第091話 会議だよー


 ノゾミの書記官就任が決まり、夜に会議することを通達すると、その場は解散となった。


 私は2階の部屋に戻り、いまだにクリアできない1面をクリアするためにゲームをする。

 しかし、夜になって、ミサが迎えにくるまでにクリアできなかった……


 もうゲームはいいや……


 私はゲームを諦め、ミサと共に1階に降り、会議室に入る。

 会議室にはテーブルが2列に並べられており、すでに全員が揃っていた。

 左列には前からリース、勝崎、村上ちゃん、青木、氷室、前野が座り、右列は前から東雲姉妹、空席、ジーク、カール、エルナだ。

 そして、空いている席に座るだろうノゾミが皆が座っているところにお茶を配っていた。

 なお、東雲姉妹はテーブルに突っ伏して寝ている。


「起こしますか?」


 部屋に入り、東雲姉妹を見ていたミサが聞いてくる。


「寝かしときなさい。どうせ、いてもいなくても一緒です」


 じゃあ、呼ばなくてもいいと思うが、一応、幹部ではあるし、後でごちゃごちゃ言われるのも嫌なので呼んでいる。


 私は部屋の奥にある無駄に豪華な椅子に座ると、ミサがそばに控える。

 そして、ノゾミもお茶を配り終えたらしく、空席に座り、呆れたような表情で隣で寝ている東雲姉妹を見ていた。


 私は全員が席に着いたので、ミサを見る。


「これより、会議を始める! ひー様、どうぞ!」


 ミサが会議の始まりを告げた。


「さて、まずは今日、初めての人がいますね。知っているかもしれませんが、月城ノゾミさんです」


 私がそう言うと、ノゾミがその場で立ち上がる。


「月城ノゾミです! よろしくお願いします!」


 ノゾミは元気よく挨拶をすると、着席した。

 そして、再度、東雲姉妹を見る。

 もちろん、2人は寝たままだ。


「はい、よろしい。ノゾミは私のクラスメイトであり、とても仲が良かったです。ですので、密かに女神教に潜入させていました。この度、氷室と一緒に帰還しましたし、せっかくなので書記官に任じました。皆も仲良くするように」


 めっちゃ嘘だけど、こういうことにした。

 もちろん、ノゾミには通達済みである。

 多分、皆、嘘だろうなーとは思っているだろうが、特に異論はないだろう。


「幹部にするってことでいいんですか?」


 話を知っている勝崎が皆の手前、一応、聞いてくる。


「そうなります」

「了解です。異議はないです」


 勝崎がそう言って、皆を見渡すが、他の皆も異議はないようだ。


「よろしい。では、会議を再開します。先程も言いましたが、氷室、ノゾミの両名が中央の神殿での任務を終え、帰還しました。現在、中央では学校関係者同士が潰しあってくれていることでしょう。また、結城君達を逃しましたが、生徒会長は退場しました」

「ひー様、結城君達とやらって、ドラゴンをも退けたわけでしょう? 大丈夫です?」


 勝崎が聞いてきた。


「氷室」


 私は詳細を知っている氷室に振る。


「結城達は確かに強力なスキルを持っているが、それだけだ。攻撃力はあるから要注意だし、真っ向からやったら厳しいだろうが、どうとでもなるだろう。一番厄介な結界持ちの生徒会長殿がいないし、あいつらだけではどうにもできない」


 私もそう思う。

 どんな攻撃力があるスキルを持とうと、所詮は生身である。

 生徒会長の防御スキルがなければ、マシンガンでハチの巣だ。


「結城君達は今のところは捨ておきます。女神教を滅ぼした後に他の生き残りと共に指名手配でもして、残党狩りを行うつもりですし、その時にまとめて消えてもらいます」

「了解です。決戦はいつにしますか?」


 勝崎は頷くと、本題に入った。


「本日の会議のテーマはそこです。逆にいつ動けますか?」

「獣人族やエルフの鍛錬は順調ですし、やろうと思えばいつでもやれます。物資や食料もひー様が出してくださいますし、準備もいりません。あとは作戦と敵の動き次第でしょう」


 ふむ……

 準備はもういいのか……


「敵の動きは?」

「今のところ、大きな動きはありません。中央でのテロが効いているのでしょう」


 ハーフリング救出のための足止めだったが、別のところで役に立ったか……


「作戦は基本的に南部からの侵攻を囮にします。まずはマイルを獲り、敵を引きつけなさい。敵が軍をマイルに展開したら獣人族を使って、西部のキールを落とします。ここはランベルトが動くので簡単に落ちます。その後は中央を目指し、進軍です」

「我らだけか? 1000人程度だぞ」


 獣人族代表のジークが聞いてきた。


「もちろん、他も動かします。私の転移で兵を各地に連れていき、動いてもらいます。具体的な作戦はこれから詰めましょう。勝崎、ヘリを動かせる人数は?」

「俺とリースと氷室ですかね? エルフに教えたら出来るかもですが……」


 3人は少ないかもしれない……

 ましてや、リースは前線に出せない。


「ヘリって、操縦が難しいんですか?」

「免許を取ろうと思ったら難しいでしょうが、操縦自体はそこまで難しくないです」


 リースが普通に操縦しているくらいだしなー。


「カール、ヘリを動かす気はありますか?」


 私はエルフの代表であるカールに尋ねる。


「高い所が苦手なエルフはいませんし、問題ないと思います。希望者を募ってみましょう」


 そういや、あいつら、何が楽しいのか、しょっちゅう木の上に登っているわ。


「よろしい。勝崎、どれくらいの鍛錬時間がいります?」

「エルフは器用ですし、1ヶ月もあればいいんじゃないですかね?」


 1ヶ月か……


「となると、決戦はそれくらいですかね?」


 長々と時間をかける気はない。

 むしろ、時間をかけなければならないのは戦後だ。

 女神アテナを完全に殺すための残党狩りや人々の改宗がある。


「ひー様、篠田さん達はどうしますか? 帰還ですかね?」


 村上ちゃんが手を挙げて聞いてきた。


 あー、それがあったわ。

 生徒達は別にどうでもいいが、篠田さん達は頑張っているみたいだし、もう少しくらいは猶予をあげるか……

 その他グループのこともあるしね。


「決戦の日は3ヶ月後にしましょうか……私の転移のこともありますし」


 私の転移は15日に1回だ。

 各地に兵を送るにはちょっと待たないといけない。


「かしこまりました。3ヶ月後を開戦とし、作戦を練りたいと思います」

「頼みます。リース、お前も勝崎を補佐しなさい」


 作戦面ではリースがいるだろう。

 参謀だし。


「かしこまりました。早速ですが、人族の村にいるスパイと思わしき者を尋問しましょう。こちらの動きがバレる可能性があります」


 私の信者ではない者は村から出ることはできないが、ヘリの訓練をしていたらさすがにわかるか……

 でも、どうせ、尋問ではなく、拷問でしょ。


「尋問は不要です。そのためのノゾミなんですから」


 私がノゾミを見ると、リースもノゾミを見た。


「あー……なるほど。鑑定で所属がわかるわけですか」

「そういうことです。ノゾミ、お前はリース……はやめとくか。前野と共に人族の村に行き、私に降ってきた者の所属を確認してください。おそらく、女神教のスパイがいます」

「わかりました」


 ノゾミが素直に頷く。


「前野、健康診断と称して、ノゾミを連れて、人族の村に行きなさい」


 医者の健康診断なら自然と全員を見れる。

 さすがに断るヤツはいないだろう。


「わかりました。片方だけでよろしいですかな?」

「もちろんです。私の信者を見る必要はありません」


 私の子が私を裏切るわけがない。


「ちなみにだが、ノゾミ君、私を見てくれんかね? 役職だけでいい」


 前野がノゾミにお願いした。


「はい」


 ノゾミは頷くと、前野を見る。

 すると、ノゾミの目が青く光りだした。


「…………ヒミコ様の主治医ですね。あと、大学病院の准教授です」


 前野って、私の主治医だったんだ……

 確かに色々と診てくれてたけど、知らなかった。


「なるほど……確かに。素晴らしい力だ」


 前野が感心したように納得する。


「ノゾミ、ちなみにですが、エルナは見れますか?」


 私は一応、確認しておこうと思った。


「えっと…………」


 ノゾミはエルナをじーっと見る。


「…………すみません。わかりません」


 ノゾミが目を元に戻し、私に謝ってくる。


「いえいえ。確認です。やっぱり神は見れないのですね」

「そらそうでしょ。神様だよ?」


 エルナがドヤ顔をする。


「そうだとは思ったんですけど、お前なら見れるかもと思ったんですよ」

「どういう意味!?」


 そういう意味だよ。


「他にありませんか?」


 私は皆を見渡す。


「おーい、どういう意味ー?」


 うるせーな……


 私はエルナの前にオレンジジュースを出す。

 すると、エルナは黙ってジュースを飲みだした。


「他にはありませんね?」


 私は再度、皆を見渡す。

 全員、特にないようだ。

 いまだにメイド服を着た2人はテーブルに突っ伏しているけど。


「ないようですね……」


 私はチラッとミサを見上げた。


「会議は以上! 決戦は3ヶ月後とする! 諸君はそれぞれ準備を進めるように! では、解散!」


 ミサが皆に解散を告げる。

 なお、これがミサの最大の仕事だったりする。


 いらない?

 いるよ……


 皆は席を立つと、部屋を出ていった。

 この部屋に残っているのは私とミサとリース、寝ている東雲姉妹、そして、ノゾミだけだ。


「あのー、私って、どこで寝るんです?」


 ノゾミが聞いてくる。


「ここの2階に部屋があるからそこ。ミサ、案内してあげて。私はナツカとフユミを起こすわ」


 いつまで寝るんだ、この姉妹は……


「わかりました。月城さん、こっち」

「あ、うん」


 ミサとノゾミが部屋を出ていくと、私は椅子から立ち上がり、ナツカとフユミのもとに行く。


「2人共、会議は終わったわよ。起きなさい」


 私は2人を揺する。


「…………お姉ちゃんはプリンじゃないよぅ」

「…………リース、杖の使い方を間違ってるぞぉ」


 2人はむにゃむにゃと寝言を言い、起きない。

 だが、リースがすたすたとこっちに歩いてくると、フユミの頭を殴った。


「――え!? 何!?」


 フユミが飛び起き、周囲を見渡す。


「言うなって言ってんだろ!!」

「何が!? え? マジで何なん!?」


 フユミは状況をまったく理解できていない。

 そらそうだ。


「フユミ、ナツカを起こして。ご飯にしましょう」

「え? 会議は? まだ、皆、来てないの?」

「会議は終わりました」

「あ、そうなんだ…………おーい、姉貴ー。起きろー」


 フユミはナツカを起こそうとする。


「……………………」


 起きないことで有名なナツカはまったく起きない。


「ひー様、レモンティーない?」

「よしなさい。ナツカがかわいそうでしょ」


 多分、ブチギレると思う。

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