第102話 作戦会議inキール ★
一杯のワインで潰れてしまった東雲姉妹はカルラさんに背負われて、退場してしまった。
「まったく……あいつらはホント、成長せんな。ひー様が甘やかすからだろう」
ランベルトはしみじみと頷いているが、この人もじゃない?
1年間、一緒に住んでいたらしいけど、成長してないじゃん。
「ランベルト、それよりも状況を教えてくれ。俺がこの町に来た時にはすでに戦闘は終わっていたが……」
ジーク隊長がランベルトさんに聞く。
「ああ、それな。お前の部下があっという間に兵を蹴散らし、女神教の教会と兵の詰め所を占領してしまったんだよ。それであっさり降伏だ。獣人族の身体能力とマシンガンでは相手にならんかったし、それに加えて、空にはヘリが飛んでいるからな。兵の士気はすぐにゼロだ。まあ、基本的には市街戦になった時点で終わりだろう」
指示する者もいないし、兵士はどうしようなかったのだろう。
「住民の様子は?」
「まだ事態を呑み込めていない。まあ、明日、私が説明する。あのビラの通りと言えばいいだろう」
「それであっさり信じるのか?」
「私は貴族だ。平民共は納得するしかない。それに大司教のジジイが降ったことが良かった。多分、あっさり信じるぞ。まあ、平民なんかは自分達の生活が悪くさえならなければ、トップが変わろうと気にはせん。とはいえ、明日の朝になったらお前達は外で駐屯してくれ。この町にお前達は刺激が強すぎる」
まあ、私らだって、内閣総理大臣が変わろうと、政権が変わろうとあまり気にしないしね。
消費税が上がるのを気にするくらいだ。
「外か……」
「さすがにな……まあ、どうせ、すぐに進軍だから別に良いだろう。こんな町にいつまでもいても仕方がないし、さっさと中央を攻め、戦争を終わらそう。正直、俺は戦後の処理の方が大変なんだ」
「王になるんだったか?」
「陛下と呼べよ? 今はただの副官だがね」
この人、王様になるの?
圧政を敷きそうなんだけど……
「お前が王か……この前まで敵だったヤツが王とは複雑だな」
そういえば、この町と獣人族は争っていたわけだからランベルトさんとジーク隊長は敵同士だったわけだ。
「そんなつまらんことを気にするな。私はもとより、お前達のこともエルフも人族もどうでも良いのだ」
「随分とあっさりだな」
「教えてやろう。貴族は基本的に皆、そんなもんだ。感情に振り回されるのは2流よ。以前はお前達が敵だった。しかし、今は女神教が敵。俺のやることは何一つ変わらん」
さすがはエルフや獣人族と人族のハーフや問題児をメイドにしているだけのことはある。
「我らとしても無駄に争う気はない。ヒミコ様に厳命されているし、さっさと平和が欲しいのだ」
「皆、同じ気持ちだ。戦争で人が減れば税収が落ち、国力が下がる。さっさと終わらせるのが一番」
ジーク隊長とランベルトさんって、言ってることは一緒かもだけど、目的が全然違うみたい。
ジーク隊長とランベルトさんが話していると、ノックの音が聞こえてきた。
「ご主人様、エルフ族のエックハルト様がお見えです」
カルラさんの声だ。
「通せ」
ランベルトさんが入室の許可を出す。
すると、カルラさんと共に長身のエルフの男性が入ってきた。
「おー、エックハルト!」
どうやらジークさんの知り合いっぽい。
「ジーク殿、まずはおめでとうございます」
エックハルトさんは頭を下げて、今回の勝利の祝辞を述べた。
「うむ、お前のヘリも良かった」
「マイルも降伏したそうだし、このまま勢いに乗ろうぞ」
「そうだな。これから今後のことを話し合う予定だ。お前も参加してくれ」
「わかった」
エックハルトさんは頷くと、ランベルトさんを見る。
いや、見ているのはランベルトさんの後ろにいるヴィルヘルミナさんだ。
「知り合いか?」
ランベルトさんは後ろを振り向き、ヴィルヘルミナさんに尋ねる。
「いえ、エックハルトさんは南部のエルフです。私とは出身が違うですよ」
「ふむ……まあよい。勝手に仲良くしてくれ」
ランベルトさんは本当に興味がなさそうだ。
「ランベルト殿、そちらの同胞のことはヒミコ様に聞いている。ヴィルヘルミナだったか? とにかく、同胞を救ってくれて感謝する」
「そうだな。ひー様にカルラを取られたから代わりに奴隷市場で買ったんだ…………そういえば、もういいか。ヴィルヘルミナ、ちょっと来い」
ランベルトさんはエックハルトさんに説明していると、何かを思い出したかのようにヴィルヘルミナさんを呼ぶ。
「何でしょう?」
ヴィルヘルミナさんがランベルトさんに顔を近づけた。
「もうちょっと来い。届かんわ。ああ、そうそう…………動くなよ……ディスペル!」
ランベルトさんは左手でヴィルヘルミナさんの首根っこを掴むと、右手をヴィルヘルミナさんの首輪に当てた。
すると、ヴィルヘルミナさんの首輪が取れた。
「あ、そういえば、それがありましたね。ありがとうございます」
あれが所有者が奴隷を縛るための奴隷の首輪だろう。
あれを付けられると、命令を拒めなくなるらしい。
私もあれだけは注意しろと皆に通達した人権にケンカを売るマジックアイテムだ。
しかし、2人共、まったく気にしてないところを見ると、使われてはいないようである。
ランベルトさんはヴィルヘルミナさんから外した奴隷の首輪をじーっと見る。
「これをあのアホ姉妹に付けたら大人しくなると思うか?」
ランベルトさんがとんでもないことを言い出した。
「ご主人様、やめた方が良いかと……絶対に復讐されますよ」
「刺激をしない方が良いかと……何より、ヒミコ様が許しません」
まともな方のメイド2人がランベルトを止める。
「冗談だ。普段からナイフを仕込んでいるようなヤツを相手にしたくない。これは捨てておけ」
ランベルトは苦笑しながら首を振り、奴隷の首輪をヴィルヘルミナさんに渡す。
「さて、皆も揃ったことだし、今後の会議を始めようか」
ランベルトさんが仕切り直し、会議を始めた。
「そうだな。最終目標は中央だが、どういうルートで向かう? そういった地理に詳しいのはランベルト、お前だ」
ジーク隊長がランベルトさんに聞く。
「基本的にはまっすぐ行った方が良いだろう。寄り道すれば、その分だけ戦闘が増える。ならば、マナキスを行くルートだ」
「マナキス…………相当、大きい町と聞いているが……」
マナキスは奴隷市場がある町だ。
私達が絶対に近づかなかった町である。
「確かに兵力もある大きな町だ。だからこそ、絶対に落とさねばならん。逆を言えば、ここさえ、落とせば、後は中央のみ」
「うーむ…………」
発言のチャーンス!
「隊長、マナキスを無視して進むと、背後から襲われる危険がある。絶対に落とすべき」
いくら強力な兵器があろうが、大軍に挟撃されたらひとたまりもない。
「作戦参謀の言う通りだ」
ランベルトさんも同意してくれた。
「まあ、確かにそうだな。問題はどうやって落とすか……確か、領主はヒミコ様に殺されたのではなかったか?」
そういえば、幸福教団がマナキスで虐殺をしたり、領主を殺したって噂になってた。
「ああ、領主は死んでいる。だが、今は女神教の司教が代官を務めてる」
「知り合いか? お前は司祭と聞いているが……」
「知らんヤツだ。すなわち、貴族でもないボンクラだな」
司教って、司祭より上じゃないっけ?
「ボンクラかは知らんが、兵力の差は大きいぞ。どうする? 降った兵は使えんか?」
今度はエックハルトさんがランベルトさんに聞く。
「降った兵はすぐには使えん。お前らと連携が取れんし、ここの守りもある」
というか、一緒に行っても裏切りそうで怖い。
「ご主人様、このカルラがヒミコ様より作戦を承っております」
ランベルトさんの後ろに控えていたカルラさんが一歩前に出た。
「作戦? 何だ?」
「マナキスでは、奴隷商人のフランツがすでにヒミコ様に降っております。その者の所に奴隷と称して、我ら、獣人族のハーフをすでに潜伏させております。時機を見て、内部から攻めることができます」
奴隷商人まで降ってるのか……
「それはいいな。内と外から同時に攻めれば、敵は混乱する。しかも、ハーフってお前みたいに人族の見た目だったな? 反乱と思うかもしれんし、上手くやれば、同士打ちを狙える」
「しかし、危険では?」
「そうだ。内から攻めるのが効果的なのは確かだが、逆を言えば、逃げ道がない」
ランベルトさんは賛成のようだが、ジーク隊長とエックハルトさんは微妙だ。
「今こそ、ヒミコ様に魂を捧げる時です。何を怖れますか……たとえ、死しても我らの魂はヒミコ様と共にある」
優しそうなカルラさんが怖い顔で反論した。
どうやら、この人も狂信者のようだ。
「隊長、エックハルトさん達に空からマナキスの中枢を攻めてもらおうよ。ヘリで敵の大将を狙えば、敵はまず、そっちを対処しようとする。その隙に外と内で攻撃して、城門を破ろう。そうすれば、あとはマシンガンがあるこっちに分があるよ」
妥協案はこんなところだろう。
「うん、良い案だ。副官としても賛成だな。短期決戦で一気にやってしまう方が良い。もたもたしていると、中央から援軍が来る。そうなれば、南部にも動いてもらわねばならん。南部は南部での戦いがあるだろうし、迷惑になってしまうだろう。あと、俺の功績が減る」
ランベルトさんって、自分のことしか考えてないな……
これが貴族か……
「エックハルト、どう思う?」
「俺は慎重に事を運びたいと思うが、ヒミコ様は短期決戦をせよとおっしゃっていた。戦争が長引き、敵の被害が大きくなれば、ヒミコ様を恨み、弓を引く者が現れる」
「確かにそうだったな…………わかった。とはいえ、確実に事を運ぼう。ミスズ、ヒミコ様に戦車を出してもらいたいと伝えてくれ。正面から戦車で一気に城壁を破壊しよう」
ジーク隊長は作戦を決めると、ミスズに指示を出した。
「わかったわ。でも、リースさんが寝ちゃったから明日にする」
……あの人、寝るの早っ!
戦時中なんだから少しは頑張ってよ。
「それでいい。どうせ、戦車を出してもらうのはマナキスに着いてからだ。ランベルト、マナキスまでの道のりはどうする?」
「大丈夫。この先は飢えに苦しむヤツらしかない」
飢え?
飢饉かな?
「西部でも飢饉か? そんなことはなかったはずだが……」
ジーク隊長が首を傾げる。
獣人族は西部に住んでいたからその辺も詳しいのだろう。
「他所みたいに天候の影響で作物が採れなかったわけじゃない。マナキスの前領主が重税を課したんだ。あそこの領主は民から搾取することで有名な男だったからな。おかげで、いまだに下の者は苦しんでいる。だから放っておいても問題ない…………本当に無能でバカな男だったよ。重税は一時的には儲かるが、結果的に生産力が落ちて、損をするいうのに」
ランベルトさんが本当にバカにしたように鼻で笑った。
この人、有能かもしれないけど、友達はいなさそうだわ。
「では、まっすぐ行けるな」
「そうなる。ただ、進軍には3日ほどくれ。この町を静めさせねば謀反を起こされ、後ろから攻められる可能性がある」
「わかった。それまでは俺達は外で待機しておく。エックハルトもそれでいいか?」
ジーク隊長がエックハルトさんに確認する。
「俺達はもとより遊軍だ。先に行ってる」
「わかった。頼む」
「了解した。絶対に勝つぞ」
「ああ」
エックハルトさんとジーク隊長が握手をする。
「ご主人様もやられては?」
ヴィルヘルミナさんがランベルトさんに近づき、握手をするように進言をした。
「そんなもんはいらん。我らには勝利の女神がついている。我らが負けるわけはないのだ。どうして、幸福の神の加護を持つ我らが負けることがあろうか」
ランベルトさんが笑いながら言った。
「おー! ご主人様、すごい!」
「お前らは今後のことを考えておけ。俺が王になったら貴族にしてやろう」
「ごしゅ……陛下、ばんざーい!」
テンションが上がって万歳をするヴィルヘルミナさんを見て、カルラさんが苦笑いをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます