を上回ったんだ」


 どうせ死ぬならお前も死ね、だな。


「ノゾミ、持っていたのは?」

「ヤマトです」


 やはり結城君か。


「まあ、順当か」

「それと間島先輩がいました」


 間島?


「誰それ?」

「不良グループのリーダーです」


 あー、生きてたのね。


「そいつのスキルは?」

「透明化です。実際、図書館で4人共、透明になっていました」

「そら、すごい」


 でも、ノゾミの鑑定の前には無駄だ。


「しかし、よくあそこに来るってわかりましたね……」


 私は半分、呆れながらトウコさんを見る。


「絶対に来ると思ったよ。彼らが日本に帰るにはリースさんの魔法本に書かれている素材を集めることだからね」

「なるほどねー。まあ、何にせよ、10日もお疲れ様」


 この人達は10日も図書館で張っていた。

 ようやるわ。


「探偵志望だから!」


 探偵って大変なんだな。

 頑張れ、名探偵トウコさん。


「頑張って…………さて、神殺しか……どうしましょうかねー」

「素材を集めているわけですから先回りして、兵を配置しては?」


 ミサが提案してくる。


「私もそう思っていたんだけど…………」

「まず逃げられるよ。間島の透明化のスキルが厄介だね」


 トウコさんの言う通りだ。

 たとえ、見つけても透明になられたら逃げられてしまう。


「月城さんが…………無理か」


 ミサがノゾミに行かせればいいと提案しかけたが、途中でやめた。

 ノゾミには無理だ。


「ごめんなさい」


 ノゾミが申し訳なさそうに謝る。


「いえ、いいんです。お前にそういうのは期待していません。お前はお前の仕事をすればいい」

「…………はい」

「気落ちするなよー。適当に生きようぜ。ノゾミンも探偵やろ?」


 こういう時に適当人間は役に立つな。


「ハァ……? 探偵ですか」

「そそ。ノゾミンの鑑定で覗きまくろうぜ! 大丈夫! 私についてきな!」


 トウコさんが急に先輩っぽいこと言う。


「……先輩、もしかして、さっきの後輩から慕われてないっていう話を気にしてます?」

「…………慕われてるから。いっつも奢ってあげてるもん」


 悲しい……


「ヒミコさー、作戦参謀ちゃんの人望がないことはわかったけど、どうすんのさ?」

「……………………」


 エルナ……

 適当人間がへこんじゃったじゃないか……


「結城君達がどこにいるかはわかりませんが、いずれ、必ず私のもとに来ます。その時で良いでしょう」

「危なくない?」

「ふっふっふ……アテナの最後っ屁なんかに敗れる私ではないのです。真の神の力を見せてあげましょう!」


 絶対神たる私が本当の恐ろしさというものを教えましょう!

 ふふふ。


「屁って……下品な神……」

「エルナ、おやつをあげます。サツマイモですね」

「いいの!?」

「ええ、食べなさい、食べなさい。いっぱい食べなさい。美味しいですよ」

「わーい!」


 下品になれや! ボクっ娘神!


「小っちゃい神様だなー……」


 ミサ、黙れ。

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