第087話 衝撃の事実 ★
俺は何も理解できずにただただ周囲を見渡している。
多くの兵士達が寝ているように見えるが、よく見ると、全員がまったく動いていない。
寝ているのではなく、死んでいるからだ。
俺は状況をまったく理解できないでいると、ふと、アキラとミヤコと会長のことが脳裏に浮かんだ。
「まさか!?」
俺は急いで俺達のテントが並んである場所に戻った。
そして、1つのテントに声もかけずに入る。
そこにはミヤコがピクリとも動かずに横たわっているのが見えた。
「――ッ! ミヤコ! ミヤコ!!」
俺は慌ててミヤコのもとに行き、身体を揺する。
「うーん、なーに? もう朝……? って、は!? 何してんの!?」
ミヤコは生きていた。
「よ、良かった……」
「いや、良くないわよ!! 出ていきなさい!!」
ミヤコをよく見ると、非常に薄着であった。
あ、やばい……
「わ、悪い。でも、それどころじゃないんだ! 兵士が死んでいる!」
ミヤコには悪いと思うが、今は事情事態だ。
「はい?」
「詳しくは後で話す! ミヤコは着替えたら会長の所に行ってくれ! 俺はアキラを起こす!」
俺は混乱しているミヤコに一方的に告げると、テントを出て、すぐ近くのアキラのテントに入る。
テントに入ると、アキラは頭を抱えて唸っていた。
良かった……
アキラも生きている。
「アキラ!」
「痛っつー……大声を出さないでくれ。頭が割れるように痛い……」
どうやらアキラも二日酔いのようだ。
俺はそんなアキラを見て、自分も二日酔いで頭が痛かったことを思い出した。
「飲みすぎたんだよ。それより、聞いてくれ。兵士の人が皆、死んでいる」
「は? 何言ってんの?」
「俺だってわからん。早く起きてくれ。外で待ってる」
俺はテントの外に出ると、近くにあった椅子に座る。
良かった……
とりあえず、ミヤコとアキラは無事だった。
あとは会長か…………
いや、氷室もか。
しかし、どうして兵士が……
俺が悩み、頭を整理していると、アキラがテントから出てきた。
「あー、頭が痛いわー……」
「アキラ、周囲を見てみろ」
「周囲……? 皆、寝てる…………飲みつぶれたんじゃね?」
アキラは周囲の兵士たちを見ながら聞いてくる。
「俺も最初はそう思った。だが、全員、死んでいる…………」
「…………マジ?」
「ああ、俺も理解できていない……」
「……………………」
アキラは閉口してしまった。
俺達がその場で何もしゃべらずにいると、ミヤコがこちらに走ってくるのが見えた。
「ヤマト、会長がいない!」
「え?」
俺はてっきりアキラとミヤコが無事だったから会長も当然、無事なものかと……
いや、待て。
死んでいるんじゃなくて、いない?
「テントにいなかったのか?」
「うん。誰もいなかった。荷物もそのまんま」
荷物がそのままということは自主的に出た可能性は低い……
「ミヤコ、冷静に聞いてくれ。周囲の寝てるような兵士たちは皆、死んでいる」
「え……? 寝てるんじゃないの? 昨日の宴会で潰れちゃって…………そんな!」
ミヤコは周囲を見渡していたが、遠目からも様子がおかしいことに気付いたのか、目を見開き、手で口元を抑える。
「ど、どういうことだよ! 起きたら兵士が死んでて、会長もいないってさ!」
アキラが発狂したように声を出す。
「俺だってわかんねーよ!」
俺はイラっとし、言い返した。
「2人共、落ち着いて! まずは会長を探そうよ!」
ミヤコが俺とアキラの間に入り、止めてくる。
「わ、悪い」
「確かにミヤコの言う通りだ」
ここでアキラとケンカしている場合じゃない。
「ひとまず、俺も会長のテントを見たい。何か手掛かりがあるかもしれない」
「そうだな」
「うん……こっちだよ」
俺達はミヤコに案内され、会長のテントに向かった。
会長のテントに入ると、確かにカバンが残されているが、会長の姿はない。
「どこ行っちゃったんだろ……」
ミヤコがポツリとつぶやく。
「ヤマト、俺は氷室のテントを見てくる」
そういえば、まだ氷室を確認してない。
アキラに任せるか。
「頼む」
「ああ」
アキラがテントに向かったので俺は会長のカバンを見た。
「ミヤコ、会長には悪いが、カバンの中を確認してくれ」
「うん……わかった」
ミヤコは会長のカバンを開け、中を確認する。
「あれ? 本が入っている…………というか、本しかない」
本?
「例の魔法書か?」
「いや、違う。何だろう? 読んでもいいかな?」
うーん……
「悪いが、見てみよう。今は何でもいいから手掛かりが欲しい」
「そうね」
俺とミヤコは一緒に本を開き、読んでみる。
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結城、安元、風見へ
お前達がこれを読んでいる時は何らかの理由で私はそこにいないと思う。
私はお前達にとんでもないことをしてしまった。
ここに書かれていることはすべて真実であり、動揺せずに最後まで読んでほしい。
結論から言うが、私は幸福教団に降っている。
心から降ったわけではないが、妹のヨモギを人質にとられたため、こういう形となってしまった。
裏切り者とののしってくれてもいい。
そして、ここからが重要な話になる。
まず、氷室は幸福教団を裏切ってはいない。
あいつは狂信的なヒミコの信者であり、私達のもとに偽りの降伏をし、こちらの情報を幸福教団に流していたのだ。
まあ、ここはたいした驚きではないと思う。
問題はここからだ。
これは私のミスでもあるのだが、月城はお前達を裏切っている。
あいつは心が弱く、現状に耐えることができずにヒミコに降伏した。
私のように脅されたわけでもなく、自ら降ったのだ。
そして、あいつは完全に心をヒミコに持っていかれた。
信じられないと思うが、事実だ。
あいつは氷室と共に裏で工作をしているし、もはや、完全にヒミコの信者になってしまっている。
私がもう少し、あいつに気をかけてやればこうはならなかったのだが、悔やんでも悔やみきれない。
本当にすまない。
おそらく、ショックを受けているだろうが、話を続ける。
今、お前達は生き残っているだろうが、兵士達は死んでいると思う。
そいつらは氷室が食事に毒を盛り、殺した。
本当はお前達も殺す予定だったのだが、私がこっそり食事を入れ替えた。
兵士達の死を気に病むかもしれないが、気にしなくていい。
そいつらはドワーフを皆殺しにした悪魔だ。
もっと言えば、お前達を酒で潰し、殺す予定だったのだ。
理由はドラゴンの魔石だ。
あれは高値で売れる。
だから殺し、奪う予定だった。
だからお前達はこのことを気にするな。
それよりも大事なことを話す。
お前達はこれから神殿に帰還しようと考えているかもしれないが、それはやめろ。
お前達が神殿に戻るころにはすでに神殿は戦地になっていると思う。
これは氷室の工作により、間島のグループが私達のグループを襲うからだ。
間島のグループは氷室が流した薬で狂ってしまっている。
そして、その原因をお前達のせいにされている。
だから、お前達の留守を見計らって襲撃する手はずになっているそうだ。
大事なことだからもう一度言う。
中央の神殿には戻るな。
どこかに隠れながら日本への帰還の素材を集めろ。
あの魔法書も幸福教団が流したものだが、幸いなことにあれは本物だ。
何とか素材を集め、日本に帰還してほしい。
私はこれから氷室と共に月城と合流し、南部に向かう。
そこでヨモギを救出し、ヒミコを討つ。
幸福教団はヒミコさえいなくなれば、壊滅する組織だ。
あの悪魔さえ討てば、それで終わる。
間違っても、私や月城を救おうなどとは考えるな。
おそらく、私は死ぬだろうし、月城はもう手遅れだ。
また、次のページからは私なりに掴んだ幸福教団やヒミコの情報を書いておく。
もし、何かあれば、参考にしてほしい。
最後にお前達に謝罪と感謝を書く。
裏切ってしまってすまない。
そして、今までありがとう。
辛いことばかりだったが、お前達といられて楽しかった。
さようなら
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俺とミヤコはこれを読んで何も言えなかった。
ただただ固まっていた。
「ヤマト、氷室もいないぞ」
後ろからアキラの声が聞こえる。
「だろうな……」
「うん……」
俺とミヤコが頷く。
「どうした?」
「これ…………」
ミヤコが立ち上がると、本をアキラに渡す。
俺はその様子を夢見心地で見ていた。
ダメだ。
思考がまとまらない。
どうして……
何が起きているんだ。
会長やノゾミが裏切り?
ドワーフは滅ぼされた?
わからない。
内容がうまく頭に入ってこない。
「…………なあ、これ、どういうことだ?」
会長の本を読み終えたアキラが顔を上げて聞いてくる。
「わからない」
「そうか…………」
俺も2人も現状を理解できていない。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
皆、黙ってしまった。
「…………私の考えを言ってもいいかな?」
ミヤコが静寂を破った。
「ああ、頼む」
「ふう…………これは事実だと思う」
ミヤコは一度、息を吐くと、言葉を紡ぎだす。
「どうしてそう思う?」
「一から話すね。まず、ドワーフの件だけどね。私も不思議に思ってたことがある。昨日、兵士さん達を治療したんだけど、傷がね、刃物で切ったような傷が多かったの。あのドラゴンと戦ってあんな傷はつかない。あれは…………多分、ドワーフと戦ってついた傷」
…………なるほど。
つまり、本当に今回の作戦はドワーフ救出ではなく、討伐だったのか。
そう思うと、確かにそうかもしれない。
あの女神アテナがドワーフを許すわけがない。
「そっか…………」
「それと…………ノゾミンのことだけど……」
ノゾミの名前を聞いて、心がチクッとした。
「言ってくれ」
「覚えているかな? 一時期、ノゾミンがヤバかった時期があったでしょ?」
「あったな……」
よく覚えている。
「怒ったと思ったら笑い、急に泣き出すやつな」
さすがに忘れるようなことじゃないのでアキラも覚えているらしい。
「でも、急に元気になったでしょ? あの時だと思う。あの時、ヒミコに心を奪われたんだと思う。実際、あの時から血色も良くなったし、匂いが…………」
「匂い?」
「ソープの匂いって言うのかな? こっちの世界の石鹸の匂いじゃなくて、あっちの世界の匂い。今思うと、あれはヒミコからもらった物なんだと思う」
この辺は女子にしかわからないかもしれない。
「じゃあ、ノゾミは本当に?」
「多分…………だって、今回の作戦だって、ノゾミンなら絶対についていくってごねてると思う。でも、やけにあっさり引き下がった」
確かにそうかもしれない。
「そうか…………」
俺も何とかノゾミを元気づけようとしたが、ノゾミには響いていなかったらしい。
「これからどうする?」
アキラが聞いてくる。
「どうするって…………中央に戻ろう」
「会長は戻るなって言ってるけど?」
「神殿には戻らない。だが、どうなっているのかを確認したい。それに俺達は会長に頼りすぎていた。だからこんなことになるまで気付けなかったんだ…………情報を集めよう。現状を知り、これからどうするかを考えた方がいいと思う」
今思えば、不自然なことはいっぱいあった。
でも、思考を止めてしまっていた。
だからこうなったんだ。
「馬も死んでるけど、歩くか?」
「歩くしかない。2人共、使えるものを集めよう。金でも武器でも食料でも何でもだ」
毒のことがあるから食料はきついかもしれない。
「わかった。急ぐか」
「だね。今は身体を動かそう。じゃないと、頭がパンクしそう」
俺もだが、2人共、まだ心や頭の整理はできていないと思う。
だけど、動かないといけない。
何をするにしても時間はないし、ここから中央まで馬車で10日もかかるのだ。
俺達はそれぞれ別行動で荷物を選別し、整理しだす。
会長、ノゾミ、すまない。
俺がもうちょっとしっかりしておけば、こんなことにはならなかった。
そして、幸福教団…………
お前達は絶対に許さない!
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