第082話 幹部会議


 岸さんとアキト君に南部に来るように伝え、篠田さんと鈴木に後のことを任せた私は高橋さんに身体を返した。


「あ、戻ってきた」

「どうでしたか?」


 私が目を開けると、ミサとリースが私の顔を覗きこんでいた。


「別のクラスの岸さんとアキト君の勧誘に成功しましたね」

「誰です?」


 同学年だが、ミサは知らないらしい。


「岸さんはともかく、アキト君はわかるでしょ。1年の時に同じクラスだったじゃん」


 私、ミサ、アキト君は同じクラスだったはずだ。


「覚えてないです。苗字は?」

「知りません」

「いや、ひー様も覚えてないじゃないですか」


 顔を見れば、そういえば、いたなーって思っただけで、名前は憶えていない。

 そして、アキト君も自己紹介をしていないし、岸さんも紹介してくれなかった。


「ひー様、それよりも男子生徒で大丈夫です?」


 リースが聞いてくる。


「大丈夫よ。変な人じゃないし、岸さんの彼氏というか、旦那さん」

「旦那? え? 結婚したんですか? 一応、高校生ですよね?」

「というか、もうすぐでパパね」

「えぇ……」


 リースがドン引きしている。

 こいつは小学生レベルだからなー。


「デキちゃいましたかー。まあ、避妊具もロクにないでしょうし、彼氏彼女なら仕方がないでしょうね」


 ミサは大人だ。

 さすがはドロドロの夢小説を書いているだけのことはある。


「めでたいことではあるので祝福してあげましょう」

「そうですね。ちょっと早いですが、本人達が納得して幸せならそれでいいと思います」


 ミサは良いことを言うなー。


「リース、一応、前野に岸さんを見せますが、前野は産婦人科の医者ではないので、お前の転移で病院に連れていってあげなさい」

「マジかー……未成年なのにぃ…………」


 リースはまだショックを受けている。


「あんた、鈴木のリアクションとほぼ一緒よ」

「うわっ…………あのガチャ廃人と一緒……」


 鈴木はソシャゲで借金を負ったことがある。

 私が肩代わりしてやったが……


「いいですか? この世界の医療レベルでは出産は危険です。ましてや、岸さんは17、8歳なんですよ?」

「だったら作るなよって思うのは私だけです?」

「若いんだからヤリたくもなるでしょ。ただでさえ、娯楽の少ない世界なんだから」

「ひー様、はしたないですよ!」


 パンツを盗んだあんたに言われたくないわ!


「あんたは一度、性教育をした方がいいわね。偏った性知識のせいで歪んでるわ。それよか、岸さんを産婦人科に連れていきなさいよ」

「大丈夫です? 行方不明者ですよ?」

「教団の伝手で闇医者とかいないの?」


 どうせ、いるでしょ。


「いますけど、産婦人科はどうですかね?」


 ホントにいるんかい!


「芸能関係であるでしょ。紹介してもらいなさい」

「わかりました。聞いてみます」

「あとは迎えにいってあげないとね。また、村上ちゃんを呼ぶか……」


 さっき仕事に戻ったばっかりだけど、仕方がない。


「ひー様、勝崎達が戻ったら幹部会議をしては? 色々と報告や確認もあるでしょうし、今後のこともあります」


 確かにリースの言う通りか……


「わかりました。夜にバーベキューをしながら会議をします。幹部とジーク、それとカールも呼びます…………あと、エルナもか」


 幹部会議だが、今後のことも話し合うなら他種族の代表もいた方が良いだろう。


「了解しました。そのように連絡します」

「おねがい」


 さて、ゲームを再開するか。

 一面くらいはクリアしたい。




 ◆◇◆




 夕方になり、空も徐々に暗くなってきた。

 そんな中、肉や野菜、魚介類を焼いている網を囲むように皆が椅子に座っている。

 メンバーは私、ミサ、リース、東雲姉妹、勝崎、村上ちゃん、青木、前野、ジーク、カール、エルナである。


「さて、適当に摘まみながらでもいいし、飲みながらでも構いません。会議を始めましょう」


 私がそう言うと、東雲姉妹とエルナが焼けた肉の奪い合いを始めた。


「そこの3名は無視するように…………いや、待て。エルナ」


 私はちょっと悩み、エルナに声をかける。


「なーに? この肉、美味しいね!」


 良かったね。


「立ちなさい」

「行儀悪いよ?」

「肉を置きなさい」

「えー……はーい」


 エルナは肉とタレが入った器を置くと、立ち上がった。


「皆、こちらのかわいらしい女の子がエルナというハーフリングの神です。はい、自己紹介」

「エルナだよ! 平穏の神だよ! どっかの邪神とは違って、本当に良い神だよ…………って、なんだ、そのロープは!? 手ごろな木を探すな! 吊るそうとするなよ!」


 だったら、静かにしてなさい。


「見た目通り、弱っちい神ですが、一応は神です。敬意を持って接するように」


 私がそう言うと、皆が頷いた。


「はい。もう結構です。肉を食べてなさい」

「はーい! って、この双子メイド、ボクが育てた肉を食ってるし!」


 ホント、静かにしてよ……


「はい。では、会議を始めます。まずは報告です。知っての通り、ハーフリングはエルナごと、私がもらいました」

「おめでとうございます。これで3種族がひー様に降りましたね」


 勝崎が代表して答える。


「そうなります。ですが、やはり東部でも飢饉が起きていました」

「東部もですか…………」


 カールが俯いて、つぶやいた。


「ひー様、どうやら南部から東部にかけて、大規模な飢饉のようですね。マルクス殿、アルバン殿からも食糧の援助をお願いされています」


 勝崎にはこの辺一体を任せているので、そういう情報も入ってきているようだ。


「確か、マルクスとアルバンの領地は東部と南部の間でしたね。以前、雨が少なくて、作物が育たなかったという話を聞いているし、大変なんでしょう…………すぐに送りなさい。それと周辺の領地にも援助しなさい」

「マルクス殿、アルバン殿以外は降っていませんよ? 敵に塩を送る気ですか?」

「マルクス、アルバンの話では南部はそこまで女神教の力が強くありません。食糧を援助し、恩を売っておけば、私達が挙兵しても敵対はせずに理由をつけて静観するでしょう。そして、情勢が決すれば、自ずと降ってきます」


 戦わずして勝つ、これが最上。


「わかりました。すぐに手配します」

「よろしい。次にですが、篠田さん達と鈴木が勧誘の旅に出たのは知っていますね? 早速ですが、マイルの町で2名ほど勧誘しました」

「へー。上手くいくもんっすね」


 勝崎が軽く答える。

 だが、その表情は明るく、村上ちゃんだけでなく、勝崎も生徒達を気にしていたので、嬉しいのだろう。


「まあ、私も手伝いましたし、事情がありましたから。というわけで村上ちゃんと前野は明日、マイルの町まで2人を迎えにいってください」


 私がそう言うと、村上ちゃんと前野が顔を見合わせた。


「私達ですか? 私は良いんですけど、前野先生もでしょうか?」


 村上ちゃんが手を挙げて確認してくる。


「その2名は男女1名ずつです。ご夫婦になられたそうですよ。もっと言えば、親になるようです」

「へ?」


 村上ちゃんが変な声を出した。


「お前達より大人ですね」


 こいつらは揃いも揃って、独身貴族だ。


「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」



 あ、暗くなった。


「コホン! とにかく! 2人は迎えにいってくださいね!」

「わかりました」

「…………はい」


 前野は普通だが、村上ちゃんがへこんでいる。

 そういえば、微妙なお年頃だったわ。


「私からは以上です。青木、私の社を作ったと聞きましたが?」


 私は岸さん、アキト君の話を聞いて、ビールをイッキしている青木を見る。


「あー、はい。超特急で作りましたね。エルフや獣人族から祈るっていうのがよくわからないし、祈る先を作ってほしいと言われましたんで」


 あー、確かに神社やお寺、教会のようなところがあった方がわかりやすいのか。


「なるほどね。まあ、良いんじゃないですか?」

「ひー様の寝所とか色々作りましたんで、よろしければどうぞ」

「寝所まで作ったの?」

「ひー様はキャンピングカーを気に入っているかもしれませんが、組織のトップがいつまでもそこで寝泊まりされるとちょっと…………ましてや、神様でしょう?」


 それもそうだ。

 威厳がない。


「わかりました。明日、行ってみます。案内しなさい」

「了解っす!」


 まあ、当分はこの地でゆっくりするつもりだし、ちょうどいいかもしれない。


「では、次です。勝崎、新たに建設中の人族の村はどうです?」


 この会議の本題はこれだ。

 これまでの話はわざわざ皆を集めて話すことじゃない。


「正直、難儀しています。こちらも人員をある程度、出しているのですが、足りていません」

「避難民にやらせなさい」


 前にそう言ったじゃん。


「避難民の中には余裕のない中でなんとか手伝おうとしてくれる者もいますが、大抵はまったくやる気がないお客様タイプとやけに積極的に重機等を使わせてくれと訴える者に分かれています」


 わかりやすいな、おい!


「避難民のリストの作成は?」

「作っています。こちらです」


 勝崎は立ち上がると、私の所に来て、ノートを渡してきた。

 私は受け取ったノートをパラパラとめくっていく。

 ノートにはずらっと人の名前が書いてあった。


「この名前の横に丸が書いてあるのが、さっきの積極的な人ですか?」

「そうなります」


 すげー。

 丸がついている人間は軒並み、私の信者リストに名前がない。


「ふむふむ」


 私はペンを取り出すと、1人1人をチェックしていく。

 私が黙々とチェックしていると、皆はバーベキューのお肉や野菜を食べたり、お酒やジュースを飲んだりして楽しんでいる。

 もちろん、ミサとリースもだ。

 悲しいね。


「えーっと、こいつも、こいつも、こいつもかい…………」


 多いな……

 これはスパイもいるが、幸福教に入信するというより、ご飯を食べたいとか、楽して生きたいって考える連中も多そうだわ。


「よし! こんなもんかな!」


 私がそう言って、ノートを閉めると、勝崎が立ち上がり、こちらにやってきた。


「はい。信者とそうでない者に分けたわ」


 勝崎はノートを持って、自分の席に戻ると、ペラペラとめくり始める。


「信者、少ないっすねー」


 多分、2割か3割程度だと思う。


「まあ、そんなもんでしょ。まだ私のありがたさを理解してないからね。勝崎、青木、悪いけど、村をもう1つ、作りなさい」

「マジっすか? 木の運搬が大変なんですけど……」

「さすがに人手が足りません」


 勝崎と青木は無理無理と手を横に振る。


「もう1つの村は柵を作るだけでいい。そっちは仮設住宅を出します。要は私の信者とそうでない者を分けます」

「信者には贅沢をさせるってことですか?」


 趣旨を理解したであろう勝崎が聞いてくる。


「贅沢というほどではありません。仕事をしてもらいますし、堕落させるつもりもないです。ただ、衣食住は保証するわ」


 幸福とは堕落させることじゃない。

 仕事をすることは大変だが、幸福には欠かせないものなのだ。


「片方に不満が出ません?」

「それが目的です。何故、差別があるのかをきちんと教えなさい。私に従わない者はいらない。私を愛せない者は野垂死ね。それで武器を取ったら容赦なく処分しなさい」


 その状況で武器を取る者は盗賊崩れだろう。

 いらない。


「了解っす。家族で分かれたらどうします?」

「選ばせなさい」


 それで答えは出る。

 岸さんとアキト君と一緒。


「ヒミコ様、ちょっといいか?」


 私と勝崎が話していると、ジークが割って入ってきた。


「なーに? お酒が足りないなら出すよ」

「いただこう。いや、それは後だ。それよりも、俺達、獣人族もだが、エルフ、それに新しく来たハーフリング達との関係はどうする気だ? 人族は差別意識を持っているだろうし、こちらも警戒を解くことはできん」


 それはそうだろうね。

 特に獣人族は戦争状態だったし、双方に思うところはあるだろう。


「その意識を変えるには相当な時間がかかると思ってください。数十年、いや、100年を超えるかもしれません。この世界が幸福教のみとなれば、差別や争いは消えます。ですが、お前達や現在の人々が生きている間にその意識を完全に取り除くことは厳しいです。差別が消えるのは新しい子供世代が中心になった時だと思いなさい。それまでは必要以上に交わる必要もないですし、交易等で徐々に交流を深める程度に留めなさい。間違っても、いきなり距離を詰めたり、今までの復讐だと思い、無駄に偉ぶったり、攻撃してはいけません。それをすれば、お前達の子供世代が苦労します。それをよく覚えておきなさい」


 確執がいきなり消えることはない。

 消えるのは次の世代かその次くらいだろう。

 こればっかりは焦ってはいけない。


「了解した。皆に周知しよう。長老殿とエルナ様もよろしいか?」


 ジークがカールとエルナに確認する。


「我らもそれで構いません。元より、生活圏は森ですし、長寿の種族です。気長に待ちます」

「ハーフリングもだね。というか、教団員同士の争いはダメじゃん」


 エルフとハーフリングは問題なさそうだな。


「ジーク、強者ならば余裕と風格が大事です。お前達はそれを絶対に忘れないように。そして、お前達にはこのヒミコがついていることを脳裏に刻みなさい。前にも言ったでしょう? お前達の敵はすべてこの私が排除します。お前達に敵はいません」

「…………承知しました。感謝します。すべてはヒミコ様のために」


 うんうん。

 さあ、飲め、ライオンキ〇グ!

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