第107話 あっけない勝利


 トウコさんから敵に内通の手紙を送り、敵の将を寝返らせる策を聞いた私は勝崎にそのまんまを伝え、指示をした。


 そして、翌日…………


『はい? もう1回言って?』


 私はいつものように勝崎にお告げのスキルを使い、念話で報告を聞いていた。

 そこで内通の結果を聞いたのだが、聞き間違いかと思って聞き返した。


『いえ、だから半数が寝返りに了承しました』


 半数?

 今の敵の数は当初の5万はさすがにいないだろうが、その半数が寝返ると言っているらしい。


『さすがに多くない?』

『俺もそう思います。話を聞くと、中央は情報統制をしているようですが、すでに領主達は独自のルートで大司教のドミニクさんが投降したことを知っているようです。中央の爆撃に巫女の死亡、そして、大司教の寝返りに兵糧の不足…………敵の士気を相当、下がっているようですね』


 敵も負けが見えてきているわけか。

 だから自分の地位と領地を守れるならば、宗教の鞍替えを許容できるんだ。


『総大将がいないと、ひどいもんね』

『ですね。力を持っている領主が2人いるらしく、その2人が派閥を作って揉めているようです』


 どこもかしこも派閥だなー。

 ウチも絶対にリースを止めないといけないわ。


『ちなみにその力を持っている領主の2人は降るって?』

『いえ、その2人には内通の手紙を送っていません。さすがに大将格は内通に応じませんから』


 大将の場合は内通というよりも降伏になっちゃうか……


『確かにそうかも…………じゃあ、具体的にどのくらいの兵力が降りそうなの?』

『現在の敵の総兵力は先に撤退した部隊が1万、この場に留まっている部隊が3万です。その内、1万2千がこちらにつきました』


 多いなー。

 これで敵の残りは撤退した部隊を無視すると、1万8千か……

 決まったな。


『今夜、ライトを消し、一斉に寝返らせなさい。そして、内から攻めて、敵の大将2人を討ち取らせなさい』

『わかりました。すぐに連絡をします』


 私は指示を出し終えると、お告げを切り、目を開けた。


「寝返りはどうでした?」


 目を開けるとすぐにリースが聞いてくる。


「半数近くの1万2千が寝返ったわ。敵は残り1万8千と撤退した1万」

「それは…………決まりですね」


 リースが神妙な顔で頷いた。


「まだ2万8千もいるよ?」


 よくわかっていないミサがリースに聞く。


「数字の上では向こうが上だけど、もう無理よ。半数近くが寝返るって異常だもの……敵はもう戦えない。士気は完全になくなり、残っている敵もすぐに降ってくるか潰走だと思うわ」


 リースが首を振り、答えた。


「じゃあ、戦争は終わり?」

「ええ。目の前の敵は総崩れ。撤退した敵も状況を知ればすぐに降伏でしょうね。ひー様、敵を許すか殺すかを決めてください」


 ミサに話していたリースが私の方を向き、襟を正して、聞いてくる。


「許すはわかる。でも、殺すというのは?」

「敵は降った後、兵を連れて自分の領地に帰るでしょう。しかし、一度はひー様に弓を引いた者です。後のことを考えて処分も検討すべきです。兵はともかく、領主は責任を取らせて殺すのもありだと思います」


 さすがはリース。

 過激だ。


「領主達が私を裏切ると?」

「すべての者がというわけではないでしょう。ですが、中央とマナキスを抑えたとはいえ、まだ、北と東が残っています。特に東の町は女神教発祥の地。あそこは簡単には降伏しません。そうなった場合に裏切る可能性もあります」


 まあ、あるかもね。


「領主を殺すのはなしです。私は信者かそうでないかを把握できますし、裏切った場合もすぐにわかります。敵がまだ残っているのならば降ってきた者を害してはなりません。むしろ優遇し、残っている敵を降らせやすくするべきです」

「優遇…………調子に乗るのでは?」

「その先のことは知りません。ランベルトやドミニクの領分です」


 まあ、私の子を不幸にするようなら止めればいい。

 私の子は私には逆らわない。

 それでも聞かないなら仕方がないだろう。


「甘くないですか?」

「私は女神アテナの逆を行かないといけないのです…………あいつがまだ存在しているうちはね」


 あいつさえいなくなれば好きにやれる。

 私のためだけに祈り、私のためだけに存在する信者のみの世界とする。


「そうですか……わかりました。では、そのようにしましょう」

「この世界は所詮、私の次の目標のための踏み台にすぎません。本命は地球です」

「あっちはこういう風に上手くはいかないでしょうねー……」


 私の≪絶対神の天授≫は人間時代に触れた物を出す能力。

 だから武器を出せる。

 でも、地球の各国の軍も兵器や武器は持っているのだ。


 今のままでは勝てない。

 さすがに核兵器に触ったことはないから出せないし、私の能力のアドバンテージがほぼないからだ。


 勝つためにはここで信者を増やし、神としての格を上げ、私が絶対的な優位になれるスキルを手に入れないといけない。


「リース、地球というか、日本の様子は?」

「あまり変わってません。幸福教団と神隠し事件は連日、ニュースに取り上げられていますし、幸福教団のあることないことを報道して楽しんでますね。まあ、9割方、報道が合っていることが辛い所です」


 自分の教団をこう言うのもなんだが、ロクでもないことばっかりしてたんだろうね。


「マスコミは邪魔ですねー……買収できませんか? もしくは、圧力は?」

「学校の生徒が丸ごと消えてますからね。難しいかと……」


 さすがに事が大きすぎるか……

 よし、帰ったらアテナのせいにしよう。


 アテナが生徒達を異世界に攫い、幸福の神である私がそれを救った。

 帰ってこれない生徒達はアテナに殺された。

 うん、これだな。

 皆にもそう言ってもらおう。


 それでも疑うヤツはアテナに洗脳された異教徒ということにしよう!


「お金はいくらでも出せるから買収を試みなさい。お前はもうこっちの世界のことは関わらなくてもいいからあっちに帰還する時のことを考えなさい」


 後は戦後処理と政治の話だ。

 リースは必要ない。

 それよりもリースにはあっちの世界の工作を頼んだ方が良い。


「かしこまりました…………うーん、でも、どうしましょうかねー。こっちの世界でやったように貧困に苦しむ国を救うのはどうでしょう? 食糧や薬なんかを配るんです」


 なるほど。

 エルフやハーフリングがそうであったように簡単に信者を増やせるかもしれない。

 それにそんな脆弱な国なんかは簡単に乗っ取れそうだ。


「よろしい。その方向で進めなさい。必要な物は出します」

「お金を出していただければどうとでもなるでしょう」


 確かに……

 買えばいいもんね。

 あっちは楽だな。


「それもそうね。あんたは転移や空間魔法があるし、どうとでもなるか」

「お任せを!」


 リースはこの戦争では、あまり活躍してないからやる気に満ちているようだ。

 ここはリースに任せた方が良いだろう。


「人員は必要?」


 絶対に嫌がるだろうが、H君が空いてるし、海外渡航経験も豊富だよ?


「現地で探すので大丈夫です。ひー様達はこの世界の統一を優先してください。何にしても、あっちの世界を支配するにはひー様の力が必要です」


 それもそうだわ。


「わかりました。こちらはこちらでさっさと片付けますので、お前は早速、行動に移しなさい」

「了解です。では、大村さんにその旨を伝えた後に私はあっちの世界に戻ります」

「お願い。ミサ、リースと電話番を交代ね」

「はーい」


 ミサは頷き、了承する。


 私は今後のことを決めると、引き続き、お茶を飲み、ひたすら報告を待つという実に暇な作業に戻ることにした。

 この日はそれ以降、何の動きもなく終えたが、翌日、マイル軍と戦っていた敵が潰走したという報告を勝崎から受けた。

 どうやら降った領主達が奇襲をかけて、敵の本陣を襲ったらしい。


 私は勝崎に追撃と降伏勧告をするように命じると、すぐに敵の大将の1人がもう1人の大将の首を持って、降伏してきた。

 

 そして、数日後にはマナキスに逃げた残り1万の兵も東からジーク達、南から勝崎に攻められ、降伏した。


 これにより、私達と女神教の戦争は終結したのだった。

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