第106話 工作好きの教団


 私は今日も会議室で待機し、お茶を飲んでいた。

 勝崎達もジーク達も頑張ってさっさと終わらせてほしいものだ。


「ひー様…………」


 私がお茶を飲んでいると、目を閉じていたリースが目を開け、神妙な顔で私を見てくる。


「ん? どうしたん? 何か問題でもあった?」

「……西部軍は中央を落としたそうです」


 はい?


「早くない?」


 西部軍が援軍を奇襲で破ってから2日しか経っていない。


「西部軍が東門を攻めたんですが、中央は兵をマナキス方面の西門に集中させていたようで、東門はガラ空きだったようです。しかも、援軍が来たと思って、向こうから城門を開いたようで……」


 完全に虚を突かれたわけか。


「それでどうなったの?」

「一気に政庁及び貴族連中を抑えたようです。貴族はすぐに降伏し、あっさり落ちました」


 臆病軍人巫女やドミニクが愚痴ってたし、中央の貴族連中はロクなもんじゃないんだろうなー。


「西門にいた兵は?」

「一部は降伏してきましたが、大半は北に逃げたようです」


 南はウチらのマイル軍がいるし、西はマナキスに軍がいると思っているだろう。

 消去法で北か……


「追撃は?」

「人が足りないそうです」


 まあ、それもそうか……


「3日後にドミニクをそっちに送るって、ランベルトに伝えて。以後、その都市はドミニクに任せます」

「3日後ですか? それにランベルトにですか?」


 西部軍の大将はジークである。

 だが、指示をしておかないといけないのはランベルトだ。


「3日ほど、兵を休ませなさい。3日後にはマナキスに戻ってもらいます。その間は私は何も知りませんとランベルトに伝えなさい」


 3日もあれば、ランベルトが邪魔な貴族を排除してくれるだろう。

 あの臆病軍人巫女の苦労を考えれば、中央の貴族は絶対に不要な存在だ。

 下手に動かれる前に消えてもらう。


 そう、今なら自然に消えてもらえる。

 彼らは処刑されたわけではなく、勇敢に戦って戦死したんだ!

 きっとそうだ!


「わかりました。そのように伝えます」


 よしよし。

 西部軍は私の期待に応えてくれた。

 あとは勝崎達のマイル軍だ。


 私は勝崎に様子を聞くために目を閉じる。


『勝崎』

『はい、なんでしょう?』

『どんな感じです?』


 このところは連絡を取りすぎて、勝崎とのやりとりも淡白になりつつある。


『敵さんはいつも通り、じわりじわりと後退していますね』


 勝崎は私が指示したとおりに敵の補給基地を爆撃した。

 これにより、敵は兵糧が極端に減ったため、撤退を始めた。

 とはいえ、すぐに後ろを向いて逃げたわけでなく、追撃を警戒し、じわりじわりと後退している形だ。

 本当は夜陰に乗じて、一気に撤退したいのだろうが、私が大量にライトを出し、夜だろうが敵陣を明るく照らしているため、敵は動けていなかった。


『何か変化はない?』

『んー? 特には……残りの兵糧を考えると、そろそろ動いていい頃合なんでけどねー。攻めるか引くか…………揉めてんじゃないっすか?』


 ありうる……

 とはいえ、いつまでもこの調子ではいずれ兵糧が尽きる。

 どこかで動きがあるはずだ。


『うーん、わかったわ。あと、勝崎、報告よ。西部軍が中央を落としたわ』

『マジっすか? 早くない?』

『敵はかなり油断してたみたい』

『まあ、どう考えても、おかしい動きですからね。まさか敵もひー様が軍隊まるごと転移させることができるとは思ってもいないでしょう』


 すごかろう?

 これが神の力だ。


『そういうことだから3日後にドミニクには中央に行ってもらうわ。伝えておいてくれる?』

『了解です。それでこっちはどうしましょう? 自分らも転移で敵の背後に回ってみます?』

『撤退した軍に挟み撃ちされるだけでしょ。というか、そのまままっすぐ進軍されたらマイルを落とされるわよ』


 進軍の可能性が高いな。

 マイルに行けば食糧を確保できると考えるだろうし。


『それもそうっすねー。ひー様、作戦参謀さんに聞いてみてくださいよ』

『リース? トウコさん?』


 どっちかな?


『酒癖が悪くない方です』

『トウコさんね。学生にあんまり働かせすぎも良くない気がするけど……』


 誰かさんが拗ねるし、自分の立場を守るために本格的に派閥を作りそう。


『それもそうですけど、優秀なんでしょ? ひー様は何でも出せるわけだし、褒美でも与えてくださいよ。リースに聞くと、毒とか一人残らず焼き殺せと言いそうですもん』


 言うだろうね。

 ただでさえ、過激な性格をしているリースは女神教に家族を殺されているからやりすぎる気がする。

 実際、合流する前はマナキスで殺しまくってたし。

 だからリースにはここで連絡役をさせているのだ。


『わかりました。トウコさんに聞いてみます。少し待ちなさい』


 私は一度、お告げを切り、目を開けると、立ち上がる。


「ミサ、リース、ちょっと中央に行ってきます」


 私は立ち上がった私を注目してきた2人に告げた。


「中央? 様子見ですか?」


 ミサが聞いてくる。


「ええ。ちょっと話を聞きにいってきます。お前達は休んでいていいですよ」

「じゃあ、そうします」


 まあ、と言っても、ミサは特に……


「いってらしゃい」


 リースが笑顔で手を振ってくれるが、笑顔がちょっと怖い。

 こいつ、私がトウコさんに相談に行くことに感づいてそう。


 私はぼろを出す前にさっさと行こうと思い、その場ですぐに転移した。




 ◆◇◆




 転移をすると、視界が会議室からベッドが2つ並ぶ寝室へと変わった。

 そのベッドにはそれぞれトウコさんと大村さんが学校の制服姿のまま、横になって、何かの話をしていた。


「何を話しているの?」


 私はまだ私に気付いていない2人に声をかけた。


「うわっ! ビックリした! いつのまに……」


 急に話しかけた形になってしまったため、トウコさんが驚く。


「ヒミコ様、転移する時は前もって言ってもらえない? 急に来られたらビックリするし、お風呂に入ってたり、トイレ中だったらどうするのよ?」


 大村さんが眉をひそめ、文句を言ってきた。


「ごめん、ごめん。次からは声をかけるよ」

「気を付けてね」


 大村さんって、ちょっと怖いんだよなー……

 親しみを込めて、ミスズさんと呼んであげよう。


「ごめんね、ミスズさん」

「急にどうしたの?」


 もっと眉をひそめられてしまった……


「私、フレンドリーな神様だから……」

「どこがよ……フレンドリーな人はテロなんてしないし、無理やり入信もさせないわよ。あなたがやってることって、自分に従う者だけを優遇して、それ以外は殺す独裁者そのものよ」


 それのどこが悪い?


「私に従えないヤツっていらなくない? 邪魔なだけだし、生きてても仕方がないでしょ」


 ランベルトあたりは税収がーって言いそうだけど。


「…………何の疑問もないならいいわ。それよりも何か用があったんじゃないの?」


 そうだ、そうだ、そうだった。


「トウコさん、ちょっといい?」

「私? 別にいいよ。休んでるだけだし」


 まあ、ベッドで横になってるんだから休んでいたんだろう。


「そういえば、2人は何してたの? 他の連中は?」

「私達は休憩。やることないしね。他の人達はランベルトさんの手伝いだね」


 なるほどね。

 そりゃあ、この2人は連れていけないわ。


「ふーん。まあいいや。ちょっと相談に乗ってほしいことがあるんだけど」

「相談? マリ〇なら諦めた方が良いよ。1面もクリアできないなら向いてない。信〇の野望でもやるといい」


 ゲームで弄ってくんな!

 ってか、信長なんか知らんわ!


「ゲームじゃないよ。南部での戦争のこと」

「だろうね。敵は5万だっけ? すごいよね」


 わかってたのにからかったのね……

 まあいいか。

 トウコさんはこういう人だ。


「そうなんだよ。それで今、敵の補給基地を爆撃したんだけど…………」


 私はこれまでの流れと今の状況をトウコさんに説明する。


「――それでさー、敵がどう出るのかもわからず、悩んでいる」


 私の説明を聞いたトウコさんはふむふむと考え始めた。


「うーん、兵糧がない時点で撤退だろうね。問題は時期か…………多分、先に撤退した部隊待ちじゃない? 南部に遠征した本隊はマナキスの状況をわかっていない。もし、マナキスが落ちているのなら取り返すし、まだ落ちていないなら兵糧を確保し、輸送するつもりなんだろうね。で、実際の今の状況はマナキスはとっくの前に落ちているけど、ガラ空きの状態。多分、すぐに取り返して、兵糧を集めると思う。それで南部の軍に輸送する。それが間に合わないようなら無理やりにでも撤退するだろうね」


 要はマナキスの状態次第ってことか。

 それで様子見をしているわけだ。


「消極的だね」

「私なら撤退をすると見せかけて、奇襲をかけるけど、敵には総司令的な人がいないからその決断をできる人がいないんだと思う」


 ふむふむ。


「マイル軍はどうすればいいかな?」

「多分、兵糧は間に合わないよ。いくらマナキスが大きい町とはいえ、5万近く兵の兵糧は簡単には集まらない。だからいずれ撤退する。その時に総攻撃でもいいと思うけど、その場合はマイル軍にも被害が出ると思う。ここはおたくらが得意の内部工作で崩すべきだよ」


 別に得意ではないけどね。


「具体的には?」

「敵は一枚岩ではないのだから適当な捕虜に内通の手紙を持たせて解放し、敵の将にでも送ればいい。ランベルトさんが言ってたけど、領地貴族は自分の領土が一番らしいから領地と領主の地位を保証してやるって言ったら寝返るんじゃない? 特に飢饉で苦しんでいるところに食糧のカンパと税収の引き下げを保証したらより効果的」


 なるほど。

 それは確かに得意な戦法だ。


「じゃあ、それでいこうかな。ミスズさんはどう思う?」


 一応、相方さんに聞いておこう。


「私は知らない。あなた達の宗教戦争に付き合ってられないわ…………家に帰るのが遅くなるのは理解してるけど、こんな戦争はさっさと終わらせてちょうだい」


 うんうん。

 こんな戦争はすぐに終わらせるよ。

 もっとも、日本に帰ったらもっと激しい戦争が始まるけどね。


「私は日本に帰ったら家族を説得して、一時的にこっちに避難しようかなー。ランベルトさんに頼めば、面倒を見てくれそうだし」


 トウコさんはわかっているようだ。


「メイドにさせられちゃうよ? 南部でいいじゃん」


 きれいな草原と森でリフレッシュできるよ?


「自然豊かすぎてねー。私は中央の方がにぎやかで好き」

「引きこもりが何を言ってるのよ……」


 ミスズさんが呆れた。


「大自然で引きこもるより、都会で引きこもりたいんだよ」


 私もトウコさんの言っている意味がよくわかんないや。


「まあ、好きにしたらいいよ。私はこの策を勝崎に伝えに帰るわ。じゃあ、2人共、ゆっくり休んでね」


 いいアドバイスを聞けた私はトウコさんとミスズさんに別れを告げると、転移で元の会議室に戻ることにした。

 そして、トウコさんの策を勝崎に伝え、すぐに動くように指示をした。


 さーて、何人、寝返るかなー?

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