第111話 大事なことを忘れている ★


 俺は朝になって、目が覚めると、皆を起こし、早速、夢のことを話す。


「そんなことが……じゃあ、女神アテナは死んじゃったってこと?」


 ミヤコが聞いてくる。


「ああ、そうだと思う。死ぬことがわかっていたからこそ、最後にスキルをくれた」


 あの人は死にたくなかったはずだ。

 だが、もうどうしようもないからヒミコに殺される前に最後の力をくれた。


「ヒミコを殺せか……確かにやるしかないように思える。ヒミコはこの世界で終わる気はないだろうしな」


 間島先輩が考え込みながら言う。


「やっぱり地球に戻り、この世界と同じように支配しようとするんすかね?」


 アキラが間島先輩に聞く。


「だろうよ。俺らが日本に帰れるようにあいつらも帰れるんだ。だったら、本命はあっちだろう」


 俺もそう思う。

 ヒミコは自分に逆らう者を許さないし、信者を自分の子供と呼ぶ。

 あっちの世界にはヒミコの信者が1万人も残っているのだ。


「俺達が無事に日本に帰るためには先にヒミコを殺す必要がある。これはわかった。問題はヒミコを殺すすべがあっても近づけないことだ。あっちには武器を持った狂信者共がいる」

「それは俺のスキルでどうにかなる。俺のスキルは触れているものも消せるからな」

「マジですか? じゃあ、それで潜入できますね!」

「ああ……希望は見えてきたな……ヒミコを暗殺し、すぐに日本に帰る。これで俺らは逃げ切れる」


 以前は何も考えずにヒミコを倒すと言ったが、今は方法もあるし、本当の希望も見えてきた。


「よし! まずは転移するためのアイテム探しだな!」

「あと、何がいるんだ?」

「あとは魔の花と神仙の水です」

「へー……わからん」


 まあ、俺もわからない。


「まずは情報を集めないといけませんね」

「そこからか……まあ、焦ってもしょうがないしな」

「ええ。これから中央にある図書館で調べましょう。どうやって潜入しようか悩んでいたんですが、間島先輩のスキルでいけます」

「中央か…………危険だが、行くしかないな。わかった」


 俺達は朝ご飯を食べ終えると、中央に向けて、出発した。


 中央までは歩いて1週間はかかるだろう。

 本当は馬車を使いたいが、お尋ね者の俺達は馬車を使えない。

 とはいえ、間島先輩のスキルのおかげで以前のようにコソコソと隠れながら進まなくてもよくなった。


 俺達はひたすら歩いて進んでいく。

 途中で魔物に襲われたり、巡回している兵士に見つかりそうになるも、何とか回避した。

 食料を中心とした物資も途中にある農村で盗んだ。

 良くないことなのはわかっているが、買い物すらできない俺達ではこうするしかない。


 寝る時は見張りを置き、交互に休んだ。

 野宿はかなりきついが、回復魔法が使えるミヤコのおかげでなんとかなっている。


 俺達は日本に帰るという希望でなんとかきつい旅を続けていった。

 そして、ついに中央の町にたどり着くことができた。


 中央の町はかつて、俺達が1年も住んでいた神殿があった町だ。


 かつての女神教の中枢の町……

 だが、今は女神教の色は完全に取り除かれ、幸福教に支配されてしまっている町だ。


 俺達は間島先輩のスキルを使って、門番の目を欺き、町に潜入する。

 町では町民が普通に歩いているし、平和そうだ。

 この前まで戦争があったとは思えない。


 俺達が姿を消しているため、人とぶつかりそうになるのを何とか避けながら図書館を目指した。

 そして、図書館に到着すると、4人で中に入り、魔の花と神仙の水の情報が書かれた本を探す。

 幸いなことに図書館を利用する人は少ないみたいで、図書館の中は職員の人がいるくらいで利用している人はいなかった。


「…………どこを探せばいいのかな?」


 ミヤコが小声で聞いてくる。


「…………素材系はあっちって書いてあるな」

「…………行ってみよう」


 俺達はコソコソと泥棒になった気分になりながら本を探し続ける。

 正直、この図書館に魔の花と神仙の水の情報が書かれた本があるとは限らなかったし、探すのも苦労するんだろうなと思っていたのだが、以外にもあっさりと見つかった。

 というのも、伝説の素材全集という本に両方の素材が書いてあったからだ。


「…………えーっと……」


 ミヤコが伝説の素材全集を詳しく読みだす。


「…………風見、あとにしろ。その本ごと持っていく」


 間島先輩はそう言うと、ミヤコから本を取り上げた。


「…………盗むのは……いえ、何でもないです」


 ミヤコが文句を言おうとしたが、途中でやめる。


 ミヤコの気持ちはわかる。

 だが、今さらだ。

 俺達は間島先輩に盗んでもらったもので生活しているのだから。


「…………ほら、行こう」


 俺達は本を回収すると、図書館の出入り口に向かう。

 そのまま進み、図書館の出入り口前まで来ると、急に先頭の間島先輩の足が止まった。


「…………どうしました?」


 俺は小声で聞くと、間島先輩はすぐに俺達の方を向き、指を口元に持っていった。

 静かにしろというジェスチャーだろう。


 間島先輩は俺達の手を掴んだまま、通路の端に避け、しゃがみ込んだ。

 よくわかっていない俺達も間島先輩に倣ってしゃがみ込み、じっとする。


「ミスズー……受験勉強なんて嫌だよー」

「いいから付き合いなさい。1人で勉強は嫌なの」


 この声は……女子?

 ミスズ…………日本人の名前だ。


 俺は声がする方をそーっと見ると、図書館の出入り口から学校の制服を着た2人の女子が図書館に入ってくるのが見えた。


「自分の部屋でやりなって」

「後輩達が遊びに来るから集中できないの」

「え? 自分は慕われているっていうアピール? 私だって…………あれ?」

「ごめんね…………」

「謝らないでよー…………」


 2人は俺達の脇を抜けて、図書館の奥に行ってしまった。


「…………あれは?」


 受験勉強という言葉から3年生だと思い、間島先輩に聞いてみる。


「…………女子グループの中心人物だ。というか、副会長を忘れんなよ」


 あ、そうだ。

 あの人は生徒会副会長の人だ。

 名前は…………さすがに覚えていない。


「…………確かに女子グループの中心人物です。神殿から出たはずなんですけど、あの様子ではヒミコに降ったんでしょうね」


 ミヤコが残念そうに首を横に振る。


「…………かばうわけじゃねーけど、女子は仕方がないだろ。あんなもんが外に出たら格好の餌食だ。あの2人は特に男子から狙われていたからな」

「…………そうなんです?」


 確かに容姿に優れた2人だと思うが……


「…………俺らのグループでも狙ってたのが何人もいたぞ。あいつら、弱いくせに女子を集めて固まったからな。女子を狙ってたヤツからは心底、恨まれている」

「…………ですか」


 聞くんじゃなかった。

 完全に逆恨みだろ、それ。


「…………まあいい。余計なことを言った。それよりもさっさとずらかろう。あいつらはたいしたスキルじゃなかったはずだが、この町には他の生徒も多そうだ」


 確かにそうだ。

 もしかしたら間島先輩の透明になるスキルを見破るスキルを持った人もいるかもしれない。


「…………急ぎましょう」


 俺達は急いで図書館を出ると、食料等を補充し、町を出ることにした。




 ◆◇◆




「いた?」

「いました。先輩の言う通りでしたね」

「さすが私」

「いや、本当にすごいですよ」

「でしょー! しかし、あの人達、よくヒミコ様にたてつけるね。私には無理」

「私も無理です……ヒミコ様に逆らうなんて…………幸福が欲しくないんですかね?」

「…………君はもうだいぶヤバいね。いくとこまでいっちゃったか……」

「どうでもいいけど、終わったのならペチャクチャしゃべってないで報告に行ってちょうだい。勉強の邪魔」

「…………君、本当に勉強する気だったんだね。マイペースだなー」

「あんたにだけは言われたくない」

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