第098話 私は何を聞かされているんだろう?


『ひー様、爆撃に成功しました。中央神殿はがれきの山です』


 お告げを繋いでいる勝崎から作戦成功の報告が来た。


『ご苦労様。お前は南部に帰還し、そのままマイルの政庁を爆撃しなさい。その後は村上ちゃん達と合流し、マイル侵攻の指揮を取りなさい』

『はっ!』


 勝崎の返事を聞くと、私はお告げを切った。


「勝崎は成功したようです。敵の巫女は中枢と共に死にましたね」


 私は目を開けると、この場にいるミサとリースに告げる。


「お見事です。戦闘機による奇襲爆撃はすごいですね。あの無駄にしか見えなかった滑走路も役に立ちました」


 ミサがうんうんと頷いた。


「せっかく青木が作ったんだから活用しないとね」


 軍用ヘリでも良かった気がするけど……


「ひー様、大村さんから報告です。獣人族部隊は西部の森で進軍の準備を完了したそうです。指示があり次第、キールに向けて、進軍を開始するとのこと」


 大村さんの念話の受信係になっているリースが報告してくる。


「そのまま待機してなさい。勝崎が陽動部隊に合流次第、マイルを攻めます。それと同時に進軍を開始するように」


 キールに滞在しているランベルトも準備は出来ている。

 ビラを撒いたエルフ達も同時に各地でかく乱作戦を開始するだろう。


「了解です」


 リースは返事をし、目を閉じた。


「ひー様、今後の敵の動きはどうですかね?」


 ミサが聞いてくる。


「トップが死んだから好き勝手するでしょうね。自分の領地を守る者もいるでしょうが、大半は巫女の弔い合戦を称して、マイルに進軍でしょう」

「その隙に獣人族が西から攻撃するわけですか?」

「そうですね」


 マイルに進軍しなかった軍がいたとしてもエルフのかく乱部隊で対処できる。


「獣人族が中央を目指したらさすがに引き返す気がするんですけど……」

「そういった早馬はすべて処理します。ダメならマイルから追撃の軍を出します。後ろを見せた軍は弱いですしね」


 最悪は挟撃でいい。

 兵力は圧倒的な差があるが、兵器の力で十分に補える。

 まずは敵の補給部隊を潰し、兵站を断つ。

 敵は大軍が故にそこが弱点なのだ。


「そうなんですかー」

「まあ、王道戦法よね。こういうのはシンプルに行かないと」

「よくわかんないです」

「ヘリも戦車もあるこっちが有利ってこと」


 敵には軍に指示する者がいないから各軍の連携が取れない。

 下手をすると、同士討ちも起こしそうだ。


「ひー様、大村さんを通じて、ジークに指示をしました」


 リースが目を開け、報告してくる。


「了解。じゃあ、勝崎が戻るまでは休憩」

「トイレ行ってこよ」

「あ、私も」


 私が休憩を宣言すると、ミサとリースは仲良く連れションに行った。

 2人が会議室を出ていったため、私は広い会議室で1人になってしまった。


 さて、これで賽は投げられた。

 私がやることはもうない。

 前線の連中から報告を聞いて、天授のスキルで物資を送るくらいである。


「そろそろかなー」


 私は空いたこの時間を使って、中央で娼婦として働いているアケミを迎えにいこうと思った。

 アケミは主に客から情報収集をしていたが、戦争が始まった今はもう必要はない。

 むしろ、戦時中になると、危険だ。


 それにレベルアップし、神としての格が上がった私はもう転移の時間制限はない。

 さらに言えば、以前は知っている土地にしか飛べなかったが、今は会ったことがある人の近くに飛ぶことができる。

 私が行ったことも見たこともない中央の神殿に飛べたのはあの巫女と会ったことがあるからだ。


 私は飛ぶ前にアケミの確認しようと思い、目を閉じた。

 もし、お客さんとの接待中だったら嫌だしね。

 アケミの動画を見たこともあるが、直はさすがに遠慮したい。


『アケミー』


 私はなるべく明るく声をかける。


『はい、何でしょうか?』


 うん、アケミだ。


『戦争が始まったし、あんたを迎えに行こうかと思っているんだけど、大丈夫?』

『あー、そういうことですか……』


 ん?


『どうしたの?』

『いえ、中央では神殿が急に爆発したって大騒ぎなんですよ。ひー様でしたか……』


 そういうことね。

 そりゃ、騒ぎにもなるわ。


『そうね。勝崎が戦闘機を飛ばして爆撃したの』

『相変わらず、やることが過激ですね』


 ウチはカルトらしいからなー。


『そういうわけで迎えに行こうと思っているんだけど、大丈夫? お客さんがいる?』

『うーん、いると言えば、目の前にいますね』


 いるんかい!

 接客に集中しなさいよ!


『あ、お邪魔だった? 終わったらでいいよ?』

『いえ、お仕事をしているわけではありませんね』


 お仕事…………

 うん。


『何してんの?』

『話を聞いているというか、何というか…………』


 よくわからんな。


『イミフなんだけど?』

『うーん、幸福教団に降りたいって言ってますね』

『は?』

『お得意様なんですけど、私が教団員なことがバレていたようですね』


 大丈夫か、それ?


『どんなヤツ?』

『情報をよく流してくれていた大司教様ですね』


 大司教?

 聖職者っぽいのに娼館通いかい……

 いや、メイド好きのランベルトも司祭か……


『なんで降るの?』

『うーん、ひー様、こちらに来ていただけません?』


 まあ、迎えにいくのにそっちに行くつもりだったからいっか。


『わかった。じゃあ、そっちに行くよ』

『お願いします』


 うーん、巫女が死に、爆撃で勝てないと悟ったか、アケミから離れたくなかったか……

 まあ、前者だろうが、本人から聞いてみるか。


 私は椅子から立ち上がると、転移を使った。

 すると、私の視界が会議室からどこかの部屋に変わる。


 その部屋はそこまで広くはないが、無駄に大きくて豪華なベッドがある。

 そして、ベッドの近くには小さな丸テーブルと椅子が2脚だけ置いてあり、その椅子には相変わらず、腕に包帯を巻いた薄着のアケミと立派な白髭を生やしたおじいさんが優雅にお茶を飲んでいた。


 私は転移してきた私を見る2人を見た後に再度、ベッドを見る。

 ベッドはなんかしわが多いような気がした。


 …………事後かい。


 私は若干、文句を言いたい気持ちになったが、グッとこらえた。


「アケミ、久しぶりですね」


 大人(子供)な私は精一杯の笑顔でアケミに声をかける。


「ひー様、かわいい。顔を赤くしちゃって」

「ほっほっほ」


 こいつら、殴りたいな……

 ってか、何がほっほっほだ、エロジジイ!


「お前は?」


 私は笑っているエロジジイに尋ねる。


「私は女神教の大司教であるドミニクです。幸福の神にお会いできて光栄です。以後お見知りおきを」

「ドミニクね……覚えました。で? アケミから降りたいと聞きましたが?」

「ええ。そうなんです。私は長年、女神様に仕えてきましたが、この度、降ることを決意しました。そこで幸福教団のアケミにお願いしたのです」


 アケミがお得意様って言ってたしね。


「ふーん……よくアケミが幸福教団ということがわかりましたね?」

「すぐにわかりますよ。あなた方異世界人は特徴がありますからね」

「特徴?」

「見た目で言えば、黒髪、実年齢よりも幼い見た目。それに名前も変わっています」


 異世界人というよりも、日本人の特徴だね。


「他にもいるでしょう? 神殿にいる連中とか」

「見た目で言えば、どちらも若いですが、考え方や言動でわかります。あの子達は子供。アケミは大人です。それにスキルの有無でわかりますよ」


 まあ、アケミは酸いも甘いも噛み分けた大人だしね。

 まだ、25歳なのに。


「捕まえようとは思わなかったの?」


 敵じゃん。


「このような素晴らしい女性を捕らえるなどと…………ありえませんな」


 骨抜きにされとるし……

 歳を考えろや、ジジイ!


「お前、いくつです?」

「63ですな。ほっほっほ」


 ほっほっほをやめろ!

 ってか、63!?

 40近くも若いアケミに夢中になるなや!


「年相応な相手を見つけなさいよ……」

「年齢は関係ないですな」


 良い言葉かもだけど、ひどい言葉に聞こえるね。


「ドミニク様はずっと後妻になるように言ってくるんですよ」

「ほっほっほ」


 もうヤダ、このジジイ……

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