第103話 メイドにいびられる王妃様って思うと笑える
私は朝起きると、昨日と同様に1階に下りた。
そして、受付の子らに挨拶をすると、会議室に向かう。
私が会議室に入ると、すでにミサとリースがおり、私を待っていた。
「おはようです」
「おはようございます」
ミサとリースはそれぞれ朝の挨拶をしてくる。
「おはよー。何か進展あった?」
私は椅子に座りながらリースに聞く。
「キールを落とした西部軍は今後の作戦を決めたそうです。それでひー様に戦車を出してほしいという要望が来てますね」
「戦車? まあ、いいけど」
獣人族も戦車を使えるようになったのかな?
「マナキス攻略で使うようなので近くまで来たら連絡するようですね」
「ふーん。了解」
戦車だろうがパンだろうが同じポイントでしかないし、いくらでも出してやる。
「慰労に行かれては? ヴィルヘルミナと東雲姉妹を迎えに行かないといけないわけですし」
そうするかな……
東雲姉妹を送ったことでランベルトから嫌味を言われるだろうけど。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
「朝ご飯を出してからにしてくださいよー」
私は朝ご飯を要求するミサとリースにご飯を出すと、転移を使い、東雲姉妹のいる場所に転移する。
私が転移をした場所は薄暗い部屋であり、ベッドが2つ並んでるのが見える。
そのベッドの上にはメイド服のままのナツカとフユミが寝ていた。
「まだ寝てるのか…………しかも、メイド服のままだし」
私はナツカは中々起きないだろうなーと思い、フユミのもとに行く。
「フユミ、朝だよ。起きて」
「あれー? ひー様じゃん……」
フユミは目を覚ますと、目をこすりながら薄目で私を見る。
「迎えに来たから起きなさいって……ってか、なんでメイド服のまま寝てるのよ」
「うーん、ご主人様にお酒を飲まされたところまでは覚えてるー……」
え?
…………お持ち帰りされた?
私は気になって、フユミの身体をまさぐる。
「……何してんの?」
フユミが真顔で聞いてきた。
「うーん、脱がされた形跡はないわね。あんた、身体に違和感はない?」
「頭痛い」
それはお酒のせい。
「他には?」
「いや、別に……起きたばっかりでだるいくらい」
うーん、何もされていないみたいね。
「じゃあ、いいや。フユミ、ナツカを起こして」
「わかったー。姉貴ー、起きろー」
フユミがナツカを起こし始めたので、私は姉のことは妹に任せ、寝室を出た。
「ここどこ?」
多分、ランベルトの屋敷なんだろうが、ランベルトの屋敷は食堂にしか行ったことがないので、よくわからない。
私が適当に歩いて探そうと思い、探索していると、見覚えのあるメイドの後姿を見つけた。
「カルラー」
あのメイドは間違いなくカルラだ。
「あ、これはヒミコ様、おはようございます」
カルラは持っていたほうきを置くと、すぐにこちらに駆けてくる。
「おはよう。掃除中だった?」
「いえいえ。久しぶりにこの屋敷に戻ってきたのでちょっと気になっただけです」
ヴィルヘルミナはメイドとしてまだまだってことかな?
「嫌味とか言っちゃダメよ」
「言いませんよ。何もしないくせに嫌味や文句を言うメイドが2人いますけどね」
そいつらはメイド服を着ているだけだから……
「あれらは無視しなさい。それよりも、ランベルトは? ジークでもいいんだけど」
「ご主人様は朝早くから政庁に向かわれました。兵や文官に幸福教団の説明をされるそうです。ジーク様は兵を連れて、町の外で駐屯しております」
ジークは町の外か……
確かに、町の中はマズいだろうね。
問題が起きる要素しかない。
「じゃあ、ここには誰もいない? あ、ここって、ランベルトの屋敷よね?」
「そうですね。この屋敷にいるのは私達メイドを除いてはミスズ様とトウコ様です。今は御二人とも食堂で朝食です」
あの2人はここで待機か……
「ところで、リースから聞いたんだけど、宮部さんが作戦参謀って何? リースが私の地位を奪う気かって怒ってたけど」
あの子は若干、心が狭い。
「ああ、自称してましたね。まあ、実際、そんな感じですし、優秀な方です。物事が良く見えてますし」
スキルのおかげだろうね。
あと、本人が全国模試16位って自慢してた。
「ふーん、まあ、良いんじゃない?」
「昨日、ご主人様がミスズさんと併せて、勧誘してましたよ」
あいつはどんだけ女を集める気だ?
「女好きねー」
「いや、ジーク様とエックハルト様も勧誘してました」
女好きじゃなくて、本気で王になる気か……
あいつは優秀だから別にいいけど……
「まあ。好きにしたらいいけどねー。じゃあ、食堂に案内してくれる? ジークとランベルトは忙しそうだし、作戦参謀に話を聞くわ」
「わかりました。どうぞ、こちらへ」
私はカルラに案内され、食堂に向かう。
どうやら私がいた所は2階だったようで、階段を下り、見覚えのあるロビーに到着した。
そして、ロビーの奥にある食堂に入る。
食堂では大村さんと宮部さんとヴィルヘルミナが席に着いて、朝食を食べていた。
大村さんと宮部さんが並んで座り、その対面にヴィルヘルミナが座っている形だ。
「あ」
ヴィルヘルミナがカルラを見て、固まる。
「ヴィルヘルミナ、朝食はお客様の後にしなさいと言いませんでしたか?」
「お、お腹が空いたもんで…………すみません」
どうやらカルラが掃除している間にこっそり食べようとしたようだ。
「ハァ…………まあ、いいです」
カルラはため息をつくだけで許すようだ。
さすがは働かないメイド姉妹と1年間も暮らしていただけのことはある。
何しろ、そいつらは寝てるだけだし。
「ヴィルヘルミナ、元気そうね」
私は青ざめているヴィルヘルミナに声をかけた。
「あ、ヒミコ様、おはようございます。朝ご飯いります?」
「いや、食べてきたから大丈夫よ。ただ、ナツカとフユミがすぐに起きてくると思うから準備したら?」
「あ、そうですね。これを食べたらすぐに用意します」
ヴィルヘルミナはパンを食べるスピードを速める。
「私が用意しますからゆっくり食べなさい。はしたないですよ」
カルラは呆れたようにヴィルヘルミナを制した。
「あ、すみませーん」
「ったく……」
カルラは食堂の奥に向かう。
「小言が多い先輩ね」
私はヴィルヘルミナの隣に座ると、笑いながら言う。
「1人だった時は適当にサボれたんですけどねー」
「サボってんのかい……それでいいの?」
「ご主人様はあまり気にされない方なので」
あいつ、家のことは無頓着っぽいしなー。
仕事人間って感じ。
「ランベルトとはうまくやってる?」
「うーん、優しい御方ではあるんですけどねー……」
おや?
何か不満が?
「何? エロいことでもされた?」
「いや、逆に手を出してこないんですよねー」
え?
「ん? 手を出してほしいの? ホレた?」
奴隷になっているところを救われ、ホの字になったのかな?
「いや、ご主人様って王様になるんでしょ? ご主人様は私を貴族にしてやるって言ってくださいましたけど、王妃様の方が良くないです? 一生、遊んで暮らせます」
こいつ……
かわいい顔して中々に黒いな……
「がんばんなさい…………」
「うーん、やっぱりナツカさんとフユミさんがいいのかなー? ご主人様ってドMなのかなー? ヒミコ様、私もSでいった方が良いですか?」
知るか!
「…………知らない。カルラに聞きな」
「聞いたら怒られそうです」
大丈夫。
あんたもだろうけど、カルラは耳が良いから多分、聞こえてる。
怒られるのは確定。
「あんたは勝手に悩んでなさい。王妃様になったら祝福してあげるわ。それよりも
作戦参謀さん、ご飯を食べながらでいいんだけど、ちょっといい?」
ヴィルヘルミナの玉の輿作戦よりも女神教殲滅作戦だ。
「どうぞー。作戦参謀のトウコさんです」
トウコさんがパンをちぎりながら答えた。
「トウコさん、戦車がいるって言ってたけど、どんな作戦でいくの?」
「ヒミコ様が獣人族と人族のハーフの方たちを奴隷に見せかけて潜入させてるって話だったから、ヘリで政庁を襲撃させ、敵が兵を中央に集めている隙に内と外から同時攻撃し、門を破る作戦でーす。短期決戦が望ましいので戦車の砲撃で一気に攻め込もうかと思ってる」
ふむ。
確かにヘリでの陽動は効果的だろう。
何しろ、私達が同じ手で領主の屋敷を襲撃しているわけだから敵も警戒しているはずだ。
そこを逆手に取れる。
「いいんじゃない? こっちとしても、さっさと片付けてほしいしね」
「そういえば、南部はどうなってるの?」
優雅にスープを飲みながら私達の話を聞いていた大村さんが聞いてくる。
「南部はマイルが落ちたからマイルで軍を編成しているわね。あと、敵が5万ほど南征してきているらしい」
「5万も……それは……大丈夫なの?」
さすがの大村さんも不安そうだ。
「大丈夫、大丈夫。敵は連携してこないし、各個撃破でいける。それに降ってきた大司教さんが敵の補給基地の情報を教えてくれたからね。そこを攻撃したら敵の兵糧が尽きて終わる」
「どこも食糧に余裕はないだろうし、大軍が仇になるわけだね」
作戦参謀だけあって、トウコさんはよくわかっている。
「そうそう。とはいえ、そこを攻撃したら敵は引き返すことになる。そうなると、今度はあんたらがピンチなわけよ。だからある程度は南部で敵を引きつける」
いくら獣人族が強くても、1000程度では5万相手にちょっと厳しい。
その場合は私の転移で撤退することになる。
中枢が死んでいる今がチャンスだし、この戦いで決着をつけないといけない。
「それは確かにこっちもさっさと片付けた方が良いね。敵の兵糧がどれくらいあるかは知らないけど、兵糧が尽きそうになったら引き返してくるわけだ」
「その場合は一応、こっちでも追撃をするけど、5万の大軍だからねー。殲滅は厳しい。だから無茶をしろとは言わないけど、早めにお願い」
「わかった。隊長と副官に伝えておくよ」
「よろしく。あ、それとあんたらもランベルトに誘われたらしいけど、どうすんの?」
日本に帰るって話だったけど、貴族か王妃様かは知らないけど、確認しておきたい。
「私は大学に行くから断ったわ。やっぱり日本がいい」
大村さんは帰還志望みたいだ。
まあ、そんな気はしていた。
「うーん、私も帰るかなー? 大学は行かないことにしたけど、探偵でもやろうかと……でも、絶対にこっちの方が偉くなれるなー……うーん……」
トウコさんは探偵になる気らしい。
まあ、スキル的には合ってるかもだけど、探偵って儲かるのかね?
「まあ、気長に決めてもいいし、後でやっぱりこっちって言ってもいいから。一応、確認しておこうと思っただけ」
というか、ランベルトのヤツがどういうつもりなのかがわからない。
あいつ、あっちの世界にまでついてくるって話もあったし。
「じゃあ、一応は日本に帰るってことにしておいて。どちらにせよ、親のこともあるし、一度は戻らないと」
とりあえずは2人共、帰還志望っと……
あとは…………
「ヴィルヘルミナ、あんたは戦争が終わってもランベルトの所? 南部には行かない?」
「そうですね。ここにいます。王妃様になります」
その辺は知らない。
「カルラはー?」
私は奥にいるであろうカルラに声をかける。
「私も許可を頂けるならば、ご主人様にお仕えします。よろしくお願いします、王妃様」
私が声をかけると、カルラがナツカとフユミの分の朝食を持ってやってきた。
「え、あ、はい…………じょ、冗談ですよ?」
ヴィルヘルミナ…………
さすがに苦しい。
その後、起きてきた東雲姉妹が朝ご飯を食べ終えると、ヴィルヘルミナと共に転移で南部に戻った。
ヴィルヘルミナは最後の最後まで冗談だと訴えていたが、カルラはまったく信じていないようでずっと怖い笑顔だった。
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